黒電話
黒電話、と聞いて
まあ懐かしいと思うのは何歳くらい迄でしょうね。
黒電話の存在なんて全く知らない世代もいるこのご時世に、
昨日落花生を届けてくれたMちゃんってね、
黒電話を使っているんですよ。
彼女の家へ行くとまあ驚きますよ。
何しろ電気代が月五百円でしょ。
もちろん冷蔵庫もテレビも洗濯機も有りません。
掃除機だってないですよ。
それでもお家をこざっぱりと片付けて玄関先もきれいに飾って暮らしています。
昭和初期の暮らし方を実践しているようなご夫婦でした。
そういうわけですから使っているのも黒電話。
徹底していますね。
(と、最初はそう思っていた私ですが、、、、、、)
ところが最近Mちゃんの黒電話の調子が悪く、こちらからかける事ができなくなっていました。
一昨日の午後焼き立てのパンを届けた時に留守だったので
持っていったパンを玄関前にあった蓋付きの籠の中に入れて置いてきました。
彼女は猫を飼っています。
だからそのまま置いて帰るわけには行きません。
あとで電話すればいいと思ったのです。
夜になって電話をかけたのですが、ありゃま繋がりません。
二、三度試したけれどダメだったので諦めました。
仕方がありません。
テレパシーを送るしかないと、冗談まじりにそう言うしかないのでした。
ところが、電話の声は向こう側には届いていたようで
Mちゃんは用事が気になりよく朝早くにやってきたと言うわけです。
パンをカゴに入れた話をすると、見つけたよって言ってたからテレパシーは届いたのかね。
後で電話の話を聞いた家人は、
物置にある昔の電話機を彼女にあげると言い出しました。
そう言えばうちがずっと昔にfax付きの電話に換えた時、
それまで使っていた電話機を物置にしまってありました。
それは彼女の家のと同じ形の黒電話です。
もしかしてもう一度日の目を浴びる日が来るとは思わなかったけれど、
場所が有るので取っておいたものでした。
もし役に立つならば
そんな嬉しいことはありません。
ちょうどその日、彼女の家の方に行く用事があったので、早速届けてあげることにしました。
この電話機が物置に放置されてから何年経ったか覚えてません。
二十年は経つかしらん。
引っ張り出してきた懐かしい電話機を綺麗に拭いて持って行きました。
用事を済ませ彼女の家に行くとまた留守でした。
車があるので近所に出かけているのでしょう。
私たちは待つ時間もなかったので玄関先に電話機を置いて帰って来ました。
すると夜になってMちゃんから電話がかかってきました。
声がよく聞こえます。
どうやら持って行った電話機に交換して話しているようです。
聞けば別の知り合いに電話機の不調を話したら、
電話機を交換してみたらと言われたらしい。
でも別の電話機なんてないしどうしよう、と思っていたのだそうです。
そのついでに、どうして黒電話なのか、その理由も話してくれました。
家がアンティークだからそれに合わせているわけではなく、
Fax付きの電話は夜中光っているからそれが気になると言うのです。
確かにね。
彼女の家のような間取りだと、夜中明かりが灯っているのは気になるかもしれません。
それが理由で黒電話に戻したのだそうです。
今の電話機が壊れることなど想像もしていなかったから困っていたの、と言ってました。
捨てる神あれば拾う神あり、っていつも思うけど、
(この場合はちょっと意味が違うかなぁ?)
どっちにしても、うちの物置も談話機一台分のスペースが空きました。
小ちゃいけど。
Mちゃんにもよろこんでもらったし、またもや目出度し、めでたしの秋の夜。
東の空にはオリオンの三つ星がキラキラと輝く晩秋の夜。
どちら様も良き夢を見られますように。
黒電話の勇姿を撮っておくの忘れました。
今度Mちゃん家に行く時には撮影しましょうかね。