オヤジ達の白球(61)おくりオオカミ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/85/a7b4797d73cba69d1bfda2b7ce239daa.jpg)
午後6時。薄墨色の空から舞い降りてくる雪が、激しさを増してきた。
闇が濃くなってきた。雪の粒がさらにおおきくなる。
居酒屋から駆けだした男たちがたちまちの雪だるまになりながら、八方へ散っていく。
「祐介。みんな帰っちまったよ。
臆病風に吹かれて全員、急いでわが家へ戻って行っちまったねぇ」
戸口に立った陽子が、祐介を振り返る。
「しかたねぇさ。この雪の、この降り様だ。
そういう俺たちもいまのうちに帰らないと、家にたどり着けなくなる。
だいいち。おまえの家の前には急な坂があるだろう。
登れるのか、あの坂道を」
あと片づけは明日にして、俺たちも早く帰ろうぜと問いかけた時、
陽子が「問題はそれだ」と溜息をつく。
「それがさ。どうやらもう、後の祭りみたい」
「後の祭り?。なんでだ、いまならまだ登れるだろう。帰れるだろう」
「交換しそびれたの。あたしの車はまだ、夏タイヤを履いたままなの。
ノーマルタイヤじゃあの坂は昇れないと思うな。たぶん・・・」
「夏タイヤのままか。なんてこったい。それじゃ登れないな、あの急坂は・・・」
「そう思うでしょ、あんたも。
いいわよ私のことは。このまま、お店に泊まるから」
「泊る?。ずいぶん無茶なことを平然と言うねぇ。
布団は置いてないぜ。
しょうがねぇなぁ。しかたねぇ、俺が送って行ってやる」
「あら。あんたが送ってくれるの。嬉しいわ。
でもさ。あんたの車は大丈夫なの。ちゃんと、雪用のタイヤを履いているの?」
「大金をはらって新品のスノータイヤを装着したばかりだ。
この日のためにな」
「あら。わたしのためになんとも用意周到なこと。
ついでに送りオオカミにならないでね」
「この野郎。素直じゃないなぁ、お前さんも。
人の親切は素直に受け取るもんだ。
坂道を登ったらとっととお前を降ろして、そのまま速攻で帰宅するからな」
「なんだい、つまらない。
寄っていきなさいよ。お茶かコーヒーくらいなら、入れてあげるから」
「バカやろう。送りオオカミをわざわざ家に招き入れてどうするつもりだ。
ありがとうと言って頬にチューして、それで男を送り返すのが
淑女のふるまいというもんだ」
「あら。ごめんなさいね。淑女じゃなくって。
どうせわたしは、えげつないことばかり考えているはしたない女です」
ふんと横を向き、陽子が赤い舌をチョロと出す。
陽子の家は丘陵地の上にある。
といってもたかだか50メートルほどの高台だ。
それでも眺めはすこぶるよい。
500mほど離れた祐介の家が、手に取るようによく見える。
朝起きるたび、「おはよう」と祐介の家へつぶやくのが陽子の日課だ。
頂上へ向かってゆるやかに登りはじめた道が、終点ちかくで急坂にかわる。
近所の年寄りたちはこの短い急な登りを、心臓破りの坂と呼ぶ。
おろしたばかりのスタットレスタイヤの食いつきは、すこぶる良い。
坂道をぐいぐい小気味よく登っていく。
右へゆるく旋回したあと、お年寄りたちが目の敵にする急坂路が迫って来た。
ここをのぼれば高台の頂へ出る。
(もうひといきだ。ここをのぼり切れば、陽子の家だ)
(62)へつづく
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/85/a7b4797d73cba69d1bfda2b7ce239daa.jpg)
午後6時。薄墨色の空から舞い降りてくる雪が、激しさを増してきた。
闇が濃くなってきた。雪の粒がさらにおおきくなる。
居酒屋から駆けだした男たちがたちまちの雪だるまになりながら、八方へ散っていく。
「祐介。みんな帰っちまったよ。
臆病風に吹かれて全員、急いでわが家へ戻って行っちまったねぇ」
戸口に立った陽子が、祐介を振り返る。
「しかたねぇさ。この雪の、この降り様だ。
そういう俺たちもいまのうちに帰らないと、家にたどり着けなくなる。
だいいち。おまえの家の前には急な坂があるだろう。
登れるのか、あの坂道を」
あと片づけは明日にして、俺たちも早く帰ろうぜと問いかけた時、
陽子が「問題はそれだ」と溜息をつく。
「それがさ。どうやらもう、後の祭りみたい」
「後の祭り?。なんでだ、いまならまだ登れるだろう。帰れるだろう」
「交換しそびれたの。あたしの車はまだ、夏タイヤを履いたままなの。
ノーマルタイヤじゃあの坂は昇れないと思うな。たぶん・・・」
「夏タイヤのままか。なんてこったい。それじゃ登れないな、あの急坂は・・・」
「そう思うでしょ、あんたも。
いいわよ私のことは。このまま、お店に泊まるから」
「泊る?。ずいぶん無茶なことを平然と言うねぇ。
布団は置いてないぜ。
しょうがねぇなぁ。しかたねぇ、俺が送って行ってやる」
「あら。あんたが送ってくれるの。嬉しいわ。
でもさ。あんたの車は大丈夫なの。ちゃんと、雪用のタイヤを履いているの?」
「大金をはらって新品のスノータイヤを装着したばかりだ。
この日のためにな」
「あら。わたしのためになんとも用意周到なこと。
ついでに送りオオカミにならないでね」
「この野郎。素直じゃないなぁ、お前さんも。
人の親切は素直に受け取るもんだ。
坂道を登ったらとっととお前を降ろして、そのまま速攻で帰宅するからな」
「なんだい、つまらない。
寄っていきなさいよ。お茶かコーヒーくらいなら、入れてあげるから」
「バカやろう。送りオオカミをわざわざ家に招き入れてどうするつもりだ。
ありがとうと言って頬にチューして、それで男を送り返すのが
淑女のふるまいというもんだ」
「あら。ごめんなさいね。淑女じゃなくって。
どうせわたしは、えげつないことばかり考えているはしたない女です」
ふんと横を向き、陽子が赤い舌をチョロと出す。
陽子の家は丘陵地の上にある。
といってもたかだか50メートルほどの高台だ。
それでも眺めはすこぶるよい。
500mほど離れた祐介の家が、手に取るようによく見える。
朝起きるたび、「おはよう」と祐介の家へつぶやくのが陽子の日課だ。
頂上へ向かってゆるやかに登りはじめた道が、終点ちかくで急坂にかわる。
近所の年寄りたちはこの短い急な登りを、心臓破りの坂と呼ぶ。
おろしたばかりのスタットレスタイヤの食いつきは、すこぶる良い。
坂道をぐいぐい小気味よく登っていく。
右へゆるく旋回したあと、お年寄りたちが目の敵にする急坂路が迫って来た。
ここをのぼれば高台の頂へ出る。
(もうひといきだ。ここをのぼり切れば、陽子の家だ)
(62)へつづく
本日は一転して12℃。
春のきまぐれな天候は、身体にこたえます。
こまめに着る物を調節して、体調管理につとめます。
群馬では梅が満開になりましたが、サクラはまだ
かたいつぼみのままです。
新しくても、駆動方式が前か後ろか??
私らのように四駆か?? 雪道の坂は
登りは何とか登っても・・問題は
下りです
まさしく行きはよいよい、帰りは怖い
私なら、屋根付車庫で一番明かす
ナスの生育順調のようですね
こんど群馬産のナスを探して見ますね
信州の我が町今朝は雪昼間は雨そして
夜になって霙に・・明日の朝が・・
心配です