犬に体を意識させたり、体の使い方を思い出させる方法に、「バンデージ」と呼ばれる伸縮性のある平織りのテープを使う方法があります。下の写真はうちのクリにバンデージを巻いたときのものです。
クリは散歩に出る際など、舞い上がってガオガオします。後肢から飛びあがるように動きまわる。おそらく後半身に意識がないのでしょう。そこで全身を感じてもらうために、バンデージを巻いてみました。だからといって、すぐにガオガオが収まるわけではありませんが、毎日、意識喚起させてやることで姿勢が正され、深い呼吸ができるようになれば、落ち着きを取り戻しやすくなります。
バンデージを巻くとこのようになります
とある講習で、参加者が連れて来たコーギーのマリちゃんに、それを試したことがありました。
マリちゃんは両方の後肢に麻痺があり、普段は後肢を引きずるようにしながら、前肢の力だけで歩いているそうです。変性性脊髄症とのこと。マリちゃんは痛みを感じていないようですが、歩かせる場所は、引きずられた後肢にダメージが少ない草地や砂浜だそうです。飼い主さんは少しでもマリちゃんに後肢の感覚を思い出してほしいと思ったのでしょう。見守っている参加者全員が同じ気持ちだったと思います。
けれど、何をされるのかと緊張感でいっぱいだったマリちゃんは先生を威嚇しました。飼い主さんにバンデージを巻かれ、大勢の前で歩くよう誘導されているマリちゃんの表情は険しく、瞳には戸惑いや怒りが宿っていました。私はものすごい哀しみに襲われ、思わず嗚咽を漏らしそうでした。マリちゃんの戸惑い、怒り、嘆きが伝わってきたのです。「なぜ、こんな人前に曝されなくてはいけないのか」「私は飼い主さんといつも通りの散歩をしていれば十分なのに」、そんな叫びが聞こえました。
そうですよね。人間だって、どこかに障害があり、そのリハビリ風景や治療を、何の断りもなしに人前に曝すことになれば、気分が悪いに違いありません。公衆は良い意味で興味深く見守っていますが、本人にしてみれば、イバラの茣蓙の上に座らされているような気持ちでしょう。
でも、マリちゃんに行なった方法やそれに付随するマッサージは、きっとマリちゃんの体を楽にしてくれるものと思います。
問題はきっと、日頃からこうすれば楽になるだろうことを信じているから、マリちゃんにしているのだということや、人前でバンデージを巻くことになること、つまり、こうした状況になることを、飼い主さんがあらかじめマリちゃんによく言い含め、理解してもらおうとしてきたか、ということではないかと思います。
飼い主の真摯な愛情は、犬にはちゃんと伝わります。たとえ犬にとってあまりうれしくない状況でも、犬は我慢して受け入れます。でも何かにつけ、意思を十分に伝えておいたほうがいいと、私は思います。犬が長い文章や言葉を理解するという次元の話ではなく、意思は伝わるのだと思っています、確実に。
犬には感情がないとか、犬はものごとを考えないなどと言われていた時代はとうに過ぎました。盲導犬の「利口な不服従」が示す通り、犬自ら判断できる思考回路を持っているのです。
マリちゃんの一件は感情がイメージ化されることも改めて体感するものとなり、ふっとまたJ.アレン・ブーン氏が著した『動物はすべてを知っている』が読みたくなったのでした。