花にまつわる幾つもの話

子供時代の花にまつわる思い出や、他さまざまな興味のあることについて書いていきたいと思ってます。

第二十三章 カサブランカ

2010年05月19日 | 花エッセイ
 カサブランカといえば、現在では白百合の代名詞、

結婚式ではそれこそひっぱりだこの花だろう。

 けれどこのカサブランカ、実は日本固有の百合を品種改良したものだと知っている人は

恐らく少ないのではないだろうか。

 鹿児島県沖、口之島に咲く袂(たもと)百合がそれで、

切り立った崖に海風にそよぎながら咲く姿が、

まるで若い乙女が恋人に着物の袂を振る様に似ているというので、袂百合というらしい。

 四季を持つ日本は古来より植物の宝庫だった。

袂百合のみならず、椿や紫陽花も固有種としては有名だろう。

西洋人のプラントハンター達にとって、まさに日本は黄金の島。

競うように日本を訪れ、珍しい植物を本国へと持ち去った。

そのうちの一つが袂百合であり、西洋人により改良されて、

日本に逆輸入されたのがカサブランカなのである。

 どこか郷愁を誘うせいなのか、カサブランカは日本人に非常に人気がある。

 ちなみに私がよく行く地元の美容室では、

何故かいつもこのカサブランカが花瓶一杯に飾られている。

鰻の寝床のような細長い作りの店で、

オーナー兼美容師の男性がたった一人で経営していて、

一歩店内に足を踏み入れれば、甘い芳香が出迎えてくれる。

たまに白いカラーや季節の花に場所を譲ることもあるが、もっぱら花はカサブランカばかり。

 このオーナーはインテリア好きで、店内の飾りつけは全て自分でやるという話だった。

 それにしても何故カサブランカなのだろう。

けれどその理由を一度として尋ねたことはない。

かわりに様々な想像をめぐらす。

もしかしたらあのカサブランカには何か深い思い入れがあるのではないかと。

たとえば恋人が好きな花、あるいは失くした恋の思い出、

もっと単純に、彼が一番好きな花という理由だけなのかもしれない。

 謎は謎のまま。世の中には知らない方が良いということは往々にしてあるものだ。

 
(注)「たもとゆり」とは、南西諸島トカラ列島の口之島にだけ自生していて、今は絶滅し

   てしまった純白のユリのこと。現在「カサブランカ」という名前で、世界中で愛さ

   れている花の原種はこの「たもとゆり」。
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