Amazonの2020年ホリデーシーズン向けのグローバルCMのお話です。英国のエージェンシーが制作したこのコマーシャルは、2020年11月3日に英国で放映され、11月8日にアメリカで放映開始。その感動的なストーリーは、世界中に感動を呼びました。
ストーリーを簡単にご紹介しておきます。バレエクラスの年末公演の主役に抜擢された黒人のバレリーナ。家族も大喜びなのですが、すぐにコロナで学校が全国的に閉鎖するというニュースが。リモートで公演の準備をする少女。家の中や、近所で、練習に励みます。しかし、ある日、一通の手紙が…。なんとバレエの公演がキャンセルになったとの知らせ。ショックを受けて落ち込む少女。しかし、妹があることを思いつきます。手作りでポスターを一生懸命に作る妹。ミシンで娘のバレエの衣装を作る母親。妹は、手作りのお知らせを近所の家に配ります。おそらく、バレリーナの少女に思いを寄せている近所の少年にもその知らせが届きます。アマゾンで懐中電灯のようなものを注文する少年。アマゾンの箱からずっしりとしたライトを取り出します。そして、公演の当日。雪の降る中で、少女はソロでバレエを。少年がアマゾンで購入したライトがスポットライトとなって少女を浮き上がらせます。そして"The Show Must Go On"という文字、雪の中にアマゾンのロゴ。
"The Show Must Go On"というのは、1991年の10月14日にQueenがリリースした曲。すでにエイズが悪化していたフレディ・マーキュリーが、エイズに蝕まれようとショーは続けないといけないという渾身の思いを込めて歌い上げた名曲。この曲がリリースされた次の年の11月24日にフレディー・マーキュリーは亡くなります。コマーシャルを通して静かに流れている旋律は、実はこの曲です。何か聞いたことのあるメロディーだなと思っていたのですが、最後にそれがQueenのその曲だったとわかります。雪の中のバレエ公演のクライマックスで、この曲が流れるところが感動的です。偶然ですが、一昨日の11月24日がフレディ・マーキュリーの命日だったんですね。そんな思いも重なります。
まずは、このコマーシャルをご覧いただきましょう。
https://youtu.be/RJFReMY6Rgw
昨年、偶然見つけて、何度も見ているのですが、何度見ても感動してしまいます。このコマーシャルについては、音楽もそうなんですが、主演のバレリーナや制作スタッフに関しても説明したいことが山ほどあります。コマーシャル作品としての素晴らしさは、すぐにお分かりいただけると思いますが。ストーリーも、映像も、音楽も、編集も素晴らしいと思います。
アマゾンのCMなのですが、サービスに関連した画像は、近所の少年がライトを注文するシーンと、届いた荷物のダンボールのみ。
これだけで十分です。コロナの時代に困難を乗り越えて夢を実現したいという気持ちや、大切な人を応援したい人々の気持ち、そんな気持ちに寄り添うアマゾンの企業姿勢が伝わってきます。
そして最後の雪の中のアマゾンのロゴ。これもシンプルでいいですね。
よく聞くと、寒さの中での少女の息づかいが背景にかすかに聞こえています。これだけで言葉で伝える以上の大きなメッセージが伝わってきます。
じつは、このコマーシャルの素晴らしさの一つは、黒人のバレリーナを起用したというキャスティング。
バレリーナの少女を演じているのは、Taïs Vinoloというフランス生まれの17歳のバレリーナです。ネットに出ていたのですが、彼女のコメントがこちら。
「私はフランスの田舎で育ったのですが、黒人でバレエを勉強している子は一人もいませんでした。私のような髪をした女の子はいませんでした。テレビでも、世界中のどこにも、自分をアイデンティファイできるような人はいませんでした。今回、この撮影に参加して、非常に多くのものを得ることができました。自分が本当は何であったのがわかったし、どうなりたいのか、そして私という存在が何を示しているのかも把握することができました。このプロジェクトに参加できたことはとても光栄でした。この作品が伝えるメッセージは自分にとっても非常に重要なことだし、とくに今年のように世界が直面している困難の時代にはとくに意味のあることだと思います」
原文はこちら、“When I was growing up in the French countryside, there were no young Black girls studying ballet with hair like mine, or even on TV, meaning I had no one to identify myself with. Being on this shoot helped so much with this, enabling me to own who I really am, who I want to be and what I represent. I am so proud to have been part of this project since the message of it means a lot to me and even more so in this very difficult time that the world is going through.”
私たちは、黒人のバレリーナという存在自体、あまり考えたこともありませんでした。しかし、Taïs Vinoloのこの演技を見て、バレエに人種の限定を与えるのは間違っていたと痛感したのでした。
このコマーシャルの中で、黒人の女の子が窓から眺めて感動している光景が一瞬映りますが、この子のように、人種に関係なくバレエを追求してもよいんだ、夢を追いかけてもいいんだと勇気付けられた女の子たち(男の子も)は実に沢山いたのではないかと思います。
そして、このコマーシャル作品を作ったのは、Melina Matsoukasという女性の監督。ビヨンセや、Rihannaのミュージックビデオとかで数々の賞を受賞している映像ディレクターです。
この方も黒人だったのですね。だからこそ、彼女もこの作品を通して伝えたかったメッセージは山ほどあったのだと思います。
そして、この作品の撮影監督を務めたのは、Rina Yangというロンドンで活躍する中国系の女性。
経歴を見ると、日本の田舎町で育ち、日本でスチルと映像の勉強をしたらしいのですが、ご存知の方はお知らせください。いずれどんどん有名になっていく人だと思います。映画の「ボヘミアン・ラプソディ」でもカメラマンとして参加していたようです。彼女のサイトhttps://rinayang.comを見ると、映像もスチルも両方とも仕事しているようですが、今回のアマゾンの映像は、何と35ミリフィルムで撮影しているようです。デジタルの時代の今、35ミリフィルムに拘って撮影したその姿勢に大拍手をおくりたいです。だからYouTubeにアップされているこのコマーシャルの動画は16対9の比率ではなくて、35ミリフィルムの比率になっていたのですね。
そして、そして、このアマゾンのCMの仕事を扱っていたのは、Lucky Generalsというロンドンの広告代理店。2013年に創業して、数々のクリエイティブ作品を生み出し、TBWAが完全買収をしようとした代理店ですが、このエージェンシーのCEOはHelen Calcraftという女性。
アマゾンは以前からのクライアントのようです。他の作品も実に素晴らしいので、また別の機会にご紹介したいと思います。
ということで、このアマゾンのコマーシャルには、こんなにすごい女性たちが関わっていて、それぞれの熱い思いがこのコマーシャルを作り上げていたのだと思います。コロナだけでなく、黒人という人種の困難、そして女性というハンディキャップ、それらの壁を乗り越えて世界にメッセージを伝えたいという気持ちがこの作品に凝縮されています。そういう観点で見ると、この作品が実に輝いて見えてくると思います。ベランダから少年が照らすスポットライトのように。
ストーリーを簡単にご紹介しておきます。バレエクラスの年末公演の主役に抜擢された黒人のバレリーナ。家族も大喜びなのですが、すぐにコロナで学校が全国的に閉鎖するというニュースが。リモートで公演の準備をする少女。家の中や、近所で、練習に励みます。しかし、ある日、一通の手紙が…。なんとバレエの公演がキャンセルになったとの知らせ。ショックを受けて落ち込む少女。しかし、妹があることを思いつきます。手作りでポスターを一生懸命に作る妹。ミシンで娘のバレエの衣装を作る母親。妹は、手作りのお知らせを近所の家に配ります。おそらく、バレリーナの少女に思いを寄せている近所の少年にもその知らせが届きます。アマゾンで懐中電灯のようなものを注文する少年。アマゾンの箱からずっしりとしたライトを取り出します。そして、公演の当日。雪の降る中で、少女はソロでバレエを。少年がアマゾンで購入したライトがスポットライトとなって少女を浮き上がらせます。そして"The Show Must Go On"という文字、雪の中にアマゾンのロゴ。
"The Show Must Go On"というのは、1991年の10月14日にQueenがリリースした曲。すでにエイズが悪化していたフレディ・マーキュリーが、エイズに蝕まれようとショーは続けないといけないという渾身の思いを込めて歌い上げた名曲。この曲がリリースされた次の年の11月24日にフレディー・マーキュリーは亡くなります。コマーシャルを通して静かに流れている旋律は、実はこの曲です。何か聞いたことのあるメロディーだなと思っていたのですが、最後にそれがQueenのその曲だったとわかります。雪の中のバレエ公演のクライマックスで、この曲が流れるところが感動的です。偶然ですが、一昨日の11月24日がフレディ・マーキュリーの命日だったんですね。そんな思いも重なります。
まずは、このコマーシャルをご覧いただきましょう。
https://youtu.be/RJFReMY6Rgw
昨年、偶然見つけて、何度も見ているのですが、何度見ても感動してしまいます。このコマーシャルについては、音楽もそうなんですが、主演のバレリーナや制作スタッフに関しても説明したいことが山ほどあります。コマーシャル作品としての素晴らしさは、すぐにお分かりいただけると思いますが。ストーリーも、映像も、音楽も、編集も素晴らしいと思います。
アマゾンのCMなのですが、サービスに関連した画像は、近所の少年がライトを注文するシーンと、届いた荷物のダンボールのみ。
これだけで十分です。コロナの時代に困難を乗り越えて夢を実現したいという気持ちや、大切な人を応援したい人々の気持ち、そんな気持ちに寄り添うアマゾンの企業姿勢が伝わってきます。
そして最後の雪の中のアマゾンのロゴ。これもシンプルでいいですね。
よく聞くと、寒さの中での少女の息づかいが背景にかすかに聞こえています。これだけで言葉で伝える以上の大きなメッセージが伝わってきます。
じつは、このコマーシャルの素晴らしさの一つは、黒人のバレリーナを起用したというキャスティング。
バレリーナの少女を演じているのは、Taïs Vinoloというフランス生まれの17歳のバレリーナです。ネットに出ていたのですが、彼女のコメントがこちら。
「私はフランスの田舎で育ったのですが、黒人でバレエを勉強している子は一人もいませんでした。私のような髪をした女の子はいませんでした。テレビでも、世界中のどこにも、自分をアイデンティファイできるような人はいませんでした。今回、この撮影に参加して、非常に多くのものを得ることができました。自分が本当は何であったのがわかったし、どうなりたいのか、そして私という存在が何を示しているのかも把握することができました。このプロジェクトに参加できたことはとても光栄でした。この作品が伝えるメッセージは自分にとっても非常に重要なことだし、とくに今年のように世界が直面している困難の時代にはとくに意味のあることだと思います」
原文はこちら、“When I was growing up in the French countryside, there were no young Black girls studying ballet with hair like mine, or even on TV, meaning I had no one to identify myself with. Being on this shoot helped so much with this, enabling me to own who I really am, who I want to be and what I represent. I am so proud to have been part of this project since the message of it means a lot to me and even more so in this very difficult time that the world is going through.”
私たちは、黒人のバレリーナという存在自体、あまり考えたこともありませんでした。しかし、Taïs Vinoloのこの演技を見て、バレエに人種の限定を与えるのは間違っていたと痛感したのでした。
このコマーシャルの中で、黒人の女の子が窓から眺めて感動している光景が一瞬映りますが、この子のように、人種に関係なくバレエを追求してもよいんだ、夢を追いかけてもいいんだと勇気付けられた女の子たち(男の子も)は実に沢山いたのではないかと思います。
そして、このコマーシャル作品を作ったのは、Melina Matsoukasという女性の監督。ビヨンセや、Rihannaのミュージックビデオとかで数々の賞を受賞している映像ディレクターです。
この方も黒人だったのですね。だからこそ、彼女もこの作品を通して伝えたかったメッセージは山ほどあったのだと思います。
そして、この作品の撮影監督を務めたのは、Rina Yangというロンドンで活躍する中国系の女性。
経歴を見ると、日本の田舎町で育ち、日本でスチルと映像の勉強をしたらしいのですが、ご存知の方はお知らせください。いずれどんどん有名になっていく人だと思います。映画の「ボヘミアン・ラプソディ」でもカメラマンとして参加していたようです。彼女のサイトhttps://rinayang.comを見ると、映像もスチルも両方とも仕事しているようですが、今回のアマゾンの映像は、何と35ミリフィルムで撮影しているようです。デジタルの時代の今、35ミリフィルムに拘って撮影したその姿勢に大拍手をおくりたいです。だからYouTubeにアップされているこのコマーシャルの動画は16対9の比率ではなくて、35ミリフィルムの比率になっていたのですね。
そして、そして、このアマゾンのCMの仕事を扱っていたのは、Lucky Generalsというロンドンの広告代理店。2013年に創業して、数々のクリエイティブ作品を生み出し、TBWAが完全買収をしようとした代理店ですが、このエージェンシーのCEOはHelen Calcraftという女性。
アマゾンは以前からのクライアントのようです。他の作品も実に素晴らしいので、また別の機会にご紹介したいと思います。
ということで、このアマゾンのコマーシャルには、こんなにすごい女性たちが関わっていて、それぞれの熱い思いがこのコマーシャルを作り上げていたのだと思います。コロナだけでなく、黒人という人種の困難、そして女性というハンディキャップ、それらの壁を乗り越えて世界にメッセージを伝えたいという気持ちがこの作品に凝縮されています。そういう観点で見ると、この作品が実に輝いて見えてくると思います。ベランダから少年が照らすスポットライトのように。
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