美術の学芸ノート

中村彝などの美術を中心に近代日本美術、印象派などの西洋美術の他、つぶやきやメモなど。

メナードとポーラの中村彝作品(1)

2015-06-18 01:15:21 | 中村彝
 二つの化粧品会社の美術館がどちらも中村彝(つね)の作品を持っている。
 若くして亡くなっているので彝の作品は、そう多くない。おそらく公にされている作品は300点に満たないだろう。そうした中、比較的新しいメナード美術館とポーラ美術館が彼の作品を複数点持っているのだから、たいしたものだ。

 彝の出身地である茨城県の近代美術館は、さすがに多くの彝作品を持っているけれど、どうしても必要なのに欠けている油彩の作品がある。それがメナード美術館が3点も持っている相馬俊子を描いた作品だ。
 特に横長の「婦人像」など未完成とはいえ、彝の作品の中では最も大きな部類で、あるいは文展への出品も意図していたかもしれない最上級の作品である。未完成といっても、非常によいところまで仕上がっている。他のもう1点の俊子像も未完成の作品だが、鑑賞するのに何の差し障りもない、やはりとても魅力的な作品である。
 だが私は、1989年に「中村彝・中原悌二郎と友人たち」展を担当したとき、もちろん相手方にも事情があってのことだろうが、この「婦人像」を貸してもらうことすらできなかった。

 なぜ、茨城県近代美術館は、そのうちの1点でも手に入れることができなかったのだろう。悔やまれる!

 横須賀市の美術館も彼女を描いた作品を持っている。これもよい作品だ。まだ横須賀市が手に入れる前に、出来の良い俊子像を手に入れる最後のチャンスだから何とか入手できないものだろうかと進言したことがあったが、ダメだった。今では横須賀市がこれを目玉にしているほどの作品である。

 ここに述べた俊子像のどの作品をとっても、少なくとも時期的には茨城県が取得しえたはずの作品だった。入手できなかったのは、私たち学芸員の力が不足していたと言われてもあまり文句は言えないだろう。

 彝があんなに激しく想い続けた俊子の像があれば、茨城県近代美術館の中村彝に関するギャラリー・トークは、もっと具体的に面白くなるし、所蔵品展示ももっと花のあるものにすることができたのではなかろうかと折りに触れて思うのである。

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