住みこみ*著書:『住みこみ』(2007年/ラトルズ刊) 戸田家の一年を写真とエッセイで綴った本のタイトルです。

人の暮らしは時間と共に変化します。それを調整しつつ自在に手を入れられる、ゆるやかな設計を心がけています。

「工事中の完成」

2017-09-25 16:05:06 | 建築設計

 

 

久しぶりに竹橋の国立近代美術館に行く。「フランシスベーコン」以来か。今回は「日本の家」展。戦後日本の住宅の系譜を、模型とVTRと図面でたどるもの。建築を始めたころが懐かしい。あの当時見れたらどんなに幸せだったことか-と思われるようなものがあった。

竹橋の後は、代官山に場所を移した。川俣正「工事中」インスタレーションの最終日。ヒルサイドテラスの屋上が廃材で覆われていた。

この「工事中」最初に発表されたのは1984年なので今から33年前の事。自分が建築の学校を卒業し、設計事務所に勤め始めてた年。さあこれからどんな建物を創っていけるのか~という時に、モダニズム建築の最高峰ともいえる槇文彦のヒルサイドテラスが、おびただしい数の木材の波に飲み込まれてしまったかの様な映像が飛び込んできた事に、一種の衝撃に近い感覚に襲われたことが思い出される。

「これは体験したい~」そう思っていた矢先、諸事情で撤去されたので、ずっと長い間心の中に引っかかっていた。こちらの気持ちも「工事中」だった(笑)。なので、今回はどうしてもその場に行って、自分で体験する必要があったのだ。

川俣正さんの一連の作品は、公共空間に、材木を張り巡らせる手法で空間を捉え直し、その製作のプロセス自体が作品、いわゆるインスタレーションである。建築も箱から場と言われ始めて久しいが、今回のインスタレーションは、場として確立されている代官山のヒルサイドテラスで、それとは少し違う目線で、見慣れたその場を活かしながら、アートを軸に新しい関係性の可能性を示唆するという意味あいが腑に落ちる。

見慣れた風景に一石を投じるのがインスタレーションの手法の一つだとすれば、建築も大なり小なり同じことが言える。建築途中は膜で覆い、幕が取れると全く予想だにしなかった建物が現れる。問題はどんな一石だったか?または本人は一石を投じているつもりはないのに結果そうなったか?下手をするとそれは暴力的になってしまってないか…話はそれましたが、今回の作品は仮設で、廃材で建物を覆うというスタイルで、根本的なところを変えてしまうのではなく、見るものに問いかけてくれていたと思う。

今回の展覧会は、代官山の歩道橋が撤去される事が決定したことも、展覧会を再開した一因との事。ヒルサイドの屋根に展開された作品を見るのに歩道橋の上から見たアングルが適している。歩道橋はなくなっても、その視点は永遠に脳裏に焼き付くって事らしい。旧山の手通り、交差点のど真ん中、空中4mの記憶。

川俣正さんの作品を通し、年代を遡り、あのころの自分とつながった様な秋の一日でしたこれで自分の中の「工事中」が「完成」か。

旧山の手通り、空中4mの記憶

今回特別に、作品の中に入っていった。こんな形でヒルサイドテラスの屋上に登れるとは…

廃材の中からは、いつもと違った空が見えた

こちらはすべてほぼ一人でビルを建てている。2005年に着工し現在も建築中である。建物という完成品ではなく、その建てるという行為そのもの、その姿勢、そのたたずまいの瞬間瞬間がアートの様。完成しなくてもいいような気さえしてくる。(笑)

蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)/「日本の家」展より


便利で美しい道具

2017-09-22 11:12:31 | 建築設計

 雑誌「クーネル」に、設計させてもらった「だいどこ道具ツチキリ」が紹介されてます。撮影場所としても協力してます。10ページにわたる見ごたえのある特集です。現在発売中です。書店でお手にとってご覧ください。

雑誌「クーネル」11月号 「料理がもっと好きになる、便利で美しい道具。」

こちらは世界の建築・インテリアを紹介しているHomifyで、当事務所設計の「千人町の家」が紹介されてます。ガラスについて、記事にも書いてますが、もともと障子戸で使っていた古いフレームを利用し、ガラスをはめ直しました。昔の職人の丁寧な仕事が、毎日開け閉めする建具に表情を与えてくれます。開け閉めがこんなにも楽しく、日々の生活にいろどりを添えてくれます。毎日の事だから大切にしたい事がたくさんあります。

https://www.homify.jp/ideabooks/3994566/%E3%81%8A%E6%B4%92%E8%90%BD%E3%81%AA%E3%82%AC%E3%83%A9%E3%82%B9%E4%BD%BF%E3%81%84%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%87%E3%82%A215%E9%81%B8


タタミと和

2017-09-12 01:33:38 | 建築設計

私が住宅を設計する時、畳のある和のスペースを取り入れることが多いです。設計するにあたり、敷地や建築可能な空間、はたまた可能な資金を潤沢に持つというケースは少なく、敷地、建築可能範囲や、建築資金と、何らかの制限がある場合がほとんど。

空間に関しては、限られた空間を大きく使おうと、一つ大きなまとまった空間にするのも一つであるが、むしろそういう時こそ、一角に小さくてもタタミスペースの起用をおすすめしてます。

家族団欒の居間であり、食堂にもなる。タタミがムシロなどを「タタム」事が語源であるとすれば、(移動可能な)寝具の延長として寝室にもなる、そして何より、ごろごろできる~本も読める~瞑想もできる!? もちろん柔らかく仕切った襖や障子を開ければ大きな一つの空間にもなる。

畳スペースの空間がもっている多機能性が、限られた空間の中では生きると思うのです。

「どうも和っぽいイメージは我が家には合わないな~」そう考える人も多いと思います。

しいて言えば、和室だから和風という考えは古いと思います。洋風化したといわれる住空間にあったタタミスペースがあると思うのです。

 

リビングとの仕切りは雪見障子を折戸にしました。畳とフローリングの間には板の間があります。そこに椅子のように腰かけられたり、寝転がれたり出来る中間領域の濡れ縁のイメージ「     有楽の家」

 襖は明るくポップな金色の蜜蜂柄です。引手は同じく金色に塗られたもの。蜜がしたたるお花畑のイメージです。この壁紙は外側の壁紙と同じ、イギリスの職人の手作業によるもの

 

コルクタイルの上で靴の生活をする空間にとって、この小上がりな空間こそが「土間と縁側」(吉谷さん談)

空間の関係性で和と洋の融合をこころみました。(2004年設計の吉谷桂子邸 )

(写真は雑誌「ミセス」2006年 NO.622号)

こちらは近代建築を支えたコンクリートという素材と和の融合。このタタミ自体が縁側的なコンセプトで、部屋にいながら外の一部にいるような、庭と一体化した空間を表現しました。(2002年竣工の戸田邸)

尚、冒頭に紹介しました「有楽の家」が、下記URLに紹介されてます。

https://www.homify.jp/ideabooks/3846503/%E3%81%B5%E3%81%99%E3%81%BE%E3%82%82%E9%83%A8%E5%B1%8B%E3%81%AE%E3%83%87%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%EF%BC%81


HOME CENTER というイベント

2017-09-05 14:42:21 | 建築設計

 

(育てがいのあるもの)

突然ですがジーンズを育ててます。かれこれ20年近くなるでしょうか?色落ちがしすぎないように、洗濯はなるべく少なくなるように汗をかきそうな夏や、じめじめした梅雨の時期、また激しい運動をする時などは、身に着けないようにしています。自分しかはいていないので、同じ場所だけにしわが出てきます。当然、そこがほつれたり擦り切れたりしてきます。そうした時にほつれた箇所を眺めながら「今度はどの生地を当てて繕おうか?」とわくわくしている自分がいます。ほつれた部分がかわいいと思っちゃうことさえあります(笑)素人がやる事なんで仕上がりは聞かないでください

HOME CENTERというイベントを開催しています。プレオープンを入れれば今回で3回目になるでしょうか

 

(今回の会場はWALDENさんのショ-ル-ム。前日の天気予報では雨でしたが、朝のうち降っていた雨も、イベントの始まる11時にはすっかりと青空に! このかっちょいい~グラフィック担当は今回所用で出展できなかったStudio-Lの藤山さん、)
 

(総合窓口である株式会社「と」の洪さん&アウトドアコーナーのコアデザイン長坂さん)


(この一帯は古くから繊維産業関係の建物が多く残り、こちらものこぎり屋根の機織り工場工場跡。相変わらず告知が遅れましたが、たくさんの人にお越しいただきました)

モノを購入して、それで終わりでしょうか?


 「愛着」=慣れ親しんだものに深く心がひかれること
使い始め、慣れてきて初めて感じるものであるのなら、購入した時はむしろ始まりなのかもしれません。
 使っていれば、ほつれるでしょう~すり減るでしょう~壊れもします~当たり前です。モノですから…
むしろ正直なヤツと言えます。

新品ならではのよそよそしさが消え、やっと自分に近づいてきてくれた時に転機がやって来るーそれが試練 いや「修繕」です

(和やかな雰囲気のもと、FUJITAKE WORKS さんの椅子の張り替えが始まりました)

 (みなさん楽しそうに、しかしながら熱心に写真を撮る場面も…意識が高い人が多いと感じます)

(和やかに…と言えど、ふと見せる藤武さんの職人の表情。手前は椅子の背もたれ部分。味わい深い手縫で、最近は少なくなってきたそう)

知識もありません~単に自慢したいだけ、話を聞いてもらいたいだけかもしれません…修繕すべきものなのか迷います~
そんな人の駆け込み寺的な存在になりたいと思っています。もちろん修繕だけではありません、そもそもそのモノが修繕をする余地がないものも多いです

見極める事から 「愛着」を受け入れてくれるモノや空間の提案、はたまた暮らしのお悩み相談まで、おいしいコーヒ-でも飲みながらゆるく話しましょうー
「修繕」は単に一つの切り口にすぎません。その他にも、オーダー家具の相談や、ワークショップから街づくりの相談までその道の専門家がぶっちゃけた話をしてくれる、そんなイベントです。

(さんちょうコーヒー部/藤田さんによる水出しコーヒーパックを作るワークショップ、オリジナルイベントでつくるオリジナルブレンド)

(その時の雰囲気とコンデション、何よりその人の好みによって味を微調整するそうです)

(暮らしのアクセント、3Dプリンターの使い方提案は必見でした。右奥/春日亀意匠・春日亀さん)

(オ-ダ-家具相談のフルスイングさん、住宅相談・住宅模型展示などは当事務所の戸田が担当しました。)

今回、開催した HOME CENTER には、ご案内が遅れたにもかかわらず、思いのほかたくさんの方に集まっていただきました。ありがとうございます。
 次回は一年に一回の呪縛を解くべく年内開催予定です。追ってご案内いたしますね。