白浅が目を取り返すところは、ドラマと原作では
ほぼ変わらない。
この物語のハイライトシーンの一つでしょう。
辛かった素素時代の貸し借りを
白浅が きっちり精算するところ。ただ ドラマのような
裁判シーンはありません。
折顔に目を渡す。折顔は なぜ三百年もたって
白浅の目が戻ったのかと驚愕するが
白浅は 理由を明かすことはしなかった。
折顔は 目を浄化してからでないと 戻せない
と言い、白浅は 酒をたくさんもらって
青丘に戻った。
そして 飲んで飲んで 飲みまくるのです。
朦朧とする頭で 迷谷が報告する事を聞き流していたが、
二つのことだけは 記憶に留まった。
一つは 素錦が どんな刺激を受けたかわからないが
突然悟り、自ら天族の仙籍を離脱して若水の浜に赴き
修行を積みながら東皇鐘を守りたいと
天君に申し出たこと。
天君は その善意を認め、彼女の希望を受け入れた。
もう一つは、劫を受ける為に人間界に行った太子の夜華は
忘川水を飲んで 何も覚えていないはずなのに
奇妙な運命を信じ、一生をかけて青丘仙郷を追い求め
宰相にまで登りつめたものの、結局は独身を貫き
傷心によって 二十七歳という若さで病死した。
遺体を荼毘にふし、その灰を 肌身離さず持っていた数珠と
合葬するよう 遺言したという。
その話しを聞いて涙を流したのだろうか?飲み過ぎで
頭が回らず、何に対して涙を流したのか どうなのかも
わからずにいた。
何日たったかもわからずにいたが 迷谷が、太子殿下が
すでに七日間も 白浅に会うために谷口で待っているという。
迷谷は 忠実に白浅の言いつけを守って 誰も入れなかったが
太子殿下が動かずに待ち続けているので 白浅の意向を
聞くためにやってきた。
何日も回らなかった頭が ようやく動きだした。
あぁ・・夜華は人間界で 二十七歳で病死したのね
元の身分に戻るのは 当然のこと・・・
なぜかわからないが、胸が 急に
少しづつ強くなる痛みに襲われた・・・
白浅は胸を押さえ、テーブルの脚にしがみつき、
床に崩れ落ちた。
テーブルの脚によりかかって天井を見つめる。
急に 夜華に会いたくなった・・・
三百年前、素錦が彼を裏切って天君に嫁いだために
彼が深く傷ついて、その衝動で素素と結婚したというのが
真実なのか 尋ねたかった。
彼は本当に私を愛していたのだろうか?
天宮で私を冷遇した三年間、それは私のためを思っての事
だったというのだろうか?私を愛すると同時に
素錦の事も愛していたのだろうか?
もし愛していたなら どれほど深く愛していたのだろうか?
私が騙されて誅仙台を飛び降りていなかったら、彼は
素錦を心から想って娶っていたのだろうか?
私に対する 今の深い愛情が 三百年前の後悔に
起因してはいないだろうか?
白浅は 考えるとそれ以上考えたくなくなった。涙が滂沱と
流れた。
もし 彼が そうだ と言ったら?だとしたら
私は どうすればいい???
自分は自らの手で彼を殺してしまうかどうか、
わからなかった・・・
白浅の心は ますます頑なになる・・・
しかし 自分ではわかっていた。心の中のわだかまりが
溶けないために、どんな顔で彼に会ったらよいか
が判らないだけなのだ。
気を揉んで太子殿下の様子や伝言を語る迷谷に八つ当たり
した。
更に三日、四日、五日と日が過ぎた。
そのころには 酒をあまり飲まなくなった。
飲むほどに意識がはっきりし、意識がはっきりすると
気持ちが落ち込み、気持ちが落ち込むと眠れないのだった。
一晩中 雨が降り続いた朝、五百年前に封印を施した
東皇鐘に大きな波動を感じ、白浅は ハッとする。
胸が 早鐘を打つ。鬼君ケイソウが一段と力を増し、
東皇鐘を破って外に出ようとしているのだろう。
白浅は急いで顔を洗い、迷谷には 十里桃林の折顔に
協力の伝言を頼んだ。