獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

山崎浩子『愛が偽りに終わるとき』第3章 その1

2022-12-16 01:58:22 | 統一教会

山崎浩子『愛が偽りに終わるとき』(文藝春秋1994年3月)
より、引用しました。
著作権上、問題があればすぐに削除する用意がありますが、できるだけ多くの人に読んでいただく価値がある本だと思いますので、本の内容を忠実に再現しています。
なお、漢数字などは読みやすいように算用数字に直しました。

(目次)
□第1章 「神の子」になる
□第2章 盲信者
■第3章 神が選んだ伴侶
□第4章 暴かれた嘘
□第5章 悪夢は消えた
□あとがき



■第3章 神が選んだ伴侶

“永遠の伴侶”に会う
6月30日。
スクールに指導に出ていた私に、教会から連絡があった。なんと、日本の統一教会の会長である神山威会長に電話をしてくれということだった。
電話を入れると、たしかにビデオなどで聞いたことのある声が聞こえてくる。
「あ、浩子さんねえ。マッチングが決まりましたよ」
「ホントですかぁ」
「日本人ですよ」
(よかった。スクールが続けられる)
一瞬、そんなことを思った。
「それでねえ。会いますか、会いましょうか」
私は胸がドキドキしてきた。どんな人だろう。
「はい」
「今晩、空いていますか」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、今晩会うことにしましょう」
私の永遠の伴侶に今日、会える。
「あ、ちょっと待って。今ね、ここに、相対者がいるんだけど、ちょっと話してみる?」
「いえ、いいです、あとで。今日の夜でいいです。はい」
「そ~お? よし、じゃ今晩ね」
電話を切ったあとも、胸の高鳴りは続くばかり。顔は? 体型は? でも、あまり空想しないようにした。会ってがっかりしないように、どんな人でも受け入れる覚悟だけは、しっかりとつけた。
スクールの仕事を終え、指定されたホテルオークラの一室へと急ぐ。
はやる気持ちを抑えながら、落ち着いてドアをノックする。
女性に案内されて、部屋へ通されると、3人の男性がソファから立ち上がった。神山会長、全国大学連合原理研究会の大塚克己会長、そしてもう一人の男性。
(この人なのだろうか。それとも別の部屋から出てくるのだろうか)
「浩子さん、この人があなたの相対者」
神山会長が口を開く。
勅使河原秀行、28歳。4歳年下である。京大卒、某大手証券会社勤務のサラリーマン。ちょっと太めだが、身長は180センチと高い。
まじめで、穏やかそうな人だなと思った。でも、ああヨカッタとか、がっかりしたとか、どちらにも心は動かなかった。
「はじめまして、勅使河原といいます。よろしくお願いします」
「あ、山崎浩子です。こちらこそ」
神山会長は、
「浩子さん、勅使河原くん、どうですか。この人でいいですか。一応聞かないとねえ」
と子供のように笑っている。
「はい、よろこんで」
私たちは答えた。
お互いがお互いの相対者となった瞬間だった。
だいたい私は、祝福の相手を断る人がいること自体が信じられなかった。集団お見合いじゃないんだから、何を考えて祝福を受けようと思っているのかと腹立たしくもなる。
祝福を受けられるだけで、幸せだと思わなければいけないのである。
神山会長を通して会話も弾み、時間は過ぎ、次に会える時を期待しっつ、部屋を出た。
後日、勅使河原さんが、その時のことを思い出して笑った。
「君はジャージ姿だったもんなあ」
「エッ? ジャージじゃないよ、スウェットパンツ。前の日から会うことがわかってれば、もうちょっときれいな格好してったんだけどな」
その時の私の格好といったら、トレーナーにスウェットパンツに、リーボックシューズ。そしてバッグはズタ袋という、いわゆる“お見合い”には最高に不似合いないでたちだったのである。
「僕は上から下まで新調していったのに……」
「ゴメーン。私、勅使河原さんが何を着てたか、全然覚えてないの。ゴメンヨ」
そう言いながら、笑い合っていた。
彼も、その日、突然に呼ばれて出かけていったのだそうだ。神山会長は、彼のいでたちを見て、大塚原研会長に「もっといいものを着せなさい」と言われ、二人で大急ぎで買いに出かけたという。
メガネから何から、大塚原研会長が買いそろえてくれて、「もし、断られたら、倍にして返すんだゾ」と冗談を言われたらしい。まあ、それぐらいの意気込みで臨んだ対面だったのだ。なのに、私は彼が、その時、どんな色の服を着ていたのか、どんなネクタイを締めていたのか、そして顔さえも、よく覚えていなかった。


歓待してくれたご両親
新聞やテレビでは、連日のごとく統一教会報道を行っている。私や、同じく信仰告白をした女優の桜田淳子さん、バドミントン元世界チャンピオンの徳田敦子さん(私たちは三女王と呼ばれていた)の相対者も決まったらしいということで、相手はやれ東大卒のエリートだのなんだのと報道している。
私は、メディアを通じて知られる前に、姉や勅使河原さんのご両親にあいさつをしたかった。
姉に電話すると、義理の兄も忙しいから会えないということだった。信仰告白記者会見前に
「あなたがそれでいいんだったらいいよ」と言ってくれた姉だったが、いろいろな報道で統一教会の“反社会的”な行為の数々を知り、ことの重大性を感じたらしく、一転して反対の立場をとっていた。姉夫婦は、すんなりと会ってくれそうになかった。
「そしたら、テレビとか、報道の方が先になっちゃうよ。新聞とかテレビで知ることになるよ」
私はそう言ったが、姉はそれでもかまわないと言った。
(仕方ない。理解できるわけがないんだ。少しずつ話していこう)
私はあきらめて、勅使河原さんのご両親にだけでも会ってもらうことにした。
7月16日。
私たち二人は、愛知県一宮の勅使河原さんの実家に行くことになった。
電車の座席は二人別々に、そして名古屋駅からタクシーで向かった。
勅使河原さんのご両親も、統一教会には反対しているらしい。
どういうふうに、私は迎えられるだろう。「帰れ」とどやしっけられるのではないか。
押し寄せる不安の中で、彼の実家の玄関前に立った。
「ただいまあ」
彼が大きな声をかけ、ガラス戸を開ける。彼の背中ごしに目をやると、そこには、すでにお父さんが立っていらした。
「やあ、よく来ましたネ、どうぞ。どうぞ。ササ、あがって、あがって」
「ア、山崎浩子です。よろしくお願いします」
ニコニコと温かく迎えてくださるお父さんの姿にびっくりしながらも、私はペコリと頭を下げた。
以前は相当、統一教会自体にも反対されたらしい。けれど、きちんと会社に入って仕事をするならと、あきらめたのだそうだ。
かわいい息子が信じてやっていることだから、仕方ない。まだまだ統一教会には反対だけれども、どういう形にしろ二人がこうして出会ったのだから結婚は認めるしかない。
それが、ご両親のお言葉だった。
何にせよ、認めてくださったことに対し、私は言いつくせない安堵感を覚えた。
温かな手料理をおなかいっぱいいただき、笑顔に送られて帰路についた。
帰りの新幹線は、同じシートに身をうずめた。その日の印象や、小さい頃の話などで、二時間はあっという間に過ぎていった。
そして東京駅。
彼に続いて、ホームに降り立った私は、その第二歩目を、彼と反対方向に向けていた。私の視界に、走り回るカメラクルーの姿が飛びこんできたのである。本能的に彼と逆の方向へと歩き始め、ただ見つからないようにと思いながら、冷静になるようっとめた。
しかし、やはりリポーターに見つかり、質問ぜめにあうことになった。


スクープを狙うテレビ局に遭遇
「山崎さんですね。今日はお相手の方と一緒だそうですが……、ご実家の方へいってらっしやったとか……」
幸い、カメラはいない。リポーターとカメラクルーははぐれてしまっているようだ。
私は羽田空港の時と同じく、無言で通すことに決めこんだ。
(スクープなんて絶対とらせない)
彼と反対方向に歩き出した足を、元の方向に戻したとき、彼とは十メートルぐらいの差がついていた。彼はチラチラと私の方を見ながら歩く。
大塚原研会長が、八重洲中央口に迎えに出てくれているはずだ。でも会長の車に一緒に乗りこんだら、テレビ局の思うツボだ。どうすればいいのか、考えながら歩いていると、やっと私を捜しあてたカメラクルーが走ってきて、私の姿を収めている。
そのうちに、彼が何かしら合図をして、私の視界から消えてしまった。
(ウ~ン、いったいどうなるんだろうなあ)
と考えこんでいると、
(アレ?)
道がわからなくなってしまった。
しっかりと矢印にそって歩いてきたはずなのに、方向音痴の私は、いつのまにか、今いるところがどこなのかわからなくなったのである。
リポーターの質問にも、ツンとすまして、一言も話さずに歩き続けていた私だったが、たまらなくなって声を発した。
「すいません。八重洲中央口はどこですか」
リポーターはていねいに答えてくれる。
「エ? 八重洲中央口はここですけど……タクシー乗り場はあっちです」
「すいません。ありがとうございます」
何と私は、目的の場所にいながら迷子になっていたのだが、おかげでタクシーに乗るんだと勘違いしたテレビクルーは、先まわりするために、ドドドッと去っていってくれた。
ふと見ると、もうー班、クルーがいる。こともあろうに、大塚原研会長の車の前に陣取っているではないか。だが、会長だとは気づいていないらしい。
公衆電話を見つけて、車内電話にかけた。
「あのー、どうしましょう。勅使河原さん、いなくなっちゃったんですけど……」
「大丈夫。彼はもう電車で帰ってもらったから。ドアを開けとくから、そのまますべりこんできてください」
私は、カメラに向かって歩きだし、何事か質問されるのを背にうけながら、サッと通りすぎて車に乗りこんだ。
運転手もあわてているので、発進がスムーズにいかない。
後方で、女性リポーターが、
「ナンバー、ひかえて!」
と叫んでいる。
その声をあとにしながら、私たちは無事、闇へとまざれこんでいった。

 


(つづく)

 


解説
第3章では、山崎浩子さんが旧統一教会での合同結婚式に参加するもその後“拉致・監禁”に至るまでの様子がていねいに描かれています。

いよいよ合同結婚式のお相手、勅使河原秀行氏(テッシー)と出会いますね。


獅子風蓮