落合順平 作品集

現代小説の部屋。

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (16) 

2016-12-29 06:20:36 | 現代小説
赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (16) 
 会津西街道を女3人と猫2匹が走る




 「だから。女3人が乗っているのはわかります。
 でも。どうしてたまと、隣の飼い猫のミイシャまで、車に乗っているんですか。
 聞いていません。あたしは。
 たまの愛人まで一緒に連れて行くなんて」 



 会津西街道を東山温泉に向かって走る車内で、ハンドルを握っている
1番弟子の豆奴が、口を不服そうに尖らせる。


 「愛人だなんてお前。口がすぎますよ。
 たまもミイシャも、まだ、たった半年足らずの子猫です。
 色気なんかあるもんか。
 遊び半分でじゃれているだけの、子供だろう」



 「お母さん。
 猫の妊娠は、生後5ヶ月から可能です。
 早い場合、4ヶ月目からできるといいます。
 生まれて12ヶ月が経つと、人間で言えば20歳前後の大人です。
 ちなみに妊娠から出産までは、2ヶ月ほどです」



 「あら、まぁ、そうなのかい。詳しいねぇ、豆奴は。
 へぇぇ・・・ずいぶん早生(わせ)なんだね、お前さんたちは。
 子猫とばかり思っていたら、もう、子供を作れる年頃かい。
 なにやらまるで、お前さんたちの子作りのための旅行になりそうです。
 変なお膳立てを作ってしまったようですねぇ。うふふ・・・」




 「笑い事じゃありません。お母さん!」




 「まぁまぁ、そうそう目くじらを、立てなさんな。
 隣の女の子も今回は長くかかるようです。
 母親も1ヶ月ほどは病院で、寝泊りをすると言っております。
 誰もいない部屋に、ミイシャを置いておくのは可哀想じゃないか。
 枯れ木も山の賑わい。旅は、大勢の方が楽しいに決まっています」



 春奴母さんが、清子の膝でウトウト眠りこけている2匹の様子を、
助手席から嬉しそうに振り返る。満足そうな顔で眺める。



 「お母さん。ネズミは子沢山で有名ですが、猫も負けずに多産です。
 1度の出産で、2匹から、最大で6匹まで産むそうです
 油断していますと、あっというまに家中が、猫だらけになってしまいます」



 「結婚もしていないし、子供も産んでいないくせにお前は
 猫に関しては、妙に詳しいですねぇ。
 お前の過去の愛人の中にもしかして、猫好きな男性でもいたのかい?」




 「お母さん。後ろの席で清子が聞いています。
 発言には、くれぐれも気をつけてください。
 大きなお世話です。
 結婚しないのも、子供を産まないのも、ぜんぶ私の自由ですから。
 そういうお母さんだって、独り身のまま、過ごしているじゃありませんか」



 「あたしゃお前さんたちを育てるために、忙しかっただけの話さ。
 断っておくが、言い寄ってきた男たちは山ほどおりました。
 こう見えても、あたしだって女だよ。
 この人とならと思う男性が、1人や2人おりました。
 それなのに。あたしが女として一番脂の乗り切っていたその時期に、
 次から次へ、弟子入り希望者がやってくるんだもの。
 お前のように男とイチャイチャする暇なんか、頭の毛ほども無かったねぇ」


 
 「そういえばそうですねぇ。お弟子さんがたくさんいましたねぇ、あの頃は。
 あ、でも、ひとりだけ居たじゃないですか。
 ほら。例のアレ・・・・市さん。
 なぜあのお方と結婚しなかったのですか?
 脈は有ると見ておりましたが、やはり、事情が複雑すぎたせいですか?」

 

 「市さんですか・・・・そういえばいましたねぇ、そんなお方が。
 久しぶりです。会いたくなりました。
 お前。連絡をとっておくれよ市さんに。
 懐かしいねぇ。あれからもう、30年近くがたつものねぇ」




 「誰ですか、豆奴お姉さん。その、市さんというお方は?」



 後部座席から運転席へ、清子が顔を出す。


 「お前が知らなくても無理ないさ。遠い昔の話だもの。
 お母さんの、訳ありのお方だ。
 市さんは正式には、市左衛門さんというお名前。
 まるでお武家様か、豪傑のようなお名前のもちぬし。
 でもねぇこれがまた、複雑な事情を、山のように持っているお人なんだ。
 そうですねぇ。せっかく東山温泉まで行くんです。
 連絡をとってみましょうか、久しぶりに。
 うふふ。あたしまでなんだか、楽しみになってきました」


 豆奴も目を細めて笑う。



 「お母さん。どのようなお方なのですか。
 お話に出ている、市左衛門さんとおっしゃるお方は?」



 「あたしの戦友さ。
 出会った時は、たしかにいい男だった。
 でもね。その後は修行の甲斐もあり、周囲も驚くほどの良い女になった。
 いまは会津で芸妓をしている。
 結婚してもよかった思うくらい、いい男だったよ市さんは。
 そうだねぇ。男というより、やっぱり、かけがえのない戦友だね。市さんは」



 「え~ぇ。男から良い女に成長した芸妓?。かけがいのない戦友?・・・・
 いったい、どういう人なのかしら。市さんというお方は?」




 清子の疑問を乗せたまま豆奴が運転する車が、小春が籍を置いている
会津の東山温泉を目指して、山道をひたすら走りつづける。


(17)へつづく


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2 コメント

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昔からあるんですね (屋根裏人のワイコマです)
2016-12-29 11:24:49
最近で言う・・女性に見られる男のことなのか
昔からこの手の人はたくさんいたはず・・
いよいよ 話しが複雑になって??
この話は 人の話・・・この話は猫の話し
と頭をめぐらしながら読ませていただくので
老化防止にはもってこいです。
お疲れ様でした、ほうれん草は私が
毎週3つ、美味しくいただきました
下仁田ネギも・・信州の台所は群馬県の
農家の農家の皆さんのおかげです
今日も又、年末年始の群馬産の野菜を
買い求めに行ってきます。
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ワイコマさん。こんにちは (落合順平)
2016-12-29 16:32:24
ひさしぶりの休日を、のんびりと過ごしています。
農家に休日はありません。
野菜が成長している限り、出荷のために
毎日仕事をします。
週末や休みたい日に成長が止まる野菜が有れば、
たぶん、世界中の農家から、ノーベル賞が
もらえると思います(笑)
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