5月31日(月)の4時にシンガポールのリー・シェンロン首相がスピーチを行いました。4月後半からシンガポール市内でのクラスターの発生に対応して、5月16日から6月13日までの4週間を警戒期間とし、飲食店の店内飲食の中止や、集まりは二人までとする規制を行っているのですが、残り2週間というちょうど中間地点でのタイミングでした。
約24分間の演説だったのですが、これをテレビで見ていて、感動してしまいました。個人的に感動した演説としては、フィクションの世界ですが、映画「インディペンデンス・デイ」の大統領の演説 と、ケネス・ブラナーのシェイクスピアの「ヘンリー五世」の演説 などがあるのですが、それらに近い感動を与えられた気がして、シンガポールの自宅でところどころで拍手をし、誰も見ていないのにスタンディング・オベーションをしてしまいました。(笑)
まずは、こちらが大統領演説の動画です。
演説の全文はこちらの政府のサイトに掲載されています。
PM Lee Hsien Loong on the COVID-19 'New Normal'
Transcript of speech by PM Lee Hsien Loong on the COVID-19 'N
www.pmo.gov.sg
何がそれほどよかったのか、それについて述べてみたいと思います。あくまで個人的な感想です。
1. 困難の先に待ち受ける明るい未来が提示されていたこと
まずは、これから先どのようになるか、この難局を乗り越えることで、どのような未来が待ち受けているかということが明確に示されていたということです。このような状況下では、人々は様々な理由で不安になってしまいます。影響を大きく受けている仕事も多いでしょうし、海外への渡航ができないことで困っている人も多くいます。日常生活も不便を強いられています。精神的にも追い込まれている人も多いでしょう。そんな人々にとって、首相のこの演説は希望をもたらしたと思います。
演説の終わりのほうのこの一説は印象的です。
In the new normal, COVID-19 will not dominate our lives. Our people will be mostly vaccinated, and possibly taking booster shots every year. We will get tested often, but it will be fast and easy. We will go to work or school, meet friends and family, participate in religious services, and enjoy entertainment and sports events. We will re-open our borders safely. Visitors will again come to Singapore. Singaporeans will travel again to countries where the disease is well under control, especially if we have been vaccinated. And eventually we will even go about without masks again, at least outdoors. Right now, we are some ways off from this happy state, but we are heading in the right direction.
日本語にしてみますとこんな感じになります。「ニューノーマルの時代においては、COVID-19が私たちの生活を支配することはなくなるでしょう。国民のほとんどがワクチン接種を終え、おそらくは毎年定期的に接種をすることになるかもしれません。職場や学校に行ったり、友達や家族に会ったり、宗教的な行事に参加したり、エンターテインメントイベントやスポーツイベントを楽しむことができるようになるでしょう。私たちは国境を安全に再開していきます。再びシンガポールへの訪問客が来るでしょう。シンガポール人も感染がコントロールされた国に渡航することが再びできるようになります。とくにワクチン接種を受けた場合なのですが。そして、やがて、少なくとも屋外に限っては、再びマスクをしないで外出できるというようなそんな時もやって来るでしょう。今現状では、こんなハッピーな状況からは少しばかり離れていますが、私たちは正しい方向に向かって着実に進んでいるのです」
こんな誰もが望んでいる未来図を言葉で描き出しています。検査と、追跡、ワクチン接種を促進することに国民が一致団結して協力してくれれば、このような未来もすぐそこに来ているというわけです。このように目的が明確化されることにより、国民一人一人のモチベーションも強化されます。
そして演説はさらに続きます。
In this new normal, the countries which are united, disciplined and put in place sensible safeguards, will be able to re-open their economies, re-connect to the rest of the world, grow and prosper. Singapore will be among these countries. More confident and resilient than before, and toughened by what we have overcome together, and experience together as one nation.
「このようなニューノーマルの時代には、一致団結し、規律が取れて、きちんとした安全対策を行っている国は、経済活動を再開し、世界の他の国と再び繋がり、成長繁栄することができるようになります。シンガポールはそのような国々の一員となるでしょう。私たちは、これまで共に力を合わせて困難を克服してきたことにより、また一つの国家として経験を共にしていることで、以前にも増して自信に満ち、持久力がある国となるでしょう」
言葉の一つ一つが希望を持たせます。未来に光が射した感じで、気持ちが明るくなります。そして、コロナを乗り越えてさらに成長したシンガポールの姿が実感できます。このためにはみんなで力を合わせて協力しようという気持ちが湧き上がってきますね。
2. 具体的で事実に基づいた現状認識
首相の演説の中で、感染状況の説明など具体的なデータが使われています。シンガポールで演説を聞いている人たちには説明する必要もないことですが、最近の状況を捕捉しておきます。こちらのグラフは、シンガポール保健省が発表しているものですが、5月4日から6月1日までのシンガポールの1日あたりの新規感染者です。緑の部分が、経路が確認できている人、黄色が未確認の人です。経路が確認されている人が大半ですが、何箇所かでクラスターが発生しています。
日本の感染者数に比べれば非常に少ないのですが、これまでほぼ市中感染を押さえ込んできたシンガポールにとって二桁の感染者数は大ごとです。数は徐々に減ってきてはいますが、まだまだ予断は許されません。
そしてこちらは、同じく保健省のデータですが、重症者の数。
オレンジ色がICUで治療を受けている人、青が酸素吸入が必要な患者数です。日本に比べればかなり少ないです。また死者数に関してですが、6月1日時点で、昨年頭からの累積の死亡者が33人。2021年になってからは4人です。
日本のマスコミは、欧米に比べて死者数が少ないということを自慢していますが、6月2日時点での累積死者数が1万3048人。最近でも一日の死者は数十人から100人を越えることもあります。医療先進国のはずの日本で、どうして死亡を防げないのか悲しくなります。そんな状況にありながら、時々「日本は死者がこんなに少ない」と発言する人がたまにいますが、とても不謹慎な気がするのは私だけでしょうか?
首相の演説の中で、検査方法の種類に感しても、かなりきめ細かく情報が提示されています。PCR検査以外にも、各種ある検査の説明があります。追跡方法や、ワクチン接種に関しても同様です。現状を極めて正確に把握しているという姿勢がここに現れています。
3. 積極的な各種対策
首相の演説では、ワクチン接種や、検査対応に関して新たな取り組みが示されています。たとえば、次のようなものです。
12歳から16歳への生徒に対してのワクチン接種を始める。6月1日から予約開始。学校での感染は心配ですからね。
39歳以下の接種予約は6月中旬から始める。
60歳以上でまだワクチン接種していない人に対しては、予約しなくても、ワクチンセンターに行けばその場でワクチンをしてくれる!これはすごい!日本は高齢者が予約できなくて困っているという状況なのですが、こういう対応は素晴らしいですね。
8月9日の独立記念日までにはシンガポール国民の大半が少なくとも一回の接種をしていることを目指す。
妊婦や、癌患者など、これまでワクチン接種から除外されていた人たちも受けられるようになる。
検査もどんどん増やしていくことを発表しています。
こんな感じで次々と具体策が発表されることは非常に好感が持てますね。
4.言葉の端々に示される国民への感謝の気持ち
これまでの協力に対しての感謝の言葉が述べられています。政府からの高圧的、一方的な命令となることを防いでいます。これにより、政府も、国民もワンチームであるという印象が作られています。偉そうな感じがないのがいいですね。この最後の項目に関しては、あまり説明することもありません。映像を見ていただければ、人柄が伝わってくると思います。
シンガポールはこういうリーダーの元で着実にコロナ禍から抜け出そうとしている感じです。日本も学ぶべきところは学び、日本もコロナを克服していってほしいですね。
約24分間の演説だったのですが、これをテレビで見ていて、感動してしまいました。個人的に感動した演説としては、フィクションの世界ですが、映画「インディペンデンス・デイ」の大統領の演説 と、ケネス・ブラナーのシェイクスピアの「ヘンリー五世」の演説 などがあるのですが、それらに近い感動を与えられた気がして、シンガポールの自宅でところどころで拍手をし、誰も見ていないのにスタンディング・オベーションをしてしまいました。(笑)
まずは、こちらが大統領演説の動画です。
演説の全文はこちらの政府のサイトに掲載されています。
PM Lee Hsien Loong on the COVID-19 'New Normal'
Transcript of speech by PM Lee Hsien Loong on the COVID-19 'N
www.pmo.gov.sg
何がそれほどよかったのか、それについて述べてみたいと思います。あくまで個人的な感想です。
1. 困難の先に待ち受ける明るい未来が提示されていたこと
まずは、これから先どのようになるか、この難局を乗り越えることで、どのような未来が待ち受けているかということが明確に示されていたということです。このような状況下では、人々は様々な理由で不安になってしまいます。影響を大きく受けている仕事も多いでしょうし、海外への渡航ができないことで困っている人も多くいます。日常生活も不便を強いられています。精神的にも追い込まれている人も多いでしょう。そんな人々にとって、首相のこの演説は希望をもたらしたと思います。
演説の終わりのほうのこの一説は印象的です。
In the new normal, COVID-19 will not dominate our lives. Our people will be mostly vaccinated, and possibly taking booster shots every year. We will get tested often, but it will be fast and easy. We will go to work or school, meet friends and family, participate in religious services, and enjoy entertainment and sports events. We will re-open our borders safely. Visitors will again come to Singapore. Singaporeans will travel again to countries where the disease is well under control, especially if we have been vaccinated. And eventually we will even go about without masks again, at least outdoors. Right now, we are some ways off from this happy state, but we are heading in the right direction.
日本語にしてみますとこんな感じになります。「ニューノーマルの時代においては、COVID-19が私たちの生活を支配することはなくなるでしょう。国民のほとんどがワクチン接種を終え、おそらくは毎年定期的に接種をすることになるかもしれません。職場や学校に行ったり、友達や家族に会ったり、宗教的な行事に参加したり、エンターテインメントイベントやスポーツイベントを楽しむことができるようになるでしょう。私たちは国境を安全に再開していきます。再びシンガポールへの訪問客が来るでしょう。シンガポール人も感染がコントロールされた国に渡航することが再びできるようになります。とくにワクチン接種を受けた場合なのですが。そして、やがて、少なくとも屋外に限っては、再びマスクをしないで外出できるというようなそんな時もやって来るでしょう。今現状では、こんなハッピーな状況からは少しばかり離れていますが、私たちは正しい方向に向かって着実に進んでいるのです」
こんな誰もが望んでいる未来図を言葉で描き出しています。検査と、追跡、ワクチン接種を促進することに国民が一致団結して協力してくれれば、このような未来もすぐそこに来ているというわけです。このように目的が明確化されることにより、国民一人一人のモチベーションも強化されます。
そして演説はさらに続きます。
In this new normal, the countries which are united, disciplined and put in place sensible safeguards, will be able to re-open their economies, re-connect to the rest of the world, grow and prosper. Singapore will be among these countries. More confident and resilient than before, and toughened by what we have overcome together, and experience together as one nation.
「このようなニューノーマルの時代には、一致団結し、規律が取れて、きちんとした安全対策を行っている国は、経済活動を再開し、世界の他の国と再び繋がり、成長繁栄することができるようになります。シンガポールはそのような国々の一員となるでしょう。私たちは、これまで共に力を合わせて困難を克服してきたことにより、また一つの国家として経験を共にしていることで、以前にも増して自信に満ち、持久力がある国となるでしょう」
言葉の一つ一つが希望を持たせます。未来に光が射した感じで、気持ちが明るくなります。そして、コロナを乗り越えてさらに成長したシンガポールの姿が実感できます。このためにはみんなで力を合わせて協力しようという気持ちが湧き上がってきますね。
2. 具体的で事実に基づいた現状認識
首相の演説の中で、感染状況の説明など具体的なデータが使われています。シンガポールで演説を聞いている人たちには説明する必要もないことですが、最近の状況を捕捉しておきます。こちらのグラフは、シンガポール保健省が発表しているものですが、5月4日から6月1日までのシンガポールの1日あたりの新規感染者です。緑の部分が、経路が確認できている人、黄色が未確認の人です。経路が確認されている人が大半ですが、何箇所かでクラスターが発生しています。
日本の感染者数に比べれば非常に少ないのですが、これまでほぼ市中感染を押さえ込んできたシンガポールにとって二桁の感染者数は大ごとです。数は徐々に減ってきてはいますが、まだまだ予断は許されません。
そしてこちらは、同じく保健省のデータですが、重症者の数。
オレンジ色がICUで治療を受けている人、青が酸素吸入が必要な患者数です。日本に比べればかなり少ないです。また死者数に関してですが、6月1日時点で、昨年頭からの累積の死亡者が33人。2021年になってからは4人です。
日本のマスコミは、欧米に比べて死者数が少ないということを自慢していますが、6月2日時点での累積死者数が1万3048人。最近でも一日の死者は数十人から100人を越えることもあります。医療先進国のはずの日本で、どうして死亡を防げないのか悲しくなります。そんな状況にありながら、時々「日本は死者がこんなに少ない」と発言する人がたまにいますが、とても不謹慎な気がするのは私だけでしょうか?
首相の演説の中で、検査方法の種類に感しても、かなりきめ細かく情報が提示されています。PCR検査以外にも、各種ある検査の説明があります。追跡方法や、ワクチン接種に関しても同様です。現状を極めて正確に把握しているという姿勢がここに現れています。
3. 積極的な各種対策
首相の演説では、ワクチン接種や、検査対応に関して新たな取り組みが示されています。たとえば、次のようなものです。
12歳から16歳への生徒に対してのワクチン接種を始める。6月1日から予約開始。学校での感染は心配ですからね。
39歳以下の接種予約は6月中旬から始める。
60歳以上でまだワクチン接種していない人に対しては、予約しなくても、ワクチンセンターに行けばその場でワクチンをしてくれる!これはすごい!日本は高齢者が予約できなくて困っているという状況なのですが、こういう対応は素晴らしいですね。
8月9日の独立記念日までにはシンガポール国民の大半が少なくとも一回の接種をしていることを目指す。
妊婦や、癌患者など、これまでワクチン接種から除外されていた人たちも受けられるようになる。
検査もどんどん増やしていくことを発表しています。
こんな感じで次々と具体策が発表されることは非常に好感が持てますね。
4.言葉の端々に示される国民への感謝の気持ち
これまでの協力に対しての感謝の言葉が述べられています。政府からの高圧的、一方的な命令となることを防いでいます。これにより、政府も、国民もワンチームであるという印象が作られています。偉そうな感じがないのがいいですね。この最後の項目に関しては、あまり説明することもありません。映像を見ていただければ、人柄が伝わってくると思います。
シンガポールはこういうリーダーの元で着実にコロナ禍から抜け出そうとしている感じです。日本も学ぶべきところは学び、日本もコロナを克服していってほしいですね。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます