睡眠薬と痛み止め
睡眠薬と痛み止めが効いたのは、日にちが変わる頃であった。目覚めると、七時。何ヶ月ぶりの朝寝である。今朝は、痛みはどこに行ったのか気分快調。布団の中で、駆け落ち結婚した頃のことを思い出していた。突然二人の人間を思い出した。その頃仕事を支えてくれていたT君と、F君のことである。そうだ彼らもまた、アスベストの洗礼を、私と共に受けていたのだ。跳ね起きて、彼らのその後の所在地を探し始めた。妻が昨夜のことを心配して、私の顔色をうかがっている。しかしこの旦那に、変に注意すると余計に意地を張り、余計に動き出すことを知っているので、ただただ黙って私があちらこちら電話するのを、「はなてぼ」様から送っていただいたCDを聞きながら見つめている。また二人、アスベスト「健康管理手帳」(石綿)申請者用の書類の準備を始めた。その後、義理の兄もまた、アスベスト被曝者だと気付き、書類を調えると、早速出かけようとする私に、妻がついていく言い出した。一昨日作ったばかりの、自家製ゆずジャムをビンに詰め始めた。一人で行かせて途中体調に変化があるといけないとでも思ったのかどうかは、定かでないが、とにかくくっついて来た。大事な話は五分、後は女同士の話に聞き入るばかりの私。しかし、昨夜の痛みから察するに、中皮腫患者の苦しみは、半端ではないことが理解できる。我が身を労わりつつ、一人でも多くのアスベスト被曝者を探し出し、救済の道筋をつけてあげることが出来れば、この身のことなど小さき事、と一瞬思ったが、我が身を律する事も出来ず、この難問に立ち向かえる筈がなしと、自ら諌めた。今日も元気に目覚めることの出来たことに、まづは感謝しよう。