思惟石

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『遊牧騎馬民族国家』 モンゴル始祖伝説だけでこんなに話が広がるんか

2024-10-08 11:22:25 | 日記
『遊牧騎馬民族国家』
護雅夫

シルクロードと唐帝国』のなかで
森安先生が参考にと紹介していたので、
読んでみました。
文句ばっか言ってたくせに、素直に感化されております。

この本、前書きでご本人も書かれていますが、
遊牧民族の歴史とか概要ではなく、
ある遊牧民族の始祖伝説と祭儀にまつわる
調査と推論をまとめた一冊なんですね。

と言ってもわかりにくいと思いますが。

チンギス・カン(この本だとジンギス=カン)の
始祖伝説は「蒼き狼」ってのがあるじゃないですか。
(井上靖が同タイトルで小説を書いている)
主に、その伝説の類型、モチーフ、祭儀の分析で、一冊です。

…そんなに書くことあるかな?

チンギス・カンの始祖伝説は『元朝秘史』に収録。
上天から命をうけて生まれた
蒼き狼(ブルテ・チノ、ただしくは「まだらの狼」らしい)と
その妻である美しい鹿(ゴア・マラル)があった。

から始まる逸話です。

これ、元朝ですから、
「モンゴル人」のルーツということです。
が、トルコ系の突厥・阿史那氏族にも「狼が始祖」伝説がある。
(牝狼と人間の子が始祖、柔然の鍛治師になる)
トルコ系の高車(こうしゃ)にも「狼が始祖」伝説がある。
(美しい娘と老狼の子が始祖)

さらにペルシア・イルカン帝国の歴史書『集史』では
モンゴル人の祖先は鍛治をしていたという
『元朝秘史』にないエピソードが加わっている。
(これ、突厥・阿史那氏のエピソードじゃないか?)

内藤湖南先生(声が良いらしい)によると
モンゴル民族とトルコ民族の接触による
始祖伝説のエピソード追加(もしくは交雑?)らしい。

すごいな。
推理小説みたい。

他にも、突厥での可汗(カガン、君主のこと)即位儀礼を
例にあげて、
シャーマニズム(トランス状態からの予言)の類似譚や、
氈(けむしろ・フェルト)というアイテムの重要性(!)を
あっちこっちの伝承やら事例やら引っ張ってきて分析します。

いやいや、
「王(カガン)ののった氈をかつぎまわる」
の一文から「推理のヒントは氈だぜ!」とは思わないですよ。
護先生、御手洗潔かよ(直感ですぐ推理しちゃう派)。

ちなみに即位儀式で氈(フェルト)に王様のせる系は
契丹(モンゴル系)にも鮮卑・拓跋(トルコ系)にもあるそうです。
どうやって調べるんだ。

他にも鍛治師および鉄の霊力
(日本の河童も中国の鮫竜も、鉄を嫌うんだって。先生、物知り!!)
未亡人の受胎(天降った光で懐胎するモチーフ)などなど。
こんなにいろんな角度から分析って広がるんだあ…と
びっくりします。

200ページも書くことある?と思ったけど、あったよ…。
読み応えがすごかった…。

ちなみに昭和42年初版、定価420円。
それもびっくりだぜ。
コメント
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