オヤジ達の白球(84)涙がとまらねぇ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/b2/1089251503bcbe153cd0b691fe890d16.jpg)
「なに考えているんだ、あのばかやろう!」
祐介が血相をかえてたちあがる。
「球審。タイムだ!」
そう言った瞬間。すでに祐介はフェアグランドへ足を踏み入れていた。
(あら。1球目も投げないうちに、2度目のタイムですか・・・)
たいへんですねぇ今夜も、と、球審の千佳が目を細める。
試合中にとれる守備のタイムは3回と決まっている。
(今夜もなんだか荒れそうです。そんな気配がただよってきました。
うふふ・・・だから居酒屋さんチームの試合は大好きなんです)
マウンドへ到達した祐介が、いきなり右手をふりあげる。
「あ・・・あぶねぇ!」セカンドから駆け付けてきた寅吉が、あわてて祐介をとめる。
「監督。ダメだ。気持ちは分かるが、暴力はいけねぇ」
「離せ寅。俺をとめるんじゃねぇ。こうでもしなければこいつの目は覚めねぇ!」
「そいつは俺も同感だ。殴ってやろうかとホントは思っている。
しかし、こらえてください監督。
気持ちはわかりますが、ここはグランドです。
試合がはじまるまえ、身内がグランドで暴力をふるうなんて、聞いたことがねぇ。
熊と俺に免じてとりあえず、この手をおろしてください」
「冗談じゃねぇ。ここで殴らなきゃ、消防チームにあわす顔がねぇ。
俺のこのこぶしには、消防チームの怒りもふくまれていると思え。坂上!」
「それだけはダメだって監督。暴力はご法度だ。
ここは神聖な場所だ!」
「神聖な場所?・・・」
「日本には「道」がたくさんある。剣道、柔道、茶道、華道。
この国はなんでもかんでも「道」にする。
ただの技能で終わらせず、思想にまで高めて「道」にする。
とうぜんのこととしてそれをおこなう「場」も、神聖な場として扱う。
剣道における道場。茶道における茶室。
すべての基盤になる「場」に敬意をはらい、そこから「道」がスタートする。
野球にだって道がある。
選手はグラウンドに入る前。当たり前のように帽子を取り、しっかり礼をする。
グラウンドの中でもとくに、投手が上がるマウンドという場所はさらに神聖な場所になる」
「寅。おまえの言いたいことは分かる。
だがここは高校野球のグランドじゃねぇ。きれいごとなんか言ってる場合じゃねぇ。
1度ならず2度までも足を運ばせるようなばか野郎は、思い切り、ぶん殴らなきゃ
俺の気がすまねぇ!」
「監督。このさい個人的な感情は捨ててください。
参ったなぁ。おい、おまえらも集まって来い。緊急事態の発生だ」
寅吉が内野手を呼ぶ。
1塁手、3塁手、遊撃手が、あわててマウンドへ駆け寄って来る。
「とりあえずみんなで、坂上を囲い込め!」
見れば坂上の帽子のつばから、涙がしたたり落ちている。
(泣いてんのか・・・こいつ!)
驚く祐介を、寅吉がそっとうながす。
「監督。見ての通りだ。この場は俺がなんとかする。
で相談ですが、あそこの美人の球審に、すこし時間をくれと交渉してください。
このままじゃ投球にならねぇ。
武士の情けだ。すまねぇがこいつのため、すこしだけ時間をかせいでください」
「わかった。じゃここは頼んだ。時間は俺が稼いでくる」
祐介が球審に向かって歩いていく。
寅吉がくるりと振り向く。そのまま坂上の背中へ寄り添う。
「よう。泣くなというのは無理みたいだ。いいから泣くがいい。
だがよ。制限時間はあまりねぇ。せいぜい2~3分だ。
短いあいだに気持ちを整理して、投球動作へはいってくれ」
(最終話)へつづく
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「なに考えているんだ、あのばかやろう!」
祐介が血相をかえてたちあがる。
「球審。タイムだ!」
そう言った瞬間。すでに祐介はフェアグランドへ足を踏み入れていた。
(あら。1球目も投げないうちに、2度目のタイムですか・・・)
たいへんですねぇ今夜も、と、球審の千佳が目を細める。
試合中にとれる守備のタイムは3回と決まっている。
(今夜もなんだか荒れそうです。そんな気配がただよってきました。
うふふ・・・だから居酒屋さんチームの試合は大好きなんです)
マウンドへ到達した祐介が、いきなり右手をふりあげる。
「あ・・・あぶねぇ!」セカンドから駆け付けてきた寅吉が、あわてて祐介をとめる。
「監督。ダメだ。気持ちは分かるが、暴力はいけねぇ」
「離せ寅。俺をとめるんじゃねぇ。こうでもしなければこいつの目は覚めねぇ!」
「そいつは俺も同感だ。殴ってやろうかとホントは思っている。
しかし、こらえてください監督。
気持ちはわかりますが、ここはグランドです。
試合がはじまるまえ、身内がグランドで暴力をふるうなんて、聞いたことがねぇ。
熊と俺に免じてとりあえず、この手をおろしてください」
「冗談じゃねぇ。ここで殴らなきゃ、消防チームにあわす顔がねぇ。
俺のこのこぶしには、消防チームの怒りもふくまれていると思え。坂上!」
「それだけはダメだって監督。暴力はご法度だ。
ここは神聖な場所だ!」
「神聖な場所?・・・」
「日本には「道」がたくさんある。剣道、柔道、茶道、華道。
この国はなんでもかんでも「道」にする。
ただの技能で終わらせず、思想にまで高めて「道」にする。
とうぜんのこととしてそれをおこなう「場」も、神聖な場として扱う。
剣道における道場。茶道における茶室。
すべての基盤になる「場」に敬意をはらい、そこから「道」がスタートする。
野球にだって道がある。
選手はグラウンドに入る前。当たり前のように帽子を取り、しっかり礼をする。
グラウンドの中でもとくに、投手が上がるマウンドという場所はさらに神聖な場所になる」
「寅。おまえの言いたいことは分かる。
だがここは高校野球のグランドじゃねぇ。きれいごとなんか言ってる場合じゃねぇ。
1度ならず2度までも足を運ばせるようなばか野郎は、思い切り、ぶん殴らなきゃ
俺の気がすまねぇ!」
「監督。このさい個人的な感情は捨ててください。
参ったなぁ。おい、おまえらも集まって来い。緊急事態の発生だ」
寅吉が内野手を呼ぶ。
1塁手、3塁手、遊撃手が、あわててマウンドへ駆け寄って来る。
「とりあえずみんなで、坂上を囲い込め!」
見れば坂上の帽子のつばから、涙がしたたり落ちている。
(泣いてんのか・・・こいつ!)
驚く祐介を、寅吉がそっとうながす。
「監督。見ての通りだ。この場は俺がなんとかする。
で相談ですが、あそこの美人の球審に、すこし時間をくれと交渉してください。
このままじゃ投球にならねぇ。
武士の情けだ。すまねぇがこいつのため、すこしだけ時間をかせいでください」
「わかった。じゃここは頼んだ。時間は俺が稼いでくる」
祐介が球審に向かって歩いていく。
寅吉がくるりと振り向く。そのまま坂上の背中へ寄り添う。
「よう。泣くなというのは無理みたいだ。いいから泣くがいい。
だがよ。制限時間はあまりねぇ。せいぜい2~3分だ。
短いあいだに気持ちを整理して、投球動作へはいってくれ」
(最終話)へつづく
そこは男の涙で堪えていたんでしょう
お話の方は、益々私の好みの方向に向かい
ゾクゾクしてきました、
ほうれん草は、そんなに早く成長するんですか
信州ではこれから雪が降るまえに
そして冬の雪の下が一番美味しいと
1月から2月に獲っていたと思います
ゴルフができるくらいなら体調は
順調に回復ですね、よかったよかった
途中で体調を崩したこともあり、忘れられない
作品のひとつになりました。
すこし休んだ後、新作を書きはじめたいと思います。