つわものたちの夢の跡・Ⅱ
(109)喫茶室の片隅で
道の駅ふれあいパークみのは、四国霊場第71番札所、弥谷寺の麓にある。
道の駅と言うよりも、休憩施設と地域振興施設が一体となった道路施設という感が強い。
子供たちのための遊具が、とにかくたくさんある。
まるで小規模の遊園地といった雰囲気が到着した時から、漂っている。
地下1700メートルからくみ上げた温泉を使ったプールまで有る。
当然のことながら、一日中ゆっくり出来る温泉施設も、敷地の奥に建っている。
「簡単に車中泊が出来ると思っていましたが、実はそうでないことに気づかされました。
道の駅は、ドライバーや同乗者がトイレや休息のために利用するもの。
疲れた時にとる仮眠と、車中泊がまったく別物という事も初めて知りました。
難しいものなんですねぇ。車中泊の旅というものは」
喫茶室の窓際に座ったすずは、外に見える子供たちの遊具の多さに目を見張りながら、
覚えてきたばかりの車中泊の知識を、語り始めた。
冬の日差しが降りそそぐ中。それほど多くない数の子供たちが厚着のまま、
遊具の中で大きな歓声をあげている。
子供たちは遊びの道具さえあれば、どんなタイミングでも元気に騒ぐ。
めいっぱい重ね着をした親たちが、心配そうに遊具の上の子供たちを見つめている。
風でもあれば「もう寒いから帰ろう」と言えるのだろうが、あいにく今日は天気が良い。
「子供たちの元気な歓声を聞くと、なんだか、こちらまで元気をもらいます。
心が洗われますねぇ」コーヒーカップを持ちあげたすずが、小さくほほ笑む。
「いつのまに勉強したんだ。車中泊の事をいろいろと?」
「もっと大きな車が良いと駄々をこねたら、あなたったら本当に車を乗り換えてしまうんだもの。
焦ったわよ、あたしだって。
もうこのあたりで、覚悟を決める必要があると決心しました。
本音はね。キャンピングカーなんか買って、どこに泊まるの? 野宿なんて絶対に嫌。
って、そんな風に思っていたの。
だけどもう、走り始めたあなたを止められないでしょ。
道路は綺麗に整備されているけど、車に泊まりながら旅を続けるのには、
意外に遅れている国だという事も、ちゃんと勉強しました」
「えらい。俺より勉強家だ。その通りだよな。
宿泊するなら、安全で、静かで、周囲の迷惑にならない場所で滞在を楽しみたい。
だがそんな場所は、めったにない。
整備されたオートキャンプ場や、道の駅や温泉施設などの一画に設けられた、
車中泊専用の有料宿泊エリアは、実は、意外なほど少ない。
結局。停める場所が無くて道の駅や、高速道路のSAや、PAを利用することになる」
「道の駅はあくまでも、ドライバーたちが、休憩や仮眠のために使う場所。
通りかかった人に、土地の物産や観光資源をPRするのが目的だから、宿泊施設ではありません。
深夜から朝方にかけて数時間、仮眠をとる程度ならともかく、終日の宿泊、
まして連泊するなどは、絶対にNGです。
椅子やテーブル、オーニングなどを出して食事をしたり、くつろぐなどは、
絶対禁止の、もってのほかの行為です。
高速道路のSAやPAも、同じことです。
こちらも道の駅と同様、ドライバーが休憩したり仮眠するために設けられているものです。
基本的には、交通安全のために使われる施設です
とはいえ、道の駅やSAや、PAは、キャンピングカーでも無料で使えるありがたい施設。
車中泊をするわたしたちが、使っていけないわけではありません。
でもたとえば、昼食時や夕食時などの混雑時は、長時間居座らずに用事が済んだらすぐ出ることや、
ゴミを持ち込まないようにすることが大切です。
公共のマナーを守りながら、少しでもいいから有料施設やお店を利用して、
お金を落としましょう。
ちょっとした心がけで、施設を気持ちよくつかわせてもらうことが出来ます。
どうかしら。ナビゲータとして、少しは役に立ちそうかしら、あたしは」
「完璧だ。けど俺のために、そこまで無理することはないさ、すず。
俺の知っている、いつものままの、すずでいいよ」
「でもあなたは、あたらしい私の事を、ほとんど知らないでしょう?」
すずが「あたらしい私」という部分に力を入れて強調した。
昼食のピークを終えた喫茶室に、人の姿は少ない。
窓の外も静かになってきた。
さっきまで無心に戯れていた子供たちの姿も、いつの間にか見えなくなっている。
(やっぱり知っているんだ、すずは。自分の病気のことを・・・)
勇作がすずに返すべき言葉に、少しのあいだだけ詰まった。
(110)へつづく
『つわものたちの夢の跡』第一部はこちら
(109)喫茶室の片隅で
道の駅ふれあいパークみのは、四国霊場第71番札所、弥谷寺の麓にある。
道の駅と言うよりも、休憩施設と地域振興施設が一体となった道路施設という感が強い。
子供たちのための遊具が、とにかくたくさんある。
まるで小規模の遊園地といった雰囲気が到着した時から、漂っている。
地下1700メートルからくみ上げた温泉を使ったプールまで有る。
当然のことながら、一日中ゆっくり出来る温泉施設も、敷地の奥に建っている。
「簡単に車中泊が出来ると思っていましたが、実はそうでないことに気づかされました。
道の駅は、ドライバーや同乗者がトイレや休息のために利用するもの。
疲れた時にとる仮眠と、車中泊がまったく別物という事も初めて知りました。
難しいものなんですねぇ。車中泊の旅というものは」
喫茶室の窓際に座ったすずは、外に見える子供たちの遊具の多さに目を見張りながら、
覚えてきたばかりの車中泊の知識を、語り始めた。
冬の日差しが降りそそぐ中。それほど多くない数の子供たちが厚着のまま、
遊具の中で大きな歓声をあげている。
子供たちは遊びの道具さえあれば、どんなタイミングでも元気に騒ぐ。
めいっぱい重ね着をした親たちが、心配そうに遊具の上の子供たちを見つめている。
風でもあれば「もう寒いから帰ろう」と言えるのだろうが、あいにく今日は天気が良い。
「子供たちの元気な歓声を聞くと、なんだか、こちらまで元気をもらいます。
心が洗われますねぇ」コーヒーカップを持ちあげたすずが、小さくほほ笑む。
「いつのまに勉強したんだ。車中泊の事をいろいろと?」
「もっと大きな車が良いと駄々をこねたら、あなたったら本当に車を乗り換えてしまうんだもの。
焦ったわよ、あたしだって。
もうこのあたりで、覚悟を決める必要があると決心しました。
本音はね。キャンピングカーなんか買って、どこに泊まるの? 野宿なんて絶対に嫌。
って、そんな風に思っていたの。
だけどもう、走り始めたあなたを止められないでしょ。
道路は綺麗に整備されているけど、車に泊まりながら旅を続けるのには、
意外に遅れている国だという事も、ちゃんと勉強しました」
「えらい。俺より勉強家だ。その通りだよな。
宿泊するなら、安全で、静かで、周囲の迷惑にならない場所で滞在を楽しみたい。
だがそんな場所は、めったにない。
整備されたオートキャンプ場や、道の駅や温泉施設などの一画に設けられた、
車中泊専用の有料宿泊エリアは、実は、意外なほど少ない。
結局。停める場所が無くて道の駅や、高速道路のSAや、PAを利用することになる」
「道の駅はあくまでも、ドライバーたちが、休憩や仮眠のために使う場所。
通りかかった人に、土地の物産や観光資源をPRするのが目的だから、宿泊施設ではありません。
深夜から朝方にかけて数時間、仮眠をとる程度ならともかく、終日の宿泊、
まして連泊するなどは、絶対にNGです。
椅子やテーブル、オーニングなどを出して食事をしたり、くつろぐなどは、
絶対禁止の、もってのほかの行為です。
高速道路のSAやPAも、同じことです。
こちらも道の駅と同様、ドライバーが休憩したり仮眠するために設けられているものです。
基本的には、交通安全のために使われる施設です
とはいえ、道の駅やSAや、PAは、キャンピングカーでも無料で使えるありがたい施設。
車中泊をするわたしたちが、使っていけないわけではありません。
でもたとえば、昼食時や夕食時などの混雑時は、長時間居座らずに用事が済んだらすぐ出ることや、
ゴミを持ち込まないようにすることが大切です。
公共のマナーを守りながら、少しでもいいから有料施設やお店を利用して、
お金を落としましょう。
ちょっとした心がけで、施設を気持ちよくつかわせてもらうことが出来ます。
どうかしら。ナビゲータとして、少しは役に立ちそうかしら、あたしは」
「完璧だ。けど俺のために、そこまで無理することはないさ、すず。
俺の知っている、いつものままの、すずでいいよ」
「でもあなたは、あたらしい私の事を、ほとんど知らないでしょう?」
すずが「あたらしい私」という部分に力を入れて強調した。
昼食のピークを終えた喫茶室に、人の姿は少ない。
窓の外も静かになってきた。
さっきまで無心に戯れていた子供たちの姿も、いつの間にか見えなくなっている。
(やっぱり知っているんだ、すずは。自分の病気のことを・・・)
勇作がすずに返すべき言葉に、少しのあいだだけ詰まった。
(110)へつづく
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