山崎浩子『愛が偽りに終わるとき』(文藝春秋1994年3月)
より、引用しました。
著作権上、問題があればすぐに削除する用意がありますが、できるだけ多くの人に読んでいただく価値がある本だと思いますので、本の内容を忠実に再現しています。
なお、漢数字などは読みやすいように算用数字に直しました。
(目次)
□第1章 「神の子」になる
□第2章 盲信者
■第3章 神が選んだ伴侶
□第4章 暴かれた嘘
□第5章 悪夢は消えた
□あとがき
祝福の日----「万歳」の大合唱の中で
合同結婚式の前日、桜田淳子さん、徳田敦子さん、そして私は、それぞれの相対者とともに、お父様とお母様のお宅にごあいさつに伺った。
お父様は、私たちが日本中に合同結婚式の素晴らしさを訴えたことを、とても喜んでくださり、
「これからも、3カップルが主軸となって、その素晴らしさをアピールしていくんだ」というようなことを、日本語で熱心に語られた。
とても聞き取りにくい日本語ではあるが、1メートルほどの至近距離で初めてお父様にお会いした私は、必死で耳を傾けた。
間近で見るお父様のお姿とそのお話に、身の引き締まるような想いがした。
そして8月25日。
3万双(組)の祝福が行われるその日は、深夜の大雨がウソのように晴れわたった。
「ああ、神様が喜んでくださってるんだ」
私のこんな奇妙な結婚を、非常識な結婚を、誰が祝福してくれなくてもよかっだ。ただ神様が喜んでくださっているというだけで、私の心もまた喜びに満ちあふれた。
自分で化粧をしてウェディングドレスにそでを通す。
(父ちゃんも母ちゃんも喜んでくれていることだろう)
私は8月に屋久島に帰った際に見つけた、両親の結婚式の時の写真を、バッグの中にすべりこませた。自分たちと共に、神の祝福を受けさせたかった。
迎えにきてくれた勅使河原さんに向かって、「きれいでしょ」と言うと、彼は苦笑しながら
「ウン」と答えた。
ソウルオリンピックスタジアムにつめかけた何千、何万という新郎新婦たち。
多くのものを捨てて、ただひたすらに苦難の道を歩いてきたというのに、どの顔もぬけるような青空と変わらぬほど輝いていた。
普通なら異様としか映らないであろう、その光景も、神様の喜びと思えば、素晴らしい光景だった。
勝利の証ともいえる祝福の指輪は、日本を発つ前に各自に渡され、結婚式の際に相対者と交換することになっていた。その指輪を勅使河原さんから右手のくすり指にはめてもらった時は、何とも言えぬ誇らしさが胸を満たした。
「万歳(マンセー)」「万歳」「万歳」
天高く突き上げられた腕、響きわたる声、はじけんばかりの笑顔は、いつまでも脳裏に焼きつくこととなった。
3万双の合同結婚式は、何百人という日本からの報道陣を巻き込んで、大フィーバーのうちに幕を閉じた。
祝福後40日間は聖別期間であって、相対者よりお父様を慕って過ごさなければならない。
私は毎日、夜の祈りでは本当に神の祝福を感謝し、メシアのことを思った。
「聖別期間には、お父様の夢を見るぐらいでないとダメなのよ」
霊能師であり、私のアベルであるM先生はそう言って、自分の時のことを振り返っているようだった。
「浩子さん、夢は見ましたか」
「いえ、まだ」
「あらー、がんばってねえ」
今日こそは、今日こそはと思っているのだが、なかなかメシアは夢に出てくれない。
「浩子さん、今日は?」
毎日のように聞かれるたびに、私は自分の信仰心のレベルの低さを思い知らされた。
(私の祈りが足りないんだ。メシアを思う気持ちが足りないんだ)
私は自分を責めた。
勅使河原さんはそんな私をかばい、
「夢なんか見なくったっていいんだよ。そんなんで信仰心がはかれるわけじゃない」
と言ってくれた。
「だいたいM先生はホントに霊能師なの。統一教会に霊能師なんていないよ」
(ン?)
「そんなことないよ。M先生は霊能師だよ」
私はそう答えたが、勅使河原さんの言葉が頭のどこかにひっかかった。何か聞かなきゃいけないことがあるようで、でもそれが何かわからなかった。
霊感商法、ニセ募金、強制献金は事実なのか
テレビでは相変わらず、統一教会問題を取り上げている。
私はワイドショーも、普通の新聞も雑誌もあまり見なくなっていたので詳しいことは知らないが、私の霊の子であるT子が、それらを見て質問してくる。
彼女はここ一年ぐらい、この大騒動もあってほとんど御言を学んでいなかった。だから疑問に思ったことをビシバシ聞いてくる。
「テレビに何とかという韓国人が出ていて、祝福を受けた人の離婚率は40パーセントつて言ってたよ」
「それ、ウソだよ。M先生から電話があって、教会の人に調べてもらったら、0.7パーセントぐらいだって言ってたって」
私も40パーセントと聞いたときはビックリした。祝福を受けてそんなに離婚しているとは信じられず、0.7パーセントとM先生から言われて安心したものだった。
「霊感商法っていうのを、世間にうまく説明できる方法はないの?」
「あのね、霊感商法っていう言葉はね、共産主義の人たちが造った言葉なんだよ。霊感商法をうまく説明する方法は、統一原理を知ってもらう以外ないんじゃない。知れば絶対わかることなんだけどね。神のもとへ帰っていく第一歩は万物復帰でしょ。今は被害にあったとか言っている人でも、霊界に行けばきっと感謝するんだよ。ああ、あの時売ってくれてありがとうって。万物だけでも授かってれば、霊界でのランクが違うからね。知らないうちにメシアを受け入れたという条件になるんだから、万物を授かるっていうのは大切なことなんだよ。でも、それを説明しろと言われても霊界のことだからねえ。目に見えないから難しいよねえ。統一原理を勉強してくださいって言うしかないよね」
「ウ~ン、そんなんでいいのかなあ。それとね、なんかニセ募金もしてるらしいよ。難民救済のためにとかいって証明書まで偽造して募金しまくってるという話じゃない。それでその募金は難民にはほとんどいってないらしいよ」
そんな話は聞いたことがなかった。M先生に聞いてみると、
「あらー、そんな人もいるのねえ。これだけ兄弟姉妹がいると、いろんな人がいるからねえ。でも、その兄弟の、神のためにという切実なる想いを考えると、私たちは何も言えないわねえ」
そうだ。何より動機が大切なのである。たとえウソを言ってお金をもらったとしても、それが天のために使われるのだったら、神様も許してくれるのだろう。
__憲法より天法を重んじよ。
よく聞かされていた言葉じゃないか。
聖書の中でも、イサクの息子ヤコブは、神の祝福のために、親であるイサクさえもだました。だまして天の勝利を得てきたのである。動機だけは天の前に正しくありたいと思った。
「私の知ってる人が、最近統一教会に入ったんだけどね。一日中せまい部屋に入れられて、食事もぬきで、ずっとカンヅメで献金をせまられたんだってよ。もうお願いだから解放してって気持ちで、献金することになったんだって。なんか年収まで聞かれたらしいよ」
またT子が言いつけにくる。M先生に尋ねると、
「あらー、おかしいわねえ。そんなふうにやっているとこなんかどこにもないのにねえ。困ったわねえ」
ということだった。
また、ある人が、知人の身体障害者に御言を伝えたいとアベルに相談したら、「そんな身体障害者なんか連れてくるな、かまってるヒマがない」と言われたというのを聞いた。
統一教会の中にも変な人たちはいるらしい。こんなふうだから、テレビや雑誌でいろいろと書かれてしまうんだ。いくら神のためとはいえ、よくないところは改善していかなければならない、私はT子の話を聞いて、そう思った。
「山崎浩子は生意気だ」
ある時、教会の広報部の人に呼ばれて、取材を受けてくれるよう頼まれた。婦人向けの雑誌で、私に関する記事を数ページ組んでくれるという。
私は、何のために取材を受けねばならないかを質問した。
今はいろいろたたかれてるから、神側からの反撃のためというようなことを言われた。
「私は会見から今まで、一切何の取材にも答えていません。信仰告白は記者会見で終わっています。それ以外何も言うことはありません。私が取材に答えたからといって、世の中の流れが変わるわけじゃないと思います。うたれるならどんどんうたれた方がいい。ウミは全部出しきって、それでよりよいものにしていった方がいいと思います」
私は生意気かなと思いながら、そう言った。事務所のT子も続けてつけ加える。
「どうして統一教会が山崎の取材の窓口になってるんですか。うちが事務所なんですから、取材を受けるか受けないかは、こちらで決めさせてください。そして、事務所として、お断りします」
マスコミの取材を受ければ、霊感商法について聞かれるのはわかりきっている。私はそれにかかわっていないから、何も答えることができない。
教会は「霊感商法については答えなくていいし、記事は事前にチェックできるから安心していい」というが、マスコミはそんなに甘くない。
私たち二人は、信者にあるまじき行動をとっていた。アベル(信仰の先輩) のいうことは絶対であるはずなのに。その時の私たちはただの会社の人間になっていた。
「浩子さんはねえ……、とっても天的になってるから、浩子さんの言うことも正しいと思うわよ。でも、もう少し祈ってから答えを出してもいいと思うわねえ」
信仰告白記者会見を行ってからというもの、M先生は私のことを「天的になっている」、つまり神側の考えにたっていると高く評価してくれていた。
M先生が同意してくれたことで、ますます心強くなった。
少し気まずい雰囲気だったが、気にしないようにつとめ、取材の件は改めてお断りした。
しかし、後日、「山崎浩子は生意気だ。気の強さだって信仰からくるものじゃなくて、新体操でつちかわれだものだ」というような現教会員幹部夫人のコメントが、ある週刊誌にのっていた。
すぐにM先生から、「調べたけど誰もそんなこと言ってないそうよ」と連絡が入ったが、もしかしたらホントにそう思われてるかもしれないなと、生意気だった態度を反省した。
(つづく)
【解説】
第3章では、山崎浩子さんが旧統一教会での合同結婚式に参加するもその後“拉致・監禁”に至るまでの様子がていねいに描かれています。
いよいよ「3万双(組)の祝福」(合同結婚式)が行われました。
獅子風蓮