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読みごたえあり!『腐葉土』by望月諒子

2019年02月05日 | 小説レビュー
『腐葉土』by望月諒子

~笹本弥生という資産家の老女が、高級老人ホームで殺害されているのが見つかった。
いつもお金をせびっている孫の犯行なのか?そこに生き別れたもう一人の孫という男が名乗りでる。
詐欺事件や弁護士の謎の事故死が、複雑に絡まりはじめ―。
関東大震災、東京大空襲を生き延び、焦土の中、女ひとりでヤミ市でのし上がり、冷徹な金貸しとなった弥生の人生の結末とは。
骨太ミステリーの傑作長編。「BOOK」データベースより



550頁におよぶ長編ミステリーでしたが、物語が間延びすることなく、最後まで興味深く読み終えました。

大正から平成まで85年にわたる波乱万丈の生涯を生き抜いた「笹本弥生」という老女が、高級老人ホームで何者かに殺害されるところから物語は始まり、事件を追いかける雑誌記者「木部美智子」が、明晰な頭脳と鋭い洞察力、そして行動力をもって、事件の真相に迫ります。

笹本弥生が経験した関東(東京)大震災と第二次世界大戦末期の東京大空襲の描写が凄まじく、物語に重みと深みを与えています。

戦後の混乱期の中で、世間から後ろ指を指されながらも、逞しく前向きに生き抜いた笹本弥生の残した10億円ともいわれる遺産を巡って、実の孫・笹本健文と、その異父兄弟・会田良夫との相続問題、そして弥生に数十年にわたって家政婦として仕えた典子、また良夫の両親の良一と弓子など、それぞれの人生の歩みが重くて、とても読ませてくれます。

並行して展開する大学研究費詐欺事件も、読んでいてリアリティがあり、それ一つでも、立派なミステリー小説が書けそうなほど内容があります。

そして、美智子と新聞記者の亜川の頭脳ゲームのようなやりとりや、テレビ、新聞、雑誌というそれぞれ違う媒体の争いというか棲み分けというか、マスコミ裏事情のようなものも興味深いです。

登場人物が多いので、少し混乱しますが、イヤになるほどではありません。

笹本弥生という大樹の根元に腐葉土のごとく降り積もった多くの人々の人生ドラマが伏線となり、やがて一つの結末に収束していく様は見事です。

謎解きの部分で、美智子が真相に迫りながら、犯人?の独白によって全てが明らかになるのですが、「騙された!」というよりも「そうやったんやね」と納得させられてしまうエンディングでした。

いずれにしても、大きく風呂敷を広げて、最後にグッとまとめ切る望月諒子女史の筆力に拍手を送りたいですね。

★★★☆3.5です。