獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

石橋湛山の生涯(その48)

2024-08-14 01:39:14 | 石橋湛山

石橋湛山の政治思想に、私は賛同します。
湛山は日蓮宗の僧籍を持っていましたが、同じ日蓮仏法の信奉者として、そのリベラルな平和主義の背景に日蓮の教えが通底していたと思うと嬉しく思います。
公明党の議員も、おそらく政治思想的には共通点が多いと思うので、いっそのこと湛山議連に合流し、あらたな政治グループを作ったらいいのにと思ったりします。

湛山の人物に迫ってみたいと思います。

そこで、湛山の心の内面にまでつっこんだと思われるこの本を。

江宮隆之『政治的良心に従います__石橋湛山の生涯』(河出書房新社、1999.07)

□序 章
□第1章 オションボリ
□第2章 「ビー・ジェントルマン」
□第3章 プラグマティズム
□第4章 東洋経済新報
□第5章 小日本主義
■第6章 父と子
□第7章 政界
□第8章 悲劇の宰相
□終 章
□あとがき


第6章 父と子

(つづきです)

この前後から湛山は「ケインズ研究会」を作って本格的なケインズ経済の研究に打ち込み始めた。湛山にはケインズの経済理論の骨子をなすものが、自分のやり方によく似ている点で親近感が持てたのだった。
8月31日、湛山は東洋経済新報社の社員会を開いて訓示した。社員たちは代表取締役専務である湛山が、一体何を言い出すのだろうかと、半分は興味深く、半分は不安を持って社員会に臨んだ。
「今までの言論機関は、多くは筆を曲げてまで時の政権や世の中におもねてきた。たまたま良心を曲げることの出来ない者は黙っていた。しかし、これからはもっとひどい言論妨害があるかもしれない。迫害や圧迫があるかもしれない。『東洋経済新報』もそれらの波にさらされるやもしれない。しかし、少なくとも私は最悪の場合に立ち至るとも主張は曲げません。自由主義の追究という立場も変えません。その意味では一種悲壮な決心さえ抱いている」
社員たちは、私語ひとつ、咳ひとつせずに聞き入っていた。
「私は幼い時に得度した日蓮宗の宗門の育ちです。その日蓮上人は、『法華経』を日本国中に広めなければという固い信念にしたがって説法をしたがために、時の鎌倉幕府や他の宗派からあらゆる迫害を受けました。島流しにもなったし、首を斬られる直前にまで至った。この日蓮のこうした苦難に比べれば、まだまだ私の如きは愛国心さえ薄い」
湛山は、坊主頭の額に玉のような汗を浮かべている。
ゆっくりハンカチでその汗を拭うと、再び口を開いた。真夏が終わって、秋になる直前の暑い日である。開け放たれた窓から、午後の日差しだけが射し込んでくる。風はない。
「私は自分が正しいと信ずる主張、言説のために今後いかなる圧迫、艱難が降りかかって来ようとも甘んじて受けるつもりです。だからといって『東洋経済新報』にこれを原因としての傷は与えるつもりはありません。『東洋経済新報』は先輩から受け継ぎ、さらに若い皆さんに渡さなければならない責任を私は負っています。この会社は預かり物です。だからこそ『東洋経済新報』を潰すことは出来ません。しかし、そうだからといって良心に恥じることを書き、国のためにならないことを書かなければならないというならば、それは潰れたほうがよいんです。それが私の覚悟です。皆さんもそういうことを覚悟してください。全社員が一致してその覚悟でやればどんな苦難も解決できるでしょう」
湛山は、しゃべりながらふと中学時代に大島正健校長から与えられた言葉「ビー・ジェントルマン(紳士たれ)」を思い出していた。「自分の良心に従って行動するのです」。その大島も前年に鬼籍に入っていた。
「東洋経済新報社が潰れる時は、日本が潰れる時だ、くらいの自覚を持ちましょう。その自覚を持ってこそ、我々の仕事の意義があるのです。我々はペン一本で戦うのです。我々の武器はペンだけです。信念とペンなのです」
湛山の演説にも似た話が終わった瞬間、拍手が来た。次第に拍手は大きくなり、しまいには会場全体を揺るがすほどの大きな拍手になった。
拍手が呼んだかのように、開け放たれた窓から秋の風が吹き込んできた。

(つづく)


解説

「私は自分が正しいと信ずる主張、言説のために今後いかなる圧迫、艱難が降りかかって来ようとも甘んじて受けるつもりです。だからといって『東洋経済新報』にこれを原因としての傷は与えるつもりはありません。『東洋経済新報』は先輩から受け継ぎ、さらに若い皆さんに渡さなければならない責任を私は負っています。この会社は預かり物です。だからこそ『東洋経済新報』を潰すことは出来ません。しかし、そうだからといって良心に恥じることを書き、国のためにならないことを書かなければならないというならば、それは潰れたほうがよいんです。それが私の覚悟です。皆さんもそういうことを覚悟してください。全社員が一致してその覚悟でやればどんな苦難も解決できるでしょう」

湛山のこの信念は、日蓮に対する信仰をベースにしてできたものだったのですね。

 

獅子風蓮



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