からっ風と、繭の郷の子守唄(97)
「次の日の朝、康平をめぐる女3人が何故か勢揃いをする」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/1d/21973fe32b49b263c897978a0e75024e.jpg)
その翌朝。
緊急外来の当直を終えた昨夜の女医先生が、病室へ顔を出しました。
「顔色が、とても良くなりました。
とても理知的な目をしていますので、それだけあなたは、心が敏感すぎるのかもしれません。
入院中の4~5日は、私があなたの担当医です。
久しぶりの当直でなにやら肩が凝りましたが、家に帰れば邪魔をする者が居ませんので、
貴方たちと同じように、心おきなくゆっくりと眠れます」
「あら。どうして私に邪魔者がいないとわかるのですか?」
「あなたの指に、婚姻を示す指輪はありません。
同様に付き添いの男性の指にも、指輪などは見当たりません。
さしずめ仲の良い兄弟か、品行方正にお付き合い中の間柄と、お見受けしました。
医者は初見で、より詳細に患者さんを観察するというのが商売です。
あなたのように繊細な病気の場合には、その周辺環境にもさりげなく探りを入れます。
ではまた明日、元気に、お会いしましょう」
昨夜同様、乾いた靴音を響かせて女医先生が、廊下を立ち去っていきます。
呆気にとられた貞園と、ものの見事に言い当てられた康平が、病室で苦笑いを交わしています。
「どれ。コンビニで朝飯でも調達をしてくるか。
なにか欲しいものであるか、貞園」
「目覚めの苦いコーヒーと、こんがりと焼いたトースト。
昨日のスポーツの結果が分かる新聞と、朝の贅沢といえば、やっぱり、おはようのキス」
「新聞以外は、すべて速攻で却下。
朝からそれくらいの茶目っ気があれば、もう本来の貞園に戻ったようだ。
ゆっくり待っていろ。俺にも朝の支度というものがある」
「ベッドでの戦争に備えて、シャワーを浴びるとか、勝負パンツに履き替えてくるとか、
男にもいろいろと準備は必要ですものね。うふっ」
「いい加減でお前も、そのくだらない妄想と煩悩から離れろ。
入院に必要なものはすべて千尋がもってくるし、ついでに美和子へ連絡を入れておこう。
会いたいだろう、旧知の友人に」
「全部、康平の意中の女ばかりじゃないのさ。よく考えてみたら・・・・
あれ。いつのまにか美和子も千尋も、馴れ馴れしく、呼び捨てに変わっています、康平くん。
ははぁ、・・・もう全員と、そういう(肉体の)関係ができているのか。
手が早いわねぇ。まったくもって、油断も隙もない男ですねぇ。私の兄貴は!」
「いい加減にしないと、2度と病室へ戻ってこないぞ。
ついでに、妹の縁もたった今から切り捨てる!」
ペロリと赤い舌を出した貞園が、布団を引き上げそのまま頭から隠れてしまいます。
(まったく。ちょっと元気になったと思うとすぐあの有様だ。やんちゃすぎて、手に負えん)
音を立ててドアを閉めた康平が、ポケットを探り携帯電話を取り出します。
長い間にわたり病院内での携帯電話の使用は、自粛ということで規制されてきました。
使用を自粛させる目的は、医療器具への誤作動とアナウンスをされてきましたが、
最近になり、解除の方針をとる病院が増えてきました。
携帯電話により医療器具へ不具合を起こすという可能性は、技術的に存在しないとして、
医療学会などから、携帯電話解禁の動きが目立つようになってきたためです。
(こちらから美和子へ電話するのは、久しぶりだな)
数コールの後、『はい。美和子です』と低い声での応答が返ってきました。
(あれ、寝起きの声のようだが?。体調不良かな?・・・・妙に、低い声だ)
意表をつく美和子の低い声に、思わず康平が逡巡をしてしまいます。
「失礼だわね。康平ったら。
自分から用事があってかけてきたくせに、無言とはいったいどういうつもりなの。
どうしたの。こんな朝早くから」
「あ、いや。体調が悪いのかと思って、少しばかり電話口で躊躇しちまった」
「電話くらいなら、いつでも出られます。
風邪気味だけど、お薬は飲めないの。その理由はあなたもよく知っている通りです。
今日は病院へ行く予定の日ですから、ついででよければ、康平のお店へ顔を出します。
それとも、もっと急を要する、別の用事なのかしら」
「相変わらず、君は察しがいい。
実は昨夜。貞ちゃんが過呼吸の発作を起こして緊急入院をした。
女医先生の処置が適切で早々と落ち着いたが、経過を観るために少し入院をするようだ。
よかったら、通院のついでに見舞ってやってくれないか」
「孕み女が、心身不調で入院中の孤独な女を見舞まえば、それでいいのね。了解です。
過呼吸は貞ちゃんの持病みたいなものだけど、入院となるとただ事じゃないわねぇ。
病院はどこなの?。」
「知っていたのか。貞ちゃんの持病のことを」
「人前での発作は皆無だったけれど、じわじわと水面下で慢性化の傾向があったもの。
そんなことにも気づかずにいるなんて、あんたはいったい、貞ちゃんの何処を見つめているのさ。
おおかた千尋と仲良くなったことで、すっかりと有頂天になっているんでしょ。
ダメじゃない。可愛い妹から目を離したら。
パパの再婚話が決まったばかりだもの、情緒不安定に陥るのは当たり前でしょう。
あんたが目を離すから、貞ちゃんがこんなことになるのよ。
で、大丈夫なの、元気なの、本人は」
「なんで君が、千尋のことまで知っているんだ」
「馬っ鹿じゃないの。
2年間も一緒に、碓氷製糸場で糸を紡いできた仲なのよ。
康平から電話が入る前に、千尋からも久しぶりに連絡が入りました。
これから貞ちゃんの病院へ向かうけど、よかったら病院でゆっくりと会いましょうってね。
あんたさぁ。のんびりしていると女3人に、まとめて包囲をされちゃうわよ」
「包囲される?。どう言う意味だ」
「情報が女たちに共有をされたら一体どうなるのか、少しは考えてみたらどうなのさ。
貞ちゃんや、私にはもちろん、千尋にも、今後手を出しづらくなるわよ。
3人が顔を合わせたら、一番立場が悪くなるのは康平だからね。
わかっているでしょうね、康平くん。あら・・・・もし、もし・・・・
あらまぁ、返事が帰ってきませんねぇ。どうしたんでしょう、いったい、うふふ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/ce/e0a21a51c35e64631863a99359b2d10c.jpg)
・「新田さらだ館」は、
日本の食と、農業の安心と安全な未来を語るホームページです。
多くの情報とともに、歴史ある郷土の文化と多彩な創作活動も発信します。
詳しくはこちら
「次の日の朝、康平をめぐる女3人が何故か勢揃いをする」
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「顔色が、とても良くなりました。
とても理知的な目をしていますので、それだけあなたは、心が敏感すぎるのかもしれません。
入院中の4~5日は、私があなたの担当医です。
久しぶりの当直でなにやら肩が凝りましたが、家に帰れば邪魔をする者が居ませんので、
貴方たちと同じように、心おきなくゆっくりと眠れます」
「あら。どうして私に邪魔者がいないとわかるのですか?」
「あなたの指に、婚姻を示す指輪はありません。
同様に付き添いの男性の指にも、指輪などは見当たりません。
さしずめ仲の良い兄弟か、品行方正にお付き合い中の間柄と、お見受けしました。
医者は初見で、より詳細に患者さんを観察するというのが商売です。
あなたのように繊細な病気の場合には、その周辺環境にもさりげなく探りを入れます。
ではまた明日、元気に、お会いしましょう」
昨夜同様、乾いた靴音を響かせて女医先生が、廊下を立ち去っていきます。
呆気にとられた貞園と、ものの見事に言い当てられた康平が、病室で苦笑いを交わしています。
「どれ。コンビニで朝飯でも調達をしてくるか。
なにか欲しいものであるか、貞園」
「目覚めの苦いコーヒーと、こんがりと焼いたトースト。
昨日のスポーツの結果が分かる新聞と、朝の贅沢といえば、やっぱり、おはようのキス」
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朝からそれくらいの茶目っ気があれば、もう本来の貞園に戻ったようだ。
ゆっくり待っていろ。俺にも朝の支度というものがある」
「ベッドでの戦争に備えて、シャワーを浴びるとか、勝負パンツに履き替えてくるとか、
男にもいろいろと準備は必要ですものね。うふっ」
「いい加減でお前も、そのくだらない妄想と煩悩から離れろ。
入院に必要なものはすべて千尋がもってくるし、ついでに美和子へ連絡を入れておこう。
会いたいだろう、旧知の友人に」
「全部、康平の意中の女ばかりじゃないのさ。よく考えてみたら・・・・
あれ。いつのまにか美和子も千尋も、馴れ馴れしく、呼び捨てに変わっています、康平くん。
ははぁ、・・・もう全員と、そういう(肉体の)関係ができているのか。
手が早いわねぇ。まったくもって、油断も隙もない男ですねぇ。私の兄貴は!」
「いい加減にしないと、2度と病室へ戻ってこないぞ。
ついでに、妹の縁もたった今から切り捨てる!」
ペロリと赤い舌を出した貞園が、布団を引き上げそのまま頭から隠れてしまいます。
(まったく。ちょっと元気になったと思うとすぐあの有様だ。やんちゃすぎて、手に負えん)
音を立ててドアを閉めた康平が、ポケットを探り携帯電話を取り出します。
長い間にわたり病院内での携帯電話の使用は、自粛ということで規制されてきました。
使用を自粛させる目的は、医療器具への誤作動とアナウンスをされてきましたが、
最近になり、解除の方針をとる病院が増えてきました。
携帯電話により医療器具へ不具合を起こすという可能性は、技術的に存在しないとして、
医療学会などから、携帯電話解禁の動きが目立つようになってきたためです。
(こちらから美和子へ電話するのは、久しぶりだな)
数コールの後、『はい。美和子です』と低い声での応答が返ってきました。
(あれ、寝起きの声のようだが?。体調不良かな?・・・・妙に、低い声だ)
意表をつく美和子の低い声に、思わず康平が逡巡をしてしまいます。
「失礼だわね。康平ったら。
自分から用事があってかけてきたくせに、無言とはいったいどういうつもりなの。
どうしたの。こんな朝早くから」
「あ、いや。体調が悪いのかと思って、少しばかり電話口で躊躇しちまった」
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実は昨夜。貞ちゃんが過呼吸の発作を起こして緊急入院をした。
女医先生の処置が適切で早々と落ち着いたが、経過を観るために少し入院をするようだ。
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過呼吸は貞ちゃんの持病みたいなものだけど、入院となるとただ事じゃないわねぇ。
病院はどこなの?。」
「知っていたのか。貞ちゃんの持病のことを」
「人前での発作は皆無だったけれど、じわじわと水面下で慢性化の傾向があったもの。
そんなことにも気づかずにいるなんて、あんたはいったい、貞ちゃんの何処を見つめているのさ。
おおかた千尋と仲良くなったことで、すっかりと有頂天になっているんでしょ。
ダメじゃない。可愛い妹から目を離したら。
パパの再婚話が決まったばかりだもの、情緒不安定に陥るのは当たり前でしょう。
あんたが目を離すから、貞ちゃんがこんなことになるのよ。
で、大丈夫なの、元気なの、本人は」
「なんで君が、千尋のことまで知っているんだ」
「馬っ鹿じゃないの。
2年間も一緒に、碓氷製糸場で糸を紡いできた仲なのよ。
康平から電話が入る前に、千尋からも久しぶりに連絡が入りました。
これから貞ちゃんの病院へ向かうけど、よかったら病院でゆっくりと会いましょうってね。
あんたさぁ。のんびりしていると女3人に、まとめて包囲をされちゃうわよ」
「包囲される?。どう言う意味だ」
「情報が女たちに共有をされたら一体どうなるのか、少しは考えてみたらどうなのさ。
貞ちゃんや、私にはもちろん、千尋にも、今後手を出しづらくなるわよ。
3人が顔を合わせたら、一番立場が悪くなるのは康平だからね。
わかっているでしょうね、康平くん。あら・・・・もし、もし・・・・
あらまぁ、返事が帰ってきませんねぇ。どうしたんでしょう、いったい、うふふ」
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