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酒井崇男『トヨタの強さの秘密』

2018-08-04 16:00:53 | システムメモ

要 約:ネタバレ注意

2015年のトヨタ概要情報

売上27.5兆円

営業利益:2.8兆円

国内の生産400万台(この半数は輸出向け)、海外600万台

トヨタ本体の従業員は海外のほうが多い。

1978年以来無借金経営。

系列企業:デンソー(50%の売り上げはトヨタ以外から)、アイシン

デンソー:売上4兆3000億、営業利益3500億、研究開発費4000億

他社:

・NEC系列全体で売上3兆円弱、

・三菱重工業売上3兆円台。

・シャープ3兆円、

・マツダ、スズキ3兆円。

・三菱自動車、富士重工業2兆円台。

・日立は9兆円(トヨタの30%)、

営業利益は5000億(トヨタの20%)。

研究開発費はデンソーに及ばない3500億。

 

トヨタの強さを生産方式TPS(TOYOTA Production System)ではなく、トヨタ製品開発TPD(TOYOTA Product Development )だ!という仮説で説明した興味深い内容。リーン生産方式も実はトヨタの派生というのは興味深い。つまりリーン開発=トヨタ流開発(ジェックウェルチを継いだジェフイメルト「リーンスタートアップ」)。

IDEO社に代表されるデザイン思考やGEのシックスシグマなども派生という。IDEOがスチールケース社(アメリカの老舗高級家具メーカーLEAPチェアというのが有名)の出資を受けているのは知らなかった。このTPD製品開発に大きく携わるのが主査という機能役職という。

 

リーン:このコンセプトは開発でも生産でも共通。投入する経営資源が、経済的な価値を持つ資産性の高い情報やモノ、そして人の問題解決能力の蓄積になっていなければならないという考え方。

 

 

TPS:製品を生み出す、製造品質を保証、製品の適合品質にどの程度適合しているかという意味で適合品質とも呼ばれる。設計図通りに正しく実際の製品が作られているか。

ジャストインタイム、自働化、多能工、カンバン、アンドン、5S、QCサークル、VA

 

TPD:企画、設計、開発、試作、試験→設計情報→TPSにのる。保証している品質は、設計情報の質=設計品質。設計情報、設計品質、プロダクトデータ。

 TPD=利益の95%(原価企画・設計)、TPS=5%

売れるもの(TPD)、売れるときに、売れる数だけ、売れる順番につくる(TPS)

TPDを支えるのが主査制度(現在のチーフエンジニア制度)。

主査制度の一部:利益計画・管理手法。トヨタ流原価企画。製品の企画設計段階から、利益と経済性を検討。利益を設計段階で作りこむのが、トヨタ流原価企画。方法がトヨタ流VE。

通常VE:最小のライフサイクルコストで、必要な機能を確実に達成するために、製品やサービスの機能的研究に注ぐ組織的な努力。

トヨタVE:同じ価値・機能・性能をより経済的に実現するために設計情報の変更を伴うもの。

トヨタでは入社新人に 売価―原価=利益の関係を教える。トヨタでは売価は変えられないため(売価は市場が決める)、利益を上げるにはアタマを使って原価を下げるという考え方をとる。原価低減→カイゼンや改革といったアタマのハタラキでよりよいプロセスをつくることで原価を下げよう(利益をあげよう)というわけ。原価低減=利益創造という考え方。この中心が製品の社長の役割を果たす、車両担当主査(製品価値を決める広義の設計者であり、同時に利益に責任をもつ原価企画責任者)。

主査:製品価値、利益、実現手段すべてに責任を持つ。

TPS:TPDで開発された製品・設計情報を間違いなく、コピー・量産すること。つまり、製造品質(適合品質)を保証すること。TPDの生み出す設計情報に適合した現物を作り出すこと。さらにTPSは最小の費用かつ最小運転資金で望まれる水準の品質で行う(コピー)プロセスをつくること。TPSの本質はこのものをつくるというだけではなく、最小の費用・運転資金でコピー量産するプロセス想像をしていくこと。カイゼン、設備・機械化により不断に改良がくわえられ続ける。売価は市場が決める=これは世界の常識、これが原価意識、コスト意識。

トヨタの強さの秘密=トヨタ経営システムとは

「TPDで価値・利益を含んだ設計情報をつくり、完成した設計情報をTPSに基づいて最小の費用と運転資金で実際の製品に変換する」こと

2015年

TPD:研究開発費:1兆円=知識投資:製品価値向上、製品開発・生産プロセスをより高品質、効率的にするための技術開発への投資。

TPS:設備投資:1兆1000憶。

従業員もTPDは5~6%、TPS90%。

1960年代から50年製品特製の変遷。

1基本性能=走る、曲がる、止まる

2信頼性、耐久性

3低公害、排気ガス対策

4安全性、予防安全

5快適性、居住性、空調、低振動、低騒音

6操縦安定性、ドライバビリティ

7地球環境問題省エネ、省資源、リサイクル、CO2対策

8経済性

 

設計品質とは、我々のニーズをどの程度満たしているか、その度合い。

製造品質とは、TPDで作成された設計情報がどれだけ間違いなくコピーされ、量産されるか。

 

現在は、1955年当時と異なり、先進国では工場の中で重労働で肉体的にきつい製造といったイメージはおかしい。ドラッカーのいう知識創造社会であり、生み出された製品価値のうち、ほとんどの価値は設計情報部分(プロダクトデータ)である。アップルのプロダクトデータ然り。アップルの付加価値は、プロダクトモデル=設計情報である。設計情報を量産が可能な中国や台湾の工場に送っている。

ものつくりとは、「設計情報の創造(TPD)と転写(TPS)である」とは藤本隆宏教授。

設計情報とは、「知識や才能の塊が情報となったものである。設計情報は調査、企画、開発、設計、試作、試験」を経て生み出される成果物。

車のような工業品なら、その情報には、研究開発や技術開発の成果、外観、内装のデザインやエンジンの性能などといった商品の魅力や価値を形成する要素が含まれる。いわば知識の塊である。

製鉄やガラスなどのどうな素材産業・プロセス産業では、製造工程を記述する情報が設計情報である。料理のレシピに近い。求められる質の製品を生み出すために必要かつ十分な情報セットが設計情報である。

今のものつくりの本質は「設計情報をつくること」である。

プロトタイプやアジャイルが注目されてきたことも自然である。

★★★★★★製造現場のR&Dは、プロジェクト単位で組織自体も組成されることが多いだろう。なぜなら、このトヨタの秘密の通り、販売価格は市場が決め、原価をいかに下げてよい製品を創造できるかということが成功の鍵になってきており、今後もここはそうそうは変わらない。このR&D、プロトタイプの採算管理が一層今後は求められることだろう。

トヨタのR&D投資額を考えればわかることである。

話をもとに戻す。設計情報にほとんどの価値が表現されているのが、今のものつくりの実態だといえる。ものつくり=設計情報の作成である。商品価値、研究開発成果、デザイン(意匠)、作り方など。

設計情報の創造と転写

転写媒体が有形であれば、ものつくり、無形であればサービス・体験である。

 

ただし、現状の会計制度(財務会計・管理会計)には、無形のコンセプトや設計情報、ノウハウには、価値ある資産として勘定する仕組みがない。

財務会計上は、帳簿上、有形の材料や仕掛品、完成した製品は資産勘定。

一方で無形の設計情報やコンセプト情報は、帳簿上は資産として勘定していない。製品開発やプロセスで費用が発生するだけの経費として扱っている。

しかし、製品設計情報の出来が悪いと、材料・仕掛品・製品在庫は増やしてはいけない、存在しているだけで負債でしかない。

重要なのは、無形資産である設計情報や無形仕掛品のコンセプトである。情報資産を変化させたり、設計情報を媒体(メディア・材料)に転写するプロセス、ノウハウも無形資産である。

1設計情報2プロセスノウハウ3人間の頭脳が本質的な情報資産だといえる。

材料・労働力・資本の3つの昔の思考から経済学会計学も変わっていない。

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著者名 :酒井崇男

書籍名 :トヨタの強さの秘密 日本人の知らない日本最大のグローバル企業

出版社 :講談社 講談社現代新書

発刊日 :2016年3月 262ページ

価 格 :880円プラス税

著者経歴:1973年、愛知県岡崎市生まれ。グローバル・ピープル・ソリューションズ代表取締役。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了。大手通信会社研究所勤務を経て独立、人事・組織・製品開発戦略のコンサルティングを行う。リーン開発・製品開発組織のタレント・マネジメントについて国内外で講演・指導を行っている。前著『「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論』(講談社現代新書)では、グローバル企業の人材戦略について詳細に解き明かし、大きな反響を呼んだ。因みに本書には、著者の母方祖先に本多光太郎氏(東大物理学を主席卒業(東北大の金属材料研究所をつくった方)、ドイツのゲッティンゲン大、ケンブリッジ大への留学経験あり)という方がおり、この方は豊田喜一郎氏が技術コンサルティングを依頼していた方だそうだ。

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