台車でテレビを持ち帰る客。ホテルウーマンは見た!
24時間毎日、複数の見知らぬ人間が出入りするホテル。そこで働く人たちは、「お客さまの数だけドラマがある」と言います。
そこで、関西にある某高級シティホテルで働くベテランのお二人・広報担当Aさん(女性/勤続25年)と宿泊部門のTさん(女性/勤続30年)に、「ホテルという華やかな舞台の裏で垣間見るゲストの実態」というテーマ(?)で、お話をうかがいました。
■トイレで爆睡する酔っぱらいの女性
「お客さんにかかわる業務のうち、一番大変なことは何ですか」とたずねたところ、お二人して「急に体調を壊されるお客さま」と口をそろえます。これはすなわち、「披露宴でお酒を飲み過ぎた招待客が、その場で吐いてしまうこと」だそうで……。
そんなことがあるのですねぇ、とツッコムと、Aさんが声を大きくして、
「しょっちゅうですよ。披露宴だけでなく、ディナーショーや歓送迎会、政治家の資金集めパーティでも酔っぱらう人はいます。さすがにテーブルにもどしていたのは見たことがありませんが、宴会場のジュータンが犠牲になったことは数知れずです」と証言します。
そんなとき、どう対処するのでしょうか。Tさんは、
「つらいなあ、と思いつつ、何とかしなければっと気持ちを切り替えます。まずはほかのお客さんに迷惑がかからないように消臭に努めます。コーヒーのドリップ後の残りカスをまくとかなり効果的で、その上からクロスをかけるようにしたり……」と説明します。
ビジュアルが浮かびます……。
また、Aさんは、
「ひどく酔っている人は、トラブルを起こす確率が非常に高い」と言い、最近のエピソードを話し始めます。
「あるディナーショーに来られたご夫婦のご主人が、『妻がトイレに行ったまま帰って来ない』と青い顔をしておられるんです。トイレに駆けつけて『大丈夫ですか』と叫びながらドアをドンドンとたたいたのですが、一向に返事がありません。うわっ、事件ではっ!? と一瞬凍りつきましたよ。
それでどうしたかというと、同僚がドアをたたいて声をかけ続け、私が隣の個室に脚立を持ち込んで必死の思いで棒でカギを開けようと試みました。上から見ると倒れているようにも見えて、救急車を呼ぼうかと焦ったのですが、よくよく見ると奥さまは便器にもたれて……眠っておられたんです」
結局、しばらくしてカギをこじ開けることに成功。同時に目を覚まして「酔っちゃったのかしら~」と言う奥さんを、Aさんたちはストレッチャーで運び出し、客室に運び入れたということです。その間、ご主人はずっと謝りっぱなしだったとか。奥さーん。
「ほかにも、宴会場でハメをはずす方は多くて、急性アルコール中毒になったり意識を失う方も大勢いらっしゃいます。救急車を呼ぶ機会は多いですよ」とTさん。
そういうことがあるたびに、とても心配になるというお二人ですが、
「こうしたお客さまの急変に対応できるよう、ホテルスタッフは『救命救急士』の講習を受けている場合が多いです」とのこと。
では、「一人で宿泊していて部屋で体調が悪くなったとか、客室で助けがほしいときはどうすればいいのでしょうか」とたずねると、Aさんが、
「アブナイと思う前に、客室の電話の受話器を上げっぱなしにしてください。オペレーターが気付くようになっていますから、対応ができます。トイレやバスルームの電話も同様です」
出張が多い人は、これはぜひ覚えておきましょう。
■スキッパー、UG、NO SHOWとは!?
次に「困るお客」について聞くと、2人はまたしも口をそろえて、「スキッパー」と言います。
スキッパーとは、ホテル業界用語で、「宿泊代や飲食代を払わずに逃げる人」のこと。
「当日予約か、ウォークイン予約(フロントで直接予約すること)のお客さまに多いですね。延泊をして、レストランはサインで利用し、ルームサービスや冷蔵庫の中のものを飲み食いしてはチェックアウト前にドロンするパターンです。すぐに警察に届けますが、名前や電話番号は偽装です」(Tさん)
そ、それは犯罪じゃないですか。Aさんは、
「常習などで、ほかのホテルや警察が把握していて氏名がわかった場合は、周囲のホテルに名前など、知りうる限りの情報を告知します。業界用語でUG(ユージー。アンデザイアブル・ゲストの略)と呼んでいますが、いわば、ブラックリストです」
また、予約をしても連絡なしに現れない客のことを「NO SHOW(ノー・ショー)」と呼ぶそうで、これもとても困る行為だと言います。繰り返すなど、悪質な人は「UG入り」だとか。
■台車でテレビを持って帰る客
さらに、困ったお客について、Tさんが、証言します。
「客室の備品を持ち帰る方は多いですね。同僚に聞いた話ですが、お客さまに『台車を貸してくれ』と頼まれて貸したところ、客室のテレビ、電話、布団、絵など備品一式を台車に積んで持ち出そうとした人がいました」
えーっ、それは窃盗です……。Aさんは、
「そうです。『どうするのですかっ?』と止めましたが、外国の方で、日本語が分からないフリをするんです。警察を呼ぶことになりましたが」と説明します。
この大胆不敵な行動の理由は「いまだに謎」(Aさん)ですが、「堂々としたほうが怪しまれないとでも思ったのでしょうか」とAさん。
そんな浅はかな……、とつぶやくと、「困ったゲストというのは、たいていは浅はかです」(Aさん)とツッコミが返って来ました。
続けてTさんは、こう言います。
「ホテルの備品が大好きな方がいるんですよ。どこへ行っても小物を持ち帰るという、まあ、コレクターですね。バスローブなど、リネン類は結構、マニアがいます。行き過ぎた行為の場合は本人に連絡をしますが、連絡先は偽装してありますねえ」
盗品コレクターとは……。ホテルのパジャマや浴衣、タオルやバスタオルは持ち帰らないようにしましょう。
■モンスターゲストの言い分
お客のなかには「モンスターゲスト」と呼びたくなる人がいるそうですが、いったいどんなむちゃを言うのでしょうか。Aさんは例をあげて語ります。
「ディナーショーやイベントの際によくあるのが、『一番前の真ん中の席をとれ』とか、ご予約が遅いのにもかかわらず、『いい席にしといて』という注文です。配席に関してご説明しても、延々と居直られたり、脅されたり。
少しでも良い席を希望されるお気持ちはわかるのですが、根底には、『おまえんとこのホテルを使ってやっているんだから、オレの言うことを聞け』という、自分が一番に扱われないと気に入らないという心理があるのだと思います」
オレさまはお客さまだぞ? Tさんは、
「ホテルなら何を言っても優遇してくれると思い込んでいるゲストもいます。一番困るのは『誠意をみせろ』とねばるケース。無理な苦情・申し立ての多いお客さまはクレーマーと言われますが、行き過ぎたクレームの場合は、『UG』のリストに入れます。
どこの業界にも居そうなお客のパターンですが、ホテルの場合、ゲストの数とむちゃのバリエーションが多いのはつらいところかも。
■予約サイトの「クチコミ」に苦情を書く前に
では、ホテルマン・ウーマンたちがありがたいと思うのはどういうときでしょうか。
「ここがよかった、とか、楽しかったことなどを具体的に伝えてくださったときはとてもうれしいです。元気になります」(Aさん)
「苦情やご要望は、その場で伝えてくだされば何とか対応するように努力します。だから、どんなことでも声をかけていただけるのが一番ありがたいです」(Tさん)
最近よくある、苦情をインターネットの予約サイトの「クチコミ」に書かれた場合、ホテル側としてはどう思うものでしょうか。
Aさん、Tさんとも、
「ご指摘の点を改善しようと努めます。が、『当日に伝えてほしかったなあ。何とかしたのに』と、悔やむことが多いですね。ホテルウーマンたちは、お客さまからの『ありがとう』の一言に喜びを感じ、またご利用いただけるときのために、笑顔でお待ちしたいと思っていますので」と言います。
事件事故の例をのぞいてもゲストの困った実態はまだまだ続きますが、そろそろ紙幅が尽きました。彼女たちの話からは、「ホテルでのふるまいには、そのヒトの品性がにじみ出る」ということが明らかです。これらのエピソードを教訓に、今度の宿泊は、レディース&ジェントルマンを心がけましょう。
(阪河朝美/ユンブル)
ホテルの裏話を見て笑うやら、大変さに頭の下がる思いです。
私たちは旅行の時、お世話になっていますが,
嫌な客にならないようにしたいです。
働いている,皆さん、本当に ありがとう。