白浅がぐっすりと眠って 目覚めると
すでに夜華はいなかった。
白浅は 少しがっかりする・・・
(でも なんでなのかわからないのが白浅)
初めて 墨淵の夢を見た。夢は 自分が
遥光上神に拉致された時の事だった。
水牢から救われて 初めて墨淵が武神であることを
自分の中で認めた あの事件のこと・・・
夢では 遥光上神との決闘から 墨淵が帰ってこない。
兄弟子が もうすぐ帰ると言う言葉を
もうすぐ、もうすぐ と信じる自分の夢・・・
白浅は すぐに 炎華洞へ向かう
師父・・・七万年もの間 開けることのなかった目
筋の通った鼻、きつく閉ざされた唇
自分は あまりにも若く、無知だっために、
この 俊美な顔を女っぽいと思ってしまった。
(中略)
七万年間 一度も彼の笑った顔を見る事もできず、
振り返ると 彼が崑崙虚の裏山 桃花林の中に立ち
桃の花が 空を舞う情景が思い出されるだけ・・・
・・・白浅は墨淵の手をとって温め、
野の花を摘んできて 術で花瓶を出し、墨淵の横に
安置する。
もう少ししたら クチナシの季節だ、細い柳の枝に
クチナシの花を編み込んですだれを作って入口に掛ければ
墨淵も少しは気持ちよく眠る事ができるだろう。
跪いて礼をし、もう一度、丁寧に
炎華洞の隅から隅まで確認して急ぎ 山を下りた。
空には満月が顔を出し、山間の木々に影が映る・・・
山間の湖を思い出して、血で汚れた体は
拭き取ってもらったに違いないが 少し気持ち悪い
沐浴をしよう・・・と 湖に向かった。
・・・外套をぬいで 傷を仙障で覆いゆっくりと
水につかる。雪解けの水は冷たい。
胸あたりまで入ったところで 衣服が体に張り付くので
脱ごうか・・と考えていた時
いきなり「白浅!!」という怒鳴り声が・・・
驚きのあまり 身体の均衡を失って
頭まで水に浸かるところだったが 夜華が仙障もかけずに
いきなり飛び込んで、抱き留められた。
きつく抱きしめられ、胸の傷に触って吐きそうになる。
ただ夜華の激しい胸の鼓動が伝わる。そうして
いきなり口を塞がれた・・・
白浅は 残りの衣服を脱がなくて良かった~~と考えてます
夜華の口づけは激しく、しかしその感覚が懐かしいような
白浅のどこか 潜在意識を刺激する。
意識の中で、優しく唇を噛み、夜華が言う
「浅浅 目を瞑って」・・・
その意識の衝撃にはっと我に返った白浅。
夜華を押しのける。
彼は深々と白浅の肩に顔を埋めてかすれた低い声で
「湖に 身を投げるつもりだと思った。」
白浅は あまりの飛躍した夜華の考えに可笑しくなって
「私は ただ沐浴をしていただけ」と答える。
夜華はさらに白浅を強く抱きしめ、ぴったりと首に
唇をつけ、重々しい声で ゆっくりと言った。
「もう二度と貴女に・・・」
白浅はこの雰囲気を気まずく思い、夜華の名を呼ぶも
答えない。
「貴方は書斎で書類を見ていたじゃないの。
どうしてこんな所まで?」
彼の息遣いは ようやく収まって、さらに暫くのち
「迷谷が ご飯を届けた時、貴女がいないのを見て
私に報告してきたので、適当に辺りを探してみた」
鬱々と言う。
白浅は夜華の背中を トントンと叩いて
「あぁ、確かに夕食の時刻ですね。それじゃ私たちも
戻りましょう」
夜華は答えず ゆるく白浅を抱いたまま
何を考えているのかもわからない
白浅は刺激してはいけないと考えて
されるがままにした。
・・・湖の中の 夜華のあのキスは 私を
少しぼんやりさせてしまった。身体の深く何処かで
突然何かが踊りだしたような気がした。
それは激しく踊るが、しかし姿も影もなく、
捕まえることもできず、ただ一瞬だけで過ぎ去って
それ以上深く考える事もなかった。
ただ 心の中で 深く溜息をひとつした・・・
夜華が 押して押して、白浅の潜在意識の掛け金を
揺さぶり、掛け金は外れました・・多分・・
でも それを絶対に認めない白浅の強情。
彼女は 本当に強情で頑固なのでした・・・