獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

村木厚子『私は負けない』 はじめに 

2023-04-06 01:37:06 | 冤罪

袴田事件ですが、今年3月13日、東京高裁は2014年の静岡地裁の再審開始決定を支持し、検察官の即時抗告を棄却する決定をしました。
これにより、無罪への道が大きく開けました。
それにしても、警察が証拠を偽造していたなんて驚きですね。

最近起こった冤罪事件では、「郵便不正事件」に関する厚生省官僚である村木厚子さんに降りかかった冤罪が記憶に新しいです。

これは、検察が作り出した冤罪でした。

このたび、村木厚子さんの著書『私は負けない-「郵便不正事件」はこうして作られた』(中央公論新社、2013.10)を読み、検察のひどいやり方に激しい憤りを感じました。
是非、広く読んでほしい内容だと思い、著書の一部を紹介したいと思います。

(目次)
■はじめに
第一部
□第1章 まさかの逮捕と20日間の取り調べ
□第2章 164日間の勾留
□第3章 裁判で明らかにされた真相
□第4章 無罪判決、そして……
□終 章 信じられる司法制度を作るために
第二部
・第1章 支え合って進もう
  ◎夫・村木太郎インタビュー
・第2章 ウソの調書はこうして作られた
  ◎上村勉×村木厚子対談(進行…江川紹子)
・第3章 一人の無辜を罰するなかれ
  ◎周防正行監督インタビュー
・おわりに


■はじめに

「郵便不正事件」で私が逮捕されてから4年余が経過しました。洪水のようなマスコミ報道、逮捕、取り調べ、起訴、164日間の勾留、裁判、無罪判決、そしてフロッピーディスクの改竄の発覚……、遠い昔のことのように感じる時もあれば、ふとした瞬間に生々しく当時の感情がよみがえってくることもあります。
有罪率99パーセントの日本の司法の中で、私は幸いにも無罪判決を得ました。さらに幸い なことに、検察が控訴を断念したことによって、「被疑者」「被告人」という立場から1年3ヵ月ほどで解放されました。今振り返ってみても、本当に幸運だったと思います。第一に心身ともに健康で、拘置所の生活でも健康を崩すことはありませんでした。第二に収入の安定した夫がいて、私が被告人となって収入がなくなっても家族の生活を心配する必要がありませんでした。第三に素晴らしい弁護団に巡り合うことができました。第四に、「客観証拠」という基本を重視する裁判官が公判の担当でした。第五に家族が200パーセント信頼して一緒に闘ってくれました。第六に多くの友人、職場の仲間が、物心両面でサポートをしてくれました……。
数え上げたらきりがありません。こうした多くの幸運のおかげで、私は、虚偽の自白に追い込まれることなく否認を貫き、裁判を闘いきることができたのです。別の言い方をすれば、こうした多くの幸運が重ならないと、いったん逮捕され、起訴されれば無罪を取ることは難しいのです。
検察の無理な取り調べ、ずさんな捜査、あってはならない証拠の改竄という事実に愕然とし、検察の在り方に疑問を呈し、検察改革を望み、また、訴えてきました。「こんなことはあってはならない」と。そして、捜査機関は反省し、取り調べをはじめとする捜査の在り方も改善が進んでいると期待していました。
しかし、その期待を見事に裏切る事件が起きました。PC遠隔操作事件です。4人の方が誤 認逮捕され、そのうち二人はまったく身に覚えがないにもかかわらず「自白」をしています。犯人しか知りえない、具体性、迫真性に満ちた「供述調書」も作成され、ご本人がサインをしています。この4人のうち2人という確率に、なるほどと妙に納得しました。というのも、郵便不正事件で厚生労働省の当時の関係職員が10人取り調べを受けた中で、私が関与したという調書を取られた職員が5人、これを否定した職員が私を含めて5人。このときもちょうど確率2分の1だったのです。取り調べを受けた経験のない人は、この高確率を不思議に思うでしょう。しかし、今の警察、検察の取り調べを受ければ、半分の人は虚偽の自白、証言をしてしまうのが現実なのです。そして、多くの裁判では、その調書が、「具体性、迫真性がある」として証拠採用され、有罪の根拠とされるのです。
大学生の我が娘が、授業で冤罪事件の典型ともいえる足利事件を題材に議論したそうです。 菅家利和(すがやとしかず)さんは虚偽の自白に追い込まれ、有罪判決を受けて服役。獄中生活は17年に及びました。多くの学生が、「菅家さんは弱かったから虚偽の自白をしたんだ」と主張したということです。取り調べの実態を多くの人が理解していないことを、娘はカウンセリングをやっている心理学の専門家に嘆き、どう説明すればいいのかと問いかけました。するとこんな答えが返ってきました。
「弱いから自白するんじゃない。弱いところを突かれて自白するんだ」
弱いところのない人間はいません。誰もが虚偽の自白をする可能性を持っているのです。私 も自分が経験するまでは、何でやってもいないことを自白するんだろうと思っていました。しかし、今はよくわかります。誰もが事件に巻き込まれる可能性がある。巻き込まれれば、 2人に1人は自白する。そして有罪率は99パーセントです。
私が事件に巻き込まれたのは、私が証明書の発行という権限を持つ人間であったこと、また、この事件が私の部下が引き起こした犯罪であり、私には管理責任があったことなど、それなりの所以のあることです。裁判終了後、私は、この件で監督責任を問われ処分を受けており、この点で深く責任を感じています。しかし、PC遠隔操作事件のように、何の関連もない、何の落ち度もない人も時として事件に巻き込まれるのです。そして、しつこいようですが、まったく身に覚えがなくとも2人に1人は自白に追い込まれるのです。そしてその調書が裁判の有力証拠として採用される……。
今の日本の刑事司法は多くの問題を抱えています。「郵便不正事件」だけではなく、「取調べ及び供述調書に余りにも多くを依存してきた結果、取調官が無理な取調べをし、それにより得られた虚偽の自白調書が誤判の原因となったと指摘される事態が見られる」(「新時代の刑事司法制度特別部会」2013年1月「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」)として、「取調べや供述調書への過度の依存」から脱却するための新しい司法制度の在り方を議論する法制審議会特別部会の議論が始まっています。
法制審の議論は、法律の専門家でない私たちにとっては専門的で分かりにくいものです。し かし、誤認逮捕も虚偽の自白も決して他人事ではありません。私たち誰もの身に降りかかるかもしれないことなのです。大きな課題を抱えている刑事司法の改革に、多くの方に関心を持ってほしい。
そこで、郵便不正事件を振り返り、いったい何が起きたのか、取り調べや勾留、裁判がどう
いうものだったのか、皆さんに広く知ってもらおうとこの本を出すことを思い立ちました。 夫は、この事件をこんなふうに言います。「得難い経験だけど、二度と味わいたくない経験」。私も二度とこんな経験はしたくありません。そして誰にもこんな思いを味わってほしくないと思っています。そのためにどんな刑事司法改革が必要か……。 この本がそれを皆さんと一緒に考えるきっかけとなれば幸いです。

 


解説
有罪率99パーセントの日本の司法の中で、私は幸いにも無罪判決を得ました。さらに幸い なことに、検察が控訴を断念したことによって、「被疑者」「被告人」という立場から1年3ヵ月ほどで解放されました。今振り返ってみても、本当に幸運だったと思います。

私たちはみな、ある日突然警察に逮捕されたり検察に呼ばれたりして、身に覚えのない罪を着せられる可能性があるのです。
そして、すべての人が、村木厚子さんのように幸運に恵まれるという保証はありません。
全ての国民、必読の書です。

獅子風蓮