獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

山崎浩子『愛が偽りに終わるとき』第1章 その7

2022-12-07 01:54:42 | 統一教会

以下の文章は、山崎浩子『愛が偽りに終わるとき』(文藝春秋1994年3月)
より、引用しました。
著作権上、問題があればすぐに削除する用意がありますが、できるだけ多くの人に読んでいただく価値がある本だと思いますので、本の内容を忠実に再現しています。
なお、漢数字などは読みやすいように算用数字に直しました。

(目次)
■第1章 「神の子」になる
□第2章 盲信者
□第3章 神が選んだ伴侶
□第4章 暴かれた嘘
□第5章 悪夢は消えた
□あとがき



信仰のために恋人と別れる
私は少しずつ、ほんの少しずつではあるが統一原理にのめりこんでいった。とくに『堕落論』を聞くと胸が痛んだ。
「私たち人類の罪は、人類の始祖、アダムとエバに起因している」
エバは神の言いつけを守らずに、時ならぬ時に不倫をしたのだという。エバと同じように罪を犯したアダム。その罪は、子々孫々と受け継がれている。だから今日、この終末の時、この世は不倫だらけ。性の乱れは増していくばかり。この罪を清算するためには、統一原理を受け入れ、神が選ぶ相手との正しい結婚が必要だという。
実はその時、私にはつき合っている人がいた。正しい結婚というものがどういうものか、私にはまだよくはわからなかったが、その人とのつき合いを続けていくことはよくないことだと思うようになった。
とても優しい人だった。
「結婚しようか」
と言われて、結婚してもいいかなと思ったことがないではない。
でも、ウンとうなずくことはしなかった。
一緒にいてとても楽しいし、何が不満といって別にないんだけれど、踏み切ることができなかった。
心のどこかで、この人じゃないんじゃないかという想いが、いつも頭をもたげていた。理由はない。インスピレーションとしか言いようがない。
(この人じゃないかもしれない)
そう思いながらも、今、現実に好きだからつき合っていた。
私はすっかり信頼していた霊能師のM先生に尋ねた。
「いま、つき合っている人がいますが、別れた方がいいんですか」
「そうねえ、あんまり深いつき合いはしない方がいいわね」
でも、学べば学ぶほど、交際を続ける自分に対し罪悪感がつのった。自分がものすごく汚い存在に思えた。神様の願い通りに生きていない……と。
その人に会うたびに、「神様、ゴメンナサイ」と心の内で叫んでいた。
悩んだ末に「別れなければならない」と決心をした。これ以上、神様を悲しませるわけにはいかないし、これ以上罪の意識にさいなまれたくなかった。統一原理の理解度が深まるごとに、その人のためにも別れた方がいいと思うようになった。
が、別れようと思ってもそう簡単に別れられるわけがない。私は今、こうしてこの人を好きなのだから。
何度も別れの言葉を口に出そうと思いながら、時が過ぎていく。


「もう恋なんてしない」
「どうしたの。最近変だよ」
私の態度が変なのを気にして、彼が問いかける。
苦しくて仕方がない。
「別れたい。一人になりたい」
その言葉がノドまで出かかっては、またその人の愛に包まれていく。
そんな繰り返しの中で、私はついに、
「一人になりたい」
そう言った。
「……いつかは、そう言い出すんじゃないかと思っていた」
彼は特別に驚いた様子でもなく、ポツリと言った。私とつき合い始めた時から、いつか自分もとから離れていくことを感じていたという。そして最近の私の様子から、別れを予感していたらしい。
別れたい理由は口にしなかった。
神様のために別れる、なんて言っても、わかってもらえるはずがない。宗教の話は、彼に一度だけしたことがある。けれど、彼はそういう話があまり好きではなかったので、会話がかみ合わず、その話はそれっきりになった。
今ここで、別れの理由を口にしたとしても、血迷ったとしか思われない。
こういう恋愛は許されないんだとか、恋愛をすること自体が罪なんだとか言われて、すぐに理解できる人などいないはずだ。
彼は、何も言わずに部屋を出ていった。
玄関のドアがガタンと重い音をたてて閉まった時、私は声をあげて泣いた。
つらく悲しく、苦しい別離だった。
きらいになれたらと何度も思った。心がその人のところへ飛んでいって、自分の胸に帰ってこない日が続いた。
そんな想いを解決してくれたのは、何よりも“時の流れ”だった。
移りゆく、流れゆく時間とともに、心が戻ってくる。苦しんだ時間は、ゆっくりと過ぎ去っていった。
しかし、突然の別離は、その人の心を傷つけた。そして、好きなのに別れるという結末は、私の心をも引き裂いていった。
__もう恋なんてしない。
統一原理からいっても、自由な恋愛は許されざるべきもの。こんな想いは二度としたくない。
__私はもう恋はしない。
そう、何度も自分に言い聞かせた。


文鮮明という人
「文鮮明(ムンソンミョン)」。
私は今までこの人物を知らなかった。統一教会の創始者。現在の朝鮮民主主義人民共和国、定州生まれ。元の名は「文龍明(ムンヨンミョン)」。
「文鮮明師こそ、メシア(再臨主) なのです」
私は、カトリック系の高校で学んだが、クリスチャンだったわけではない。祖母は日蓮宗だったが、父も母も無宗教。私自身もさしてメシアを待ち望んできた人間ではない。文鮮明師こそメシアであると言われても、何だかピンとこなかった。
たしかに教えは素晴らしいと思った。しかしその教えを説いてくだざるのが再臨主「文鮮明」であるのにもかかわらず、この人を受け入れることがなかなかできなかった。人を見た目で判断してはいけないが、いやらしそうな目がどうも好きになれなかった。教会の皆は、「お父様」と呼び涙を流しながら祈っているが、額に入れられた写真を前にしても何の感動もなかった。
(文鮮明師とは、いったいどんな人なのだろう)
会ったこともない人を、聞いただけで判断することはとても難しいことだった。
日本に来ていた頃は、抗日運動の取り調べで、死ぬほどの拷問を受けたという。無実の罪で何度も刑務所に入れられ、それでも迫害は甘んじて感謝して受け入れた。
「為に生きる」
「恩讐を愛せよ」
これが文師のいわんとするところであるという。打たれても、つらくとも、自分のすべてを捨てて、愛をもって人類救済の道を歩んでおられる文師……。
私はふと、高校時代の新体操の恩師のことを思い出した。


(つづく)

 


解説
第1章では、山崎浩子さんが旧統一教会と出会い、入信するまでがていねいに描かれています。

山崎浩子さんは少しづつ、「統一原理」にのめりこんでいきます。

エバは神の言いつけを守らずに、時ならぬ時に不倫をしたのだという。エバと同じように罪を犯したアダム。その罪は、子々孫々と受け継がれている。だから今日、この終末の時、この世は不倫だらけ。性の乱れは増していくばかり。この罪を清算するためには、統一原理を受け入れ、神が選ぶ相手との正しい結婚が必要だという。

という「統一原理」なるものは、私からみればあやしいものでしかありません。
とくに、「神が選ぶ相手との正しい結婚が必要だ」というところがあやしい。
その神とは、文鮮明だというのだから、気持ち悪くなります。

でも、現代社会がどこかおかしいと感じている真面目な若者には、「統一原理」が魅力的に思える部分があるのかもしれません。
特に純潔を求める部分は、一部の女性たちに受け入れられるところなのでしょう。


獅子風蓮