鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

波龍図小柄 政随 Masayuki Kozuka

2015-06-22 | 鍔の歴史
波龍図小柄 政随


波龍図小柄 政随

 明らかに擦り剥がしを画中に採り入れた作。叢に石目地を加えた雲。波と雲を掻き分けるように現れた龍神を高彫金色絵とし、その所々を擦り剥がしている。下地は色合い古風な朧銀地。金の色絵が薄手であるが故、自然に手ずれが起きたとも考えられるが、龍の首辺りにある火炎が高彫でありながら擦れておらず、それよりも低い位置にある雲が擦り減っている。もちろん擦り剥がしによる雲の表現であり、ぼかしの効果が活き、その中から突き出した爪の表現が素晴らしい。角、眉などの要所も擦り剥がしで立体感を出している。龍神の表情も鏨が深く切り込まれて活力がある。裏面の処理も面白い。鑢を施して金色絵を加え、これを叢に擦り剥がして雲を表現しているのであろう。これらのように、擦り剥がしはぼかしの手法としても利用されている。金工におけるぼかしはとにかく難しい描法だと思う。布目象嵌や擦り付け象嵌を駆使した作もあるように、金工の工夫の痕跡が窺える。