獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

村木厚子『私は負けない』第一部第2章 その3

2023-04-28 01:24:15 | 冤罪

このたび、村木厚子さんの著書『私は負けない-「郵便不正事件」はこうして作られた』(中央公論新社、2013.10)を読み、検察のひどいやり方に激しい憤りを感じました。
是非、広く読んでほしい内容だと思い、著書の一部を紹介したいと思います。

(目次)
□はじめに
第一部
□第1章 まさかの逮捕と20日間の取り調べ
■第2章 164日間の勾留
□第3章 裁判で明らかにされた真相
□第4章 無罪判決、そして……
□終 章 信じられる司法制度を作るために
第二部
・第1章 支え合って進もう
  ◎夫・村木太郎インタビュー
・第2章 ウソの調書はこうして作られた
  ◎上村勉×村木厚子対談(進行…江川紹子)
・第3章 一人の無辜を罰するなかれ
  ◎周防正行監督インタビュー
・おわりに


密室で作られる調書

事件の「入口」、つまり私が倉沢さんに会って、厚労省の職員を紹介した、という場面は、不法行為ではなく、検事の言うことに従っても心理的な抵抗が少なかったのかもしれません。一方、私が倉沢さんに偽の証明書を渡したという「出口」は、みんな認めるのに結構抵抗しています。それでも、「入口があれば出口があるはずだ。なければおかしいだろう。お前は嘘をついているのか」と理詰めでやられると、まじめな人たちだけに弱い。公務員と教師は落としやすい、というのを聞いたことがありますが、公務員の心理を知ったうえで、巧妙に誘導していったのでしょう。
検察の言うとおりの供述をしないと、「特捜をなめるのか」と凄まれ、「一晩でも二晩でも泊まっていくか」と身柄拘束をされるような脅しを受けたり、「課長が犯人じゃないなら、お前だな」と脅された人もあったようです。
あるいは、同じ公務員ということもあり、一般の方以上に検事のことを信じてしまう傾向もありました。たとえば事件当時部長だった塩田さんは、法廷でこう証言していました。
「密室の取調室で検事から、『あなたが石井議員に証明書が発行されたことを報告する4分数十秒の電話交信記録がある』と言われ、それならば記憶にはないが、きっと最初の依頼も自分が石井議員から受け、村木さんに対応をお願いしたのだろう、と思い込んでしまった」「何度も何度も、『交信記録があるのは本当か? 本当なら見せてほしい』と頼んだが『ある』というだけで検事は最後まで見せてくれなかった。私は、お互いにプロの行政官であるという信頼感があるので『それが嘘だ』とは思わなかった」
ところが、裁判の証人に呼ばれることになり、その打ち合わせの際に公判担当の検事から、そのような記録はない、ということを告げられて、彼は愕然としたと述べていました。
そうやって作られた調書は、よほど強い意志を持ってバーゲニングに臨まない限り、そして検事に負けないバーゲニングの力がないと、修正はしてもらえずに、検察の都合のいい形で証拠になってしまいます。
誘導していくプロセスは、何も記録に残されません。そのため、取り調べを受けた側が裁判で、誘導されたり脅されて記憶と異なる調書ができた、と説明しても、検事がそれを否定すれば、水掛け論になってしまいます。
現に塩田さんの調書を作成した林谷浩二(はやしだにこうじ)検事は、裁判に検察側の証人として出廷して、通信記録の話を否定しています。「塩田氏の方から、通話記録があるなら教えて、と言い出した。自分は通話記録があるとは一切言っていない」というのが、林谷検事の言い分です。
これでは、裁判官もどちらの言い分を信じたらいいか分からないはずです。裁判では、塩田さんの調書は、任意性があるとして証拠採用されました。この事件では、検察側の証人が次々に、調書と異なる証言をしたこともあり、塩田さんの調書も内容には信用性がないということで、判決には影響を及ぼしませんでしたが、取り調べの状況が音声だけでもきちんと記録されていれば、裁判官も判断に困らないでしょうし、判断を誤ることも避けられるのではないでしょうか。
私の事件がきっかけとなって、刑事司法制度改革が議論されるようになりましたが、その中でも取り調べの可視化、すなわち取り調べのプロセスの録音・録画が最も大きな課題になっているのはこういう理由からです。私が無罪となってからの検察改革の中で、特捜部の扱う事件については、被疑者の取り調べの録音・録画が試行されていますが、参考人など任意の事情聴取に関しては、試行さえ始まっていません。


解説
私の事件がきっかけとなって、刑事司法制度改革が議論されるようになりましたが、その中でも取り調べの可視化、すなわち取り調べのプロセスの録音・録画が最も大きな課題になっているのはこういう理由からです。私が無罪となってからの検察改革の中で、特捜部の扱う事件については、被疑者の取り調べの録音・録画が試行されていますが、参考人など任意の事情聴取に関しては、試行さえ始まっていません。

私の好きなテレビドラマに天海祐希主演『緊急取調室』というのがあります。
取り調べのプロセスの録音・録画が取り入れられていますが、なるほど参考人の事情聴取にも録音・録画が必要かもしれませんね。

獅子風蓮