住みこみ*著書:『住みこみ』(2007年/ラトルズ刊) 戸田家の一年を写真とエッセイで綴った本のタイトルです。

人の暮らしは時間と共に変化します。それを調整しつつ自在に手を入れられる、ゆるやかな設計を心がけています。

年末のお引越し

2015-01-01 16:50:06 | 建築設計

あけましておめでというございます。

今年最初のブログを更新しました。本年もよろしくお願い申し上げます。

 

12月の年の瀬に「O邸リフォーム工事」が完成しました。予定ではもう少し早い時期に完成でしたが、工事を進めるうちにイロイロと要素が出てきまして、この時期になりました。何はともあれ12月26日無事引越しの運びとなりました。良かったです。

イロイロな要素の一つに、クライアントによる壁塗り作業がありました。11月中に引き渡しは完了していたのですが、そのあとに漆喰塗り作業をしました。隊長は何と設計者の私。隊員はクライアントとその仲間たち、私が教鞭をとっているデザイン学校の生徒や、古材屋さんのスタッフと様々。1泊2日+数日の過酷な合宿となりました。

   この部屋の壁の漆喰を塗りました。

この部屋の天井は、梁と根太の現しです。既存の天井を壊し、中から出てきたのはこの木材。色合い・質感は新しい材料では出ないであろう風格?がありました。汚れていたり、すすけていたりで一見したところではただの古家の一部材でしたが、これはこのままでいけると確信し、骨組みを現したままにしました。

北側道路より玄関を見る。扉はアンティーク材で制作したオリジナル品

玄関周りの壁は板金です。職人が一枚一枚手板金で作っております。工業製品にない凹凸は、そのべコツキ感が、あたかも生き物の皮膚のように、その住宅をやさしく包み込んでいます。屋内に見えている階段のけあげ(立ち上がり部分)は抜けてます。玄関を入る人に圧迫感を与えず、また光が入る明るい空間になるための配慮です。

  

 玄関扉を開けるとこの土間があり、南側庭へと抜けてます。ここは土足のまま通り抜けが出来ます。玄関を入って右側が畳スペースです。あえて高低差がある小上がりになってます。工事中も職人達がここにちょこっと腰かけている姿を目にしました。以前ここは6畳間でしたが、その半分を削り、土間スペースに振り分けました。

左:その土間から靴を脱ぎ、左側を2階に上がる階段にしました。また開放性を確保する為、南側の壁を抜き、その代わりにスチール製の筋違で構造補強をしました。右:水回り部分の玄関です。

タタミスペース壁天井は土塗り壁です。こちらは我々素人集団に出来るわけもなく、左官職人の辻組による作品です。壁天井のコーナーはRにすることにより、その空間に広がりが生まれました。

 

南側庭より玄関方面を見る。土間上部は吹き抜けとなります。ここは人と風と光の通り道です。

吹抜上部にトップライトを設置することにより、漆喰での壁天井仕上げである事も相まって、土間全体にやさしく光が回ります。上部両開き窓は居間に面してます。

 

個室より、タタミスペース越しに土間スペースを見る。それぞれ障子やふすまで仕切ることも、また一つの空間として見通せることもできて、空間の自由度を増しました。

土間から階段を上がり終わったこのホールより先が、居間・食堂・キッチン(LDK)となります。

 

2階ホールより中に入るとそこはLDKになります。クライアントのライフスタイルに合わせ、既存にあった3室を一つの空間にし、1階にあったキッチンを2階にしました。

キッチンは上部天井を取り外したまま、構造材を現しにしました。上部トップライトを設置することにより、明るく開放的な空間に・・・家具職人に制作を依頼したキッチンは、シンプルかつ機能的なものになりました。

骨組みは一部を除きほとんどそのまま、部分的に補強をしました。壁はすさ等配合した辻組オリジナル漆喰です。

 

リフォーム前は、棚や収納にラワン材を中心とした無垢材をふんだんに使われていました。そしてそのどれもがきっちり使い込まれたいい感じになっていました。そこで取り壊しの時に既存の柱梁と合わせ、造作材などを可能な限り処分せずに残してもらい、それらを引き継ぐ事にしました。

 壁に造り付けの椅子もそれらの材料です。以前食器棚でした。住宅と家具の製作の時代があっているせいか、妙にしっくりきている気がします。 

 

白色に塗装された両開き窓は支給品。といっても、クライアントからではなく、私が自宅をリフォームするときに購入しておいたアメリカのアンティーク。ナローなガラスやブラスの取手など、今では手に入れにくい仕様です。

自宅で使うよりマッチしていると感じ、支給品として嫁入りの運びとなりました。もうここしかないという感じになりました。

 

この窓の外側にプランターボックスを作り完成です。この椅子に腰かけ、内開きの扉を開け、下の土間の通路を眺めていると、ヨーロッパの古い街並みの露地に居るかのよう?イメージでは、この土間は内でもあり外でもあるのです。

既存柱もそのまま使いました。貫と言われる壁下地用の部材の柱二空いた穴も、そのままですが気にしません。

 

カウンターは製作品。

 

特注品に付き、工事進捗状況よりも早い段階で発注しなくてはなりません。全体像が見えない中での製作になりますので、イメージが付きにくいものになります。

 

古材屋に行き、あれやこれやと話しているうち、いつも相談している稲留さんに、米松の一種、ダグラスファーの古材を持って来てもらったのを見た瞬間、クライアントも私も「これいい~」

という事で、その材料でカウンターを作ることになる。

こぼれ話ですが、「出会ってしまったのが失敗の始まりだったね~」がクライアントと私の口癖になりました。もちろんカウンタ―の存在感に全てのものが(いい意味で)引っ張られたという事で、もちろん本当に失敗とは思ってない!

言い換えれば、カウンターが凄すぎて、いい加減なものや新建材でできた製品は、空間が寄せ付けない感じになるので、素材感がしっかりしたものというか、やたらなものが選べなくなってしまったという事です。

 

逆に言えば、選ぶべきものが明確になったと言えます。

こちらはキャビネット。鏡だけのようで、収納棚が埋め込んであり、鏡の部分を扉として開閉して使います。

 

額縁部分はアメリカの教会の壁に使われていたブリキ板。この素材を見た瞬間にキャビネットへの転用を思いつき、イロイロあった末、実現に至る。

 

これも出会いであり、前述の「イロイロ」である。

 

 2階のリビングダイニングよりキッチンを見る。

 切妻の屋根形状が室内からも解る勾配天井になってます。左側棚や棚板全て引き継いだ材料です。

 

そんなこんなイロイロあって、この住宅のこれまでの40年間を愛しみつつ、新たな歴史が刻まれ、育ってゆくことでしょう。

 

今回の(仮称)「O邸リフォーム工事」のほかに、すでに完成しておりますが、詳細をup出来ていないお宅もあります。順不同になって申し訳ありません。

 

繰り返しになりますが、本年もよろしくお願い申し上げます。