獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

山崎浩子『愛が偽りに終わるとき』第1章 その3

2022-12-03 01:54:00 | 統一教会

以下の文章は、山崎浩子『愛が偽りに終わるとき』(文藝春秋1994年3月)
より、引用しました。
著作権上、問題があればすぐに削除する用意がありますが、できるだけ多くの人に読んでいただく価値がある本だと思いますので、できるだけ本の内容を忠実に再現しています。
なお、漢数字などは読みやすいように数字に直しました。

(目次)
■第1章 「神の子」になる
□第2章 盲信者
□第3章 神が選んだ伴侶
□第4章 暴かれた嘘
□第5章 悪夢は消えた
□あとがき



白亜のマンションの霊能師
ある日、O氏から連絡が入った。
「私より、もっと上の霊能師の先生がいらっしゃるんですけど、お忙しい先生でね。でもその先生が山崎さんに会ってくださるというんですけど、会われてみてはいかがですか」
忙しい先生が私のために会ってくださるというので、うれしくなった。
怖いもの見たさというのだろうか。そこに何が待っているのかわからないけれど、私はもう何かに向かって走りだしていた。自分を変える第一歩だと思った私は、
「はい」
と答えた。
三軒茶屋の駅からすぐのところに、その人は住んでいるという。待ち合わせをして、O氏に道案内してもらう。
「いやあ、ホントに素晴らしい先生なんですよ。……さあ、ここです。どうぞ。ちょっとイメージと遭うかもしれないですけど……」
(たしかに……)
霊能師の先生というと、何となく寂れたたたずまいに、枯れた老人を自分なりにイメージしていた。だが、そこは白亜のマンションで、3LDKか、もっと大きいか、とにかく女性が好みそうな、小ぎれいなマンションの一室だった。
窓から明るい陽の光がいっぱいに差しこみ、観葉植物がその光を穏やかに受けている。大きなテーブルには白いレースのテーブルクロスがかけられ、お掃除も行き届いているようだ。
私は少しばかり緊張した面持ちで、年老いた霊能師を待った。
お手伝いさんみたいな人が、温かいコーヒーやクッキー、そしておしぼりを差し出してくれる。
ビデオセンターのカウンセラーと同じような柔らかい雰囲気を持った人で、やさしそうな笑顔を浮かべている。
「先生は今、奥でお祈りをしていらっしゃるので、ちょっとお待ちいただけますかあ。その間に……」
語り口調までカウンセラーと同じで、語尾が伸びてあがる。
彼女は白い紙とペンを持ってきた。よくお祈りが通じるようにと、家系図をつくるらしい。
しかし家系図といわれても、私は父方の祖母をよく知っているだけで、あとは自分の両親と、姉たちのことしか、よくわからない。父が83年に肝硬変で死亡、というぐらいしか明確にできなかった。
彼女は、先生を呼んでくるといい、部屋を出て行く。私は姿勢を正して「先生」を待った。
しばらくして、ドアが大きく開けられた。
そこに現れたのは、老人ではなく、40歳前後の若々しい「M先生」と呼ばれる女性だった。


チンプンカンプンだった“先生”の話
「M先生」は、私の二倍はあろうかという巨体の持ち主だったが、そのふくよかな身体からは温かさがあふれているように見えた。そして、何もかも見透かされてしまうような、瞳の輝きを持っていた。
私はあれこれと自分の生い立ちを話した。
「あなたは、とってもいい額をしてるわねえ。先祖の徳が高いですよ。何かお姫さまみたいな背後が見えますねえ。先祖で、改革をしようとして果たせなかった人がいるようです。何か大きい使命があるようですよ」
M先生の言葉に、私は少し気分をよくした。
M先生の話と、O氏に以前聞いた話とはさほど変わるものではなかった。ビデオと同じで、悪なる心を善の方へと持っていかなければならないとか、そんな話だった。ただ、M先生はとてもふくよかで、そのぶん人が良さそうに見え、女性ということもあってO氏よりも話しやすそうな人だなという印象を持った。
「御言(みことば)は問いてるの?」
「はあ?」
何のことかさっぱりわからない。
さっきの“お手伝いさん”が、
「ビデオで学んでいらっしゃるんですよね」
と、私に尋ねる。
「あ、はい」
私がそう言うと、M先生は、
「そう、しっかりね」
と、目を見開いてなぜだかわからないが励ましてくれる。
「条件はやってるの?」
また、わけのわからない言葉が出てきた。テンプンカンプンである。
“お手伝いさん”が、「まだ、たぶん……」と答えている。
「そう、じゃあ、お父さんのために、初水(はつみず)をやったらいいわネェ。朝起きて、最初の水をくんで、お父様に供えるといいのよ」
「あ、それならやっています。それから、亡くなった父の名前と母の名前と、自分の名前を毎日書いています」
私はO氏に言われてやっていることを口にした。
「写名行ね……。そう、じゃあ、これからもがんばって」
M先生は瞳をキラキラと輝かせ、両手にガッツポーズをつくってみせた。何かわからないけれど元気づけられて、私は白亜のマンションをあとにした。


私の中に“サタンの血”が流れている
それからしばらくして、何度目かのビデオ学習の時だった。私は、ビデオを見ながら、心臓がグサッと刺されたようにドキッとし、その高鳴りがいつまでもおさまらなかった。
それは、私たち人類が神の子ではなく、サタン(悪魔) の子であると聞かされた時だった。今まで、両親に愛され、温かな家族の中で育ってきた私にとって、その言葉は衝撃的だった。
しかも、ついさっきまでビデオの中から、「神は人類の親である。神様が親の愛情をそそいで、私たち人類がここに生きて居るのだから、私たちも神様を喜ばせるような生き方をしなければならない」と教えられていたのだから、ショックは大きかっだ。神様がとても近い存在に思えて、幸せな気持ちになっていたというのに……。
(私は、悪魔の子? 私の身体には悪魔の血が流れているというのか)
「いかがでしたか?」
ビデオを見終わり、担当カウンセラーの質問に、ついに涙があふれた。
「自分がすごく汚い存在に思えて……」
あとは言葉にならなかった。ただただ、ずっと泣き続けるだけだった。
人類始祖、アダムとエバは、それぞれが人間的に十分な成熟をし、個性を完成させたあと、神が定めた時に結婚して夫婦となり、子女を産み増やし、神の愛に包まれた家庭を築くべきであった。
それなのにエバは、サタンの誘いにのって、サタンと淫行を行った。そして、その後エバとアダムは、時ならぬ時に淫行を犯し、それが罪の根、原罪となった。それによってサタンの血が受け継がれ、その罪は、人類歴史上とぎれることなく綿々と流れてきているというのだ。
だから、この世はサタン世界となり、愛は乱れ、不倫がはやり、性犯罪が頻発するのだと。
テレビから、一日だって悲しいニュースが流れない日はない。小さい犯罪から、歴史上繰り返されてきた戦争までも、この愛の問題に起因しているのだという。
自分の中に悪い心があることは知っていた。いつも善い心と悪い心が闘って、そしてその闘いの上に、成長してきたのだと思っていた。それが、悪なる心は受け継がれてきたサタンの想いであり、完全に取り除かなければならないものだということを知ったとき、私の中に流れるサタンの血と心をはやく取り除いてしまいたいと思った。
私はたくさんの人たちに愛され、私自身も人を愛してきた。それがサタンの心に支配されたものかと思うと、自分の今までの人生をすべて否定されたような感覚に陥った。
その日一日中、気分が悪くて仕方がなかった。
しかし、数日後のビデオで、今が再臨主(メシア) が来られる時代だというメッセージを聞き、どん底にいる気分の私に、少し明るい未来がのぞいたような気がした。自分の悪い部分や、このサタン世界を変えてくれるメシアが来られる時代に、私が生きているということに救われたような想いになった。

 

(つづく)

 


解説
山崎浩子さんが旧統一教会と出会い、入信するまでがていねいに描かれています。
この段階でもまだ、勧誘側は「統一教会」の名前は出しません。
それにしても、統一教会は、信者獲得のために霊能師を使ったりしていたんですね。

獅子風蓮