獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

村木厚子『私は負けない』第一部第2章 その2

2023-04-27 01:03:11 | 冤罪

このたび、村木厚子さんの著書『私は負けない-「郵便不正事件」はこうして作られた』(中央公論新社、2013.10)を読み、検察のひどいやり方に激しい憤りを感じました。
是非、広く読んでほしい内容だと思い、著書の一部を紹介したいと思います。

(目次)
□はじめに
第一部
□第1章 まさかの逮捕と20日間の取り調べ
■第2章 164日間の勾留
□第3章 裁判で明らかにされた真相
□第4章 無罪判決、そして……
□終 章 信じられる司法制度を作るために
第二部
・第1章 支え合って進もう
  ◎夫・村木太郎インタビュー
・第2章 ウソの調書はこうして作られた
  ◎上村勉×村木厚子対談(進行…江川紹子)
・第3章 一人の無辜を罰するなかれ
  ◎周防正行監督インタビュー
・おわりに


どうしてみんな嘘をつくのか

この裁判では、公判前整理手続(公判前に検察側、弁護側がそれぞれの主張とその証拠を明らかにし、裁判そのものを効率的に行うための制度)が行われることになりました。最初に、検察官の予定主張が示され、それを固めるための検察側の証拠が開示されます。その後、弁護側が関連する証拠を請求し、これが何回かに分けて開示されます。さらに、弁護人も主張を提示し、それについての証拠開示も求められます。
検察の証拠が弁護側に開示されるたびに、コピーが私のところにも届けられました。私は刑事裁判は素人ですが、厚労省の職場にいるからこそ分かることもあると思いましたし、知りたいこともあったので、一生懸命読みました。開示される証拠のほとんどは、被疑者や参考人の供述調書ですが、そのほかにも関係したところから家宅捜索で押収された書類のコピーや捜査報告書なども交じっています。A4判の紙ですが積み上げると7、80センチの高さになりました。
検察の主張は偽りだと分かっているわけですが、それなら本当は何が起きたのか、まず知りたかった。それから、何が原因で、検察は間違えたのだろうか、ということ。証明書が作られた時、その職員には偽の団体だということが分かっていたのだろうか、という点も気になりました。
一部は國井検事から聞かされていたとはいえ、厚労省の職員たちの調書を読んだ時には、かなりショックを受けました。たくさんの調書に、私が倉沢さんと会ったり、担当者に紹介したり、証明書の作成を指示したりといったことが、あたかもあったように書かれているのです。「ちょっと大変な案件だけど、よろしくお願いします」といった私の言葉まで、いかにもリアルに書かれていました。5年も前のことなのに、何人もがそのセリフを正確に記憶していることになっています。また、当時は障害者自立支援法の制定作業をしていたといった、1年近く時期が違うことまで、検察側のストーリーを認めてしまっている人たちが、なんと10人中5人もいました。
私自身が実は、ジキルとハイドのような二重人格で、悪い人格になっているときの記憶がなくなっているのかしら、それとも、自分が気がつかないうちに、多くの人の恨みを買っていて、みんなで「村木のせいにしよう」と口裏を合わせたのかしら……そんなことまで考えて、精神的にも耐えられない状況になりました。
接見に来た弘中弁護士に、思わず、「どうしてみんな嘘をつくんでしょう」と問いかけました。すると日頃は優しい弘中弁護士が、大きな声で、強い口調でこう言いました。
「誰も嘘なんかついてない。検事が勝手に作文をして、そこからバーゲニング(交渉)が始まるんだ。供述調書とはそういうものなんだ」
私の取り調べも、まさにバーゲニングの世界でしたが、逮捕されていない人の取り調べも、その点では同じだったのです。
厚労省職員の中にも、記憶にないことはないと、最後まで述べている人もいました。こういうものは、性格の弱さなどの問題というより、バーゲニングの力や経験がどれだけあるか、なのだと思います。私も最初は、押し切られてしまいましたが、その後は嘘を書いた調書を作らせずに済んだのは、日ごろ仕事で交渉する場面が多く、鍛えられていたお陰でしょう。
今になってみれば、事実と異なる供述調書を作られてしまった人たちの状況も察することができます。まず、役所を巻き込んだ事件であることは事実で、逮捕者も出てみんな動揺していたこと。5年も前の出来事で、みんな記憶に自信がないこと。一方で省としては捜査に協力しなければならない、という大命題があります。報道もたくさん出ているし、報道や検察が言うこととまったく違うことを言えば、嘘つきと思われるんじゃないか、という警戒心も働きます。それで、いつの間にか、検事の話や報道で言われていることを前提に、それに合わせて話をしようとしてしまうのでしょう。
また、検事は、「こういうことがあったとしたら、どうして起きたと思いますか」などと聞いてきます。仮定の話として、一生懸命考えて答えます。すると、調書では、それが事実であるかのように「こういうことが起きた原因は……だと思います」と書かれてしまう。そうやって巧妙に誘導されていきます。それに、職場の他の人の調書の内容を告げられて、「それを否定するのか」と聞かれれば、仲間を嘘つきにしたくない、という気持ちもある。だから、誰か一人が落ちると、芋づる式に供述が揃えられていくのです。

 


解説
接見に来た弘中弁護士に、思わず、「どうしてみんな嘘をつくんでしょう」と問いかけました。すると日頃は優しい弘中弁護士が、大きな声で、強い口調でこう言いました。
「誰も嘘なんかついてない。検事が勝手に作文をして、そこからバーゲニング(交渉)が始まるんだ。供述調書とはそういうものなんだ」
私の取り調べも、まさにバーゲニングの世界でしたが、逮捕されていない人の取り調べも、その点では同じだったのです。


このようにして検事に都合のよい調書が作られて行くのですね。
それにしても真実を突き止める場であるべき検察が、バーゲニング(交渉)の場であったとは……

 

獅子風蓮