獅子風蓮のつぶやきブログ

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乙骨正生『怪死―東村山女性市議転落死事件』Ⅱ章 その1

2023-02-17 01:48:15 | 東村山女性市議転落死事件

長井秀和が西東京市市議会議員選挙で当選を果たしました。
その選挙戦の中で、長井秀和は東村山市議転落事件に言及し、それを創価学会は誹謗中傷ととらえ、告訴に踏み切るというきな臭い争いも起きているようです。
私は、長井秀和自身はどうでもいいですが、東村山市議転落事件については真相解明を望むものです。
そのためには、何が問題になっているかを、今一度冷静になって考えるべきだと思います。
基本的な情報を共有するために、いくつかの資料を提示したいと思います。

乙骨正生『怪死―東村山女性市議転落死事件』(教育史料出版会1996年5月)
より、引用しました。
できるだけ多くの人に読んでいただく価値がある本だと思いますので、本の内容を忠実に再現しています。
なお、漢数字などは読みやすいように算用数字に直しました。

なお、乙骨さんにはメールで著書を引用している件をご報告したところ、快諾していただきました。
ありがとうございます。

(目次)
□まえがき
□Ⅰ章 怪死のミステリー
■Ⅱ章 疑惑への道のり
□Ⅲ章 対立の構図
□Ⅳ章 たたかいの軌跡
□Ⅴ章 真相を明らかにすることは民主主義を守ること
□あとがき


Ⅱ章 疑惑への道のり

「当選返上」問題

◆「ムラ議会」改革のために
朝木直子さん、矢野氏をはじめとする遺族、関係者が、朝木さんの死を他殺と考えるのには、それなりの理由がある。1995年(平成7)4月の統一地方選挙以後、朝木さんと矢野さんの身辺をはじめとする「草の根」の周辺では、万引き凝感という不可解な事件をはじめ、暴行、脅迫、放火などの悪質な事件が相次いで生じていたからだ。
95年4月23日に投票が行われた統一地方選挙・東村山市議選に、「草の根」は朝木明代、朝木直子、矢野穂積の3氏を擁立、議会運営委員会への出席資格を得る3議席の獲得を目指した。結果は、朝木明代さんが2622票を獲得してトップ当選。朝木直子さんも1926票を獲得しての4位当選だったが、矢野氏は最下位当選者に52票届かぬ1249票で次点だった。
「草の根」全体の総得票数は、5797票(得票率率11%)で、これは3人当選の社会党の総得票数4593票(得票率8%)を1200票以上凌いでいる。だが、組織のない悲しさ、得票数は多かったが、それをうまく振り分けることができず、目標の3議席獲得はならなかった。
この結果を受けて「草の根」では、「ムラ議会」の改革を推進するためには、27歳と若く政治経験の少ない直子さんが議席を得るよりも、「東村山市民新聞」の編集長として議会の傍聴経験も豊富で、市政に精通している矢野氏が議席を得る方が、「草の根」を支詩してくれた市民の期待に応えることができると判断。直子さんが東村山市から転出することで当選を返上し、矢野さんに議席を譲ることにした。
95年5月31日付「東村山市民新聞」第65号に、当事者の一人である直子さんは、「当選返上と公約実現」というタイトルで、次のような「アピール」を掲載。市民の理解を求めている。

「私は、当初、今回の市議選出馬を考えていませんでしたが、選挙直前の4月初めに、予定者が出馬を中止したため草の根支持者の皆さんから『ぜひムラ議会改革のために出馬してほしい』と強い要望を受けました。
ムラ議会の改革のためには議会運営に発言権をもつ『会派』を3名以上の議員でつくる必要があったからです。
が、開票の結果、『草の根』は第1位、第4位と次点でした。
『草の根』は今回、予定の3名でなく2名当選というなお厳しい条件下で、法令を無視するムラ議員らとより果敢に闘っていかなければなりません。
この場合、同じ2議席といっても、次点でしたが本紙編集長で議会や行政に精通し、法律に強い矢野さんと朝木明代議員の2人組の方が、私、朝木直子と朝木明代議員の2人組よりもはるかに強力でムラ議員達とより果敢に闘えることは、誰の眼にもはっきりしています。
そこで、私は折角手にした第四位当選の議席でしたが、考え抜いた末、出馬を強く要請された方々のご了解をえて『当選返上』を決断しました。『当選返上』といっても簡単に誰にでもできることではなく、議員報酬のお手盛り値上げ分を返上している『草の根』だからこそ可能な方法だと自負しています。
私の行動は、公約実現のためで、勿論、無責任に政治参加の意志を捨てたわけではありませんし、支持者の方々が必要とされるなら東村山に戻り、都政などに再挑戦する考えです」

◆賛否両論
しかし、全国でも初めてというこの「当選返上」は、市民の間に賛否両論を呼び、マスコミも大きく取り上げるところとなった。
「当選人の繰上補充」を定めた公職選挙法第97条は、当選人が当選資格を喪失した場合、直ちに選挙会を開き、繰り上げ当選人を決めることを義務づけている。したがって、直子さんの転出による当選資格の喪失に伴う矢野氏の議席繰り上げは、公選法上はなんら問題ない。実際、東村山選挙会は、5月21日、直子さんの当選辞退と矢野氏の繰り上げ当選を認めている。
とはいうものの、繰り上げ当選はすんなり認められたわけではなかった。東村山市選挙会では、「草の根」の議席譲渡に反対する立場の政党推薦の選挙立会人から、「議席委譲は憲法に反する」などの異議が続出。4月28日と5月11日に開かれた選挙会がいずれも、立会人の妨害によって流会するなど、混乱を極めた。この立会人の異議申し立てについては、自治省選挙課が「選挙会は、当選を決定する手続きそのもので、法的要件を満たしている繰り上げ補充は客観的に進めるべきだ。選挙会の決定は選挙長が判断するもの。立会人は、手続きの間違いなどでは指摘できるが、モラルなどの議論をすることは規定にない」(「讀賣新聞」95・5・20)との見解を示すように、本来は越権行為。もともと、選挙の公平を期すため得票数を確認するのが立会人の役割。その立会人が、当選辞退や繰り上げ当選の是非について異議をさしはさみ、選挙会を流会させることは公選法上、明らかに問題がある。
こうした混乱を収拾するために、都選管も、繰り上げ当選には法的に問題がないとして、東村山市選管が市議の任期が始まった5月1日をすぎてもまだ、繰り上げ当選を認めないのは、「違法状態」と指摘、速やかに繰り上げ当選を認めるべきだと指導したことから、矢野氏の繰り上げ当選は、三回目の選挙会においてようやく認められたのであった。公職選挙法の建前からいえば、直子さんの当選辞退と矢野氏の繰り上げ当選はすんなり認められるべきが筋であった。しかし、多年にわたり「草の根」の厳しい批判にさらされ、煮え湯を飲まされる思いをしてきた創価学会・公明をはじめとする反「草の根」勢力は、ここを先途と「草の根」批判を強化し、実力で繰り上げ当選を阻止しようと動いたのだった。
こうした動きに対し「ムラ議会」の改革を願う市民からは、議席譲渡を理解し、支詩する声も多数よせられた。
「市議選に当選した朝木直子氏が、次点となった同じ市民グループの矢野穂積氏のほうが『知識、経験が豊富』として当選を辞退、議席を失った。私は朝木氏に今回一票を投じた一人である。(中略)落選した以上矢野氏は、後方支援に徹するべきだと思いつつも、私は矢野氏が議員になることがうれしい。矢野氏は当選確実と思い朝木氏へ投票した事情もあるか、議会外からの支援には限界があり経験豊富な他議員に朝木氏が立ち向かうのは難しいだろうと思うからだ。(中略)議長は朝木氏の行動を『議会を愚弄するもので社会的には許されない』と批判しているそうだが、議員への給付金は毎回難なく増額し市民を愚弄しているのはどちらか」(『讀賣新聞』95・5・3)
だが、こうした声がある一方で、「草の根」を支援もしくは応援してきた市民の間にも、法的に問題ないとはいえ、個人投票の色彩が濃い市議選で、同一会派とはいえ、議席を譲渡することは納得できない、道義的責任があるのではないかという声も少なくなかったのである。
その意味では、厳しい政治状況に置かれていたとはいえ、市民の追い風を満帆に受けての順調な歩みを続けてきた「草の根」にとって、「当選返上」問題は、初めての逆風だったといえる。

◆「草の根」批判キャンペーン
こうした世論を背景に、創価学会・公明をはじめとする自民、社会、新進などの政党関係者やその支持者は、5月2日、「草の根グループの議席の私物化を許さない会」を結成。激しい「草の根」批判キャンペーンを開始し、機関紙『手を結ぶ市民のニュース』の発行、議席譲渡に反対する市民集会の開催、矢野氏の議員辞職を求める請願署名などを次々と実行した。
「私物化を許さない会」が結成された5月2日には、『手をを結ぶ市民のニュース』の発行責任者の一人に名を連ねるU氏らが主催して開いた「市議の当選返上を考える会」で、参加者のT氏が、「草の根」の見解を伝えるために主催者の了解を得て出席していた朝木さんに、「月夜の晩だけではないからな」とか「お前もリコールしてやる」などと脅迫まがいの暴言を浴びせるとともに、朝木さん所持のマイクロカセットレコーダーを床に投げつけて壊すという器物損壊事件を起こしている。これについては、所有者の矢野氏が、T氏を器物損壊罪で東村山署に告訴。同事件は検察庁に書類送検されている。
5月25日付『毎日新聞』多摩版掲載の「取材かわら版」は、「東村山『議席譲渡』批判」との見出しのもと、議席譲渡をめぐる東村山市議会の混乱の背景を伝えているが、議席譲渡を批判するスタンスと思われる記者の筆からも、議席譲渡を批判し攻撃する勢力の「草の根」憎しの怨念のすさまじさが窺える。
「『そこ(議席)に座っていられるのも今のうちだぞ』。23日、改選後初めて開かれた東村山市議会。「繰り上げ当選」を果たした市民グループ『草の根』の矢野穂積議員に、他の議員や傍聴席から激しい野次が飛んだ。
『草の根』と他の議員たちの反目・対立は、今に始まったことではない。8年前の選挙で、今回、当選辞退した朝木直子さんの母、朝木明代さんが初当選。矢野氏が発行する無料紙『市民新聞』とタイアップして、議会の『談合体質追及』を始めてからだ。
他議員が全員参加している親睦会に入らない。視察旅行にも行かない。視察の宿舎を取材して議員たちがビールを何本、ウイスキーを何本飲んだかを調べ、『市民新聞』で実名入りで暴露する。ある議員は『市民新聞は人権侵害だ』と息巻く。
『草の根』から言えば、一般市民に不透明な『ムラ議会』の体質を変えるための追及だし、他の議員たちから言えば、それは揚げ足取りのような追及----ということになる。
双方の不信の溝は深まるばかりだが、朝木議員は2回連続のトップ当選を果たした。『ヤジウマ的人気』と言い切る議員もいるが、少なくとも一定の市民の支持を得てきたことは証明している。
『議席譲渡』を批判する市民集会で、ある女性参加者は『議会側にも反省すべき点があるのではないか』と発言した。しかしその声は『「草の根」がこれまで何をしてきたか考えろ」という声に打ち消された。
私は、議席譲渡に関して『草の根』の論理を擁護するつもりは一切ないし、理解できない。しかし、現在の『草の根』批判には、議席譲渡に対する批判と、これまでの活動に対する反発が混同されているのは否定できない。
内田満・早大教授(政治学)は、『今回の議席譲渡は合法的だが正統性に欠けると思う。だが、それを追及する方も、合法的でなければならない。双方が冷静になる必要がある」と指摘する。『あの「草の根」だから』の気持ちが勝ると、問題の本質を見失い、不毛な泥仕合に終始しかねない」
末文で「追及する方も合法的でなければならない」との一節がわざわざ入っているのは、「議席の私物化を許さない会」の活動が、非合法的なものであったことを意味している。
ちなみに、「議席の私物化を許さない会」の活動の柱となる機関紙『市民ニュース』の発行責任者の一人には、「東村山戸田区」と称する地元創価学会組織の元男子部長を務めたH・M氏の兄で、熱心な創価学会活動家として知られるH・S氏が名を連ねている。創価学会・公明は、「議席の私物化を許さない会」の活動でもその中核の座を占めていたのである。
その創価学会・公明は、統一地方選挙前から激しい「草の根」攻撃を開始していた。95年1月末に朝木さんは、東村山市中央公民館で創価学会問題を考えるシンポジウムを開催。同時に、『週刊新潮』の取材に答えて、東村山市政は創価学会に蹂躙されているとの見解を示すなど、創価学会との対決を強めており、こうした動きに創価学会・公明は神経をいっそう尖らせていたのである。

◆「草の根」の政治生命を封じようとする人々
統一地方選挙からさかのぼること1カ月前の3月19日に、東村山市福祉会館で開催された「草の根」の統一地方選挙に向けての出陣式には、田英夫参議院議員が出席。「草の根」候補を激励したが、その前日、田氏のもとを、元公明党書記長の大久保直彦参議院議員が訪問、「『草の根』の会合に出るそうだが、どういうことか分かっているんだろうな」と、出席を止めるように脅しをかけていた事実がある。すでにこの時点で、朝木さんと「草の根」は、元公明党の書記長という要職にあった、現平成会(参議院の新進党・公明の統一会派)会長という“大物”議員(大久保氏は元創価学会の男子部長)が、直接圧力をかける対象として、創価学会・公明に認識されていたのである。
ではなぜ、「草の根」が学会にとってやっかいな存在だったのか。学会本部関係者はその理由を次のように説明する。
「もはや『草の根』、朝木の存在は、東村山だけの問題ではなく、創価学会本部として対応すべき重大な問題になっていた。というのも、朝木母娘は市民の間で人気が高く、前回の都議選では、ポッと出た娘の直子が11000余票を獲得する善戦を見せた。次回、再び出馬すれば当選する可能性もある。東村山市議会で創価学会問題を追及している朝木が、都議会に入り、都議会で創価問題を取り上げるようなことにでもなれば、東京都認証の宗教法人である創価学会は危機的状況を迎える。そこで、なんとしても『草の根』、朝木を潰せということになった」

95年末に改正された宗教法人法によって、二つの都道府県以上にまたがる宗教法人は、従来の都道府県知事の認証から文部大臣の認証へと変更され、その所轄も文部大臣に一括されることになった。だが、この改正案が成立するまで創価学会は、二つの都道府県どころか、全国各地、海外数十カ国にまでその教線を広げていながら、東京都認証の単立宗教法人ということで、実質、治外法権ともいえる特権を享受していた。というのも、オウム真理教が、熊本県波野村で国土法違反や地元住民とのトラブルを起こしたり、山梨県上九一色村のサティアンで、サリンを製造していたにもかかあらず、東京都は管轄外ということで、いっさい手出しできなかったように、全国展開、否、海外諸国に進出している創価学会が、各地でトラブルを生じていても、東京都はその実態をなんら把握していなかったからである。
「平成3年、4年と衆議院予算委員会で、私は、二度にわたって創価学会問題を取り上げ、その違法、不法な日蓮正宗攻撃の実態や、宗教法人資格について文部省に質問した。暴行、脅迫を含む創価学会の日蓮正宗寺院や僧侶、脱会者に対する攻撃には問題があるのではないか、創価学会の行為は宗教法人法第81条が規定する法定解散事由に該当するのではないかと質問したが、文部省は、所轄の東京都が把握していないので、問題なしとの答弁をくり返しだ。その東京都の議会では、公明がキャスチングボートを握っている。したがって行政は動かないし、自民党も社会党も創価学会問題を追及しようとはしない。だから東京都議会さえ抑えておけば、創価学会は安泰という構図だった」(元社会党衆議院議員関晴正氏)
その東京都議会に朝木さんないしは直子さんが当選して議席を占め、東村山市議会同様、創価学会問題を追及すれば、所轄庁である東京都も動かざるを得ない。朝木さん、「草の根」の存在は、一般が考える以上に、創価学会にとってやっかいな存在として認識されていたのである。
当選返上問題は、その創価学会・公明をはじめとする反「草の根」グループにとって「草の根」を攻撃するうえで格好の敵失だった。これを契機に「草の根」批判を強化し、「草の根」の政治的責任、道義的責任を徹底的に追及し、「草の根」に対する政治不信を市民の問に醸成し、合法的な形で「草の根」の政治生命を封じ、あわよくば議席拡大も阻止しようというのが、反「草の根」グループの作戦だったようである。
だが、案に相違して、議席譲渡はあっさり認められたばかりか、市民の間の「草の根」不信も思ったほどは高まらない。また、反「草の根」の急先鋒である選挙立会人K氏による、市選管と都選管に対する直子さんの選挙無効と矢野氏の繰り上げ当選の無効を求める異議申し立ても、いずれも棄却(現在、東京高裁で審理中)されるなど、攻撃がさして奏効しないまま時間が推移するなかで、突然、生じたのか「万引き事件」だった。

 

 


解説

この改正案が成立するまで創価学会は、二つの都道府県どころか、全国各地、海外数十カ国にまでその教線を広げていながら、東京都認証の単立宗教法人ということで、実質、治外法権ともいえる特権を享受していた。(中略)
その東京都議会に朝木さんないしは直子さんが当選して議席を占め、東村山市議会同様、創価学会問題を追及すれば、所轄庁である東京都も動かざるを得ない。朝木さん、「草の根」の存在は、一般が考える以上に、創価学会にとってやっかいな存在として認識されていたのである。

「そこで、なんとしても『草の根』、朝木を潰せということになった」

なるほど、筋が見えてきましたね。
恐ろしいことです。

獅子風蓮