酔漢のくだまき

半落語的エッセイ未満。
難しい事は抜き。
単に「くだまき」なのでございます。

祖父・海軍そして大和 奮戦スレド徒死スルナカレ 七日 戦闘三 

2010-05-26 14:43:18 | 大和を語る
オモーーカーージィーー」
「イッパーーーイ」
「イソゲ」
「モドセ」
「トリカジ  ニテ」
「トーーーリィーーカーーージ」
「イッパーーーイ」
「ヨウソローーー」
「カジ  チュウーーオオーー」
「イソゲ」
「シズカニ」

大和は左に右に舵をいっぱいにとりながら懸命の回避運動。有賀艦長が第一艦橋の茂木航海長に下す「面舵」「取舵」の号令が、伝声管も割れよとばかり響きわたる。
(能村次郎 大和副長 手記より抜粋)

戦闘中に急激な転舵を行ったとき、舵取機操舵通信器が示す普通時の電流は二百十から三百アンペアだが、瞬間最高電流時には四百五十から六百五十アンペアに達する。
だが、舵取機操舵通信器には異常が認められなかった。
(原勝洋氏著「真相・戦艦大和ノ最期」170頁より抜粋)

大和は必死に回避運動を続けます。最大戦速での回避運動です。凄まじいエネルギーを放出しながら敵機と合間見える大和です。
前回、大和の被弾を語りました。
戦後整理されました「軍艦大和戦闘詳報」にはこの記述がございます。
「十二時四十分、百度に左一斉回頭、九十度方向よりSBニC数機急降下に入る。一機撃墜。十二時四十一分単独面舵。最大戦速。後檣付近に中型爆弾二発命中。後部射撃所、二番副砲、十三号電探破壊」
この詳細は米軍記録と一致しております。

ここで、大和が不可解な転舵をしております。この詳報によります「単独面舵」です。
海軍には数々のマニュアル書がございます。その一つに「雷爆撃回避運動法」なるものがあります。要約してお話いたしますれば「敵機の進行方向に対して、真横を向き、急速回頭中の最中が最も有利」と言うものです。(正確には、「海軍省極秘第三五九号ノ八」と申します)ところが、この最初の一撃は戦艦が最も避けなければならない状況で被弾しております。艦首尾線上の攻撃は命中率が最大です。本来ならば絶対避けなければならない被弾です。これはエラーだったのでしょうか。
ベニントンのコンラッド中佐の行動には、そこをピンポイントで狙った(急降下爆撃ですから艦の艦首尾線上での攻撃は理想とするところではありますが)といった証言はなさそうです。前回、記載しておりませんでしたが、「戦闘詳報」記述にありますように「一機撃墜」とあります。これは同小隊に所属しております「ジャック・フラー」少尉の機であったと、米軍記録にはございます。コンラッド自身の機も燃料パイプが破損しております。一刻の猶予も許されない状況です。コンラッド中佐にしてみれば、「偶然最も優位なポジションに自身の機があった」としております。この被弾の直前の回頭が偶然を作り出し、大和の致命傷を彼等に与えてしまったのです。これは、誰も責めることはできない(指示を出した有賀艦長、操舵した茂木航海長)状況だったと考えます。
後部への二発の被弾を前回から引き続き語っております。何故、酔漢が時間を掛けているのかと申しますと「この被弾が大和爆発の直接的誘引になった」と推察するからです。

居住区は右舷後部にある罐室の上、機銃か高角砲の弾薬揚弾筒から火が吹いてきた。上から下からか分からないが、ボカンボカンと火を吹いて爆発した。左舷の副砲塔に砲弾を上げる揚弾機からも火が噴出した。鉄板を閉めに行ったら、バーと炎にやられて服がバラバラになった。(丸野正八 二主曹 大和主計科 証言より抜粋)

第一弾命中、火薬庫火災。副砲に爆弾が当たり、一番弱い副砲塔のアーマーを貫いて火薬庫に入った。命令は火薬庫に救援に行け、どこが火元か確認できない。火災は沈むまで消えなかった(井高芳雄 一曹 大和運用科八班応急班長 証言より抜粋)

能村副長はその第一報を知った際「火災は微小」と判断しておられます。がそうではなかったのでした。甚大なる被害を大和に与えた一撃だったのでした。

「おい、今一機が堕ちなかったか?誰の機だ!」
「分からん!対空砲が激しくなりやがった」
「さっきからチャーリー(チャーリー・ウィリアムズ少尉)と連絡が取れないんだ!」
「さっきパラシュートが堕ちたが、奴か!」
コンラッドはブリーフィングの事を思い出しておりました。
「コンディションはオールグリーン」
「誰だ。まったく嘘つきやがって。艦に帰ったら真っ先にぶん殴ってやる!キメタ!」
悪天候での艦上爆撃です。しかも烈火のごとくの対空砲をかいくぐらなければなりません。
彼は残り少ない燃料を気にしながら、各隊に命令します。
「周りのクルーザーの対空砲も黙らせるんだ」
一緒に来ていたベニントンのヘルダイバー6機に下令します。
「西にいる小さいのがうるさい!黙らせるんだ!」
6機は「霞」に向いました。
半分に分かれます。3機は「霞」へ残りの3機は「東の奴」(この段階では艦名を特定できませんが、おそらく「磯風」ではないかとこの時間の艦隊隊形の様子から推察しました)
へと向いました。「霞」へは至近弾。水柱が艦橋より更に高く上がるのが機から見えました。
「お前等、徹甲弾積んでないのか!」
「通常弾です!」
「バカヤロー威張って言う奴がいるか!」
出撃が慌しかったので、搭載爆弾をチェックする時間がなかったのでした。
「殴ってやりたい奴がもう一人増えやがった」
コンラッドは射程外におります。
「眺めだけは最高だ」
帰艦の準備を始める時間になっておりました。

「やっぱり、あのクルーザー野朗は逃げているのか?その割りには対空砲をぶっ放したまんまだぜ!」
独自で機を操っている海兵隊機です。「俺は何時だってこいつ(愛機)と一緒なのさ」と言って憚らないケネス・ハンティングトン中尉なのでした。その愛機は数々の戦場を生きながらえた「コルセア」(自身の仕様)なのでした。
輪形陣より離脱するような航行を続けている「矢矧」をターゲットにいたします。

実際には日本部隊を消しにスイッチを入れたわけではなかったが、色付きの対空砲火の中を突進して爆弾を前部砲塔に命中させ、これを沈黙させた。海兵隊員一名。爆弾一発。海軍十字勲章一個。
(海兵隊公式記録抜粋記事 ラッセル・スパー氏著「戦艦大和の運命」より)
ベニントン隊の他の機は、駆逐艦への攻撃を烈にいたします。
ヘルキャット一機(パイロット名不明)は駆逐艦(艦名不明)の後部(艦橋よりやや後方)に一発命中としている記事があります。

「バカヤローー。何で落ちねぇんだ!ジャップに折角プレゼントを届けに来てやったのに、これじゃ役にたたねぇじゃねぇか」
「矢矧」の対空砲をかわして爆撃針路に入ったのに、爆撃スイッチの故障で爆弾が落ちなかったエリック・ヘルゼ少尉のコルセアです。
「260マイルも運んだんだぜ。今さら持ち帰らせる気かよ!」
「チキヨー。落ちろ!」
スイッチをやたら動かします。そしてようやく落下。至近弾にはなりますが、二発とも不発。
「何てぇコッタ!機銃をぶっぱなす余裕なんかないんだゼ。まったく何しに来たんだ俺は」
この頃、やや遅れて発艦したホーネットの戦闘機隊が合流します。
「爆撃隊はお役終了・・と。戦闘機が来やがった」
それまでホーネットのヘルキャット16機は、ベニントン隊の艦爆が終わるのを雲間から旋廻しながらターゲットを選択していたのでした。
ビーブ少佐機を隊長機とする部隊は、降下に入りました。
急降下で艦に近づくと、機銃掃射を行います。そして急上昇。対空砲を撃つ機銃員の姿が見えます。「彼等に当たるのか」多分当たっている弾もあるはずなのでした。ですが、生身の人間を見るとやはり引き金を引く手にためらいが出来ることを彼は知っていたのでした。
そう思うとき、彼は艦全体を見るようにしました。
「機銃で船が沈むとは思えない」しかし、ガッツはふつふつと腹の底から沸いて来る。そう感じるのでした。
「おい例の奴をお見舞いしてやろうぜ!」
「あの、『真上に行くと危ない奴』に。(月型駆逐艦です)射程が遠いんだ、奴等には最適なプレゼントに違い無い」
最近登場したばかりの航空用ロケット弾です。ですが、信頼性が今一つ。高度1000フィートから発射します。
「どうだ?」
「命中です!・・・あっつ!」
「なんだ?」
「二発命中。どれも不発です」
「『真上に行くとあぶない奴』はどうだ?」
「そのまま、航行を続けてます」

「雷撃がまだだ。雷撃は行われるのか」
能村副長は任務を捨てて計器盤ではなく、自身の目で被害状況を確認したくなるのでした。
「さっきの火災は本当に布切れだけで済んでいるのか。否そうではない」
火災を示すランプは消えず、ブザーはまだ鳴り響いて止まないのでした。
そんな事を考えている時、まさに。
「ぐぁぁぁぁーーーん」と艦全体を揺るがすような衝撃とともに、体がもう一方に飛ばされました。
「雷撃が始まった。そして命中した。どこだ!」

突如、ズシーンと鈍い衝撃音、直撃弾よりさらに音は低いが、艦の震動ははるかに激しい。左舷前部に魚雷一本、初の命中、水防区画を貫き船艙倉庫へ穴をあける、浸水。
(能村次郎 大和副長 手記より抜粋)

1240。雷撃機が大和に取り掛かっております。(「軍艦大和戦闘詳報」には、「十二時四十三分、左七十度七千米に雷撃機五機向首す。単独右に回避す。左九十度千米に雷跡三を認める」と記述されております)
これはホーネットから発艦したアベンチャーの役目でした。第17雷撃機中隊14機。海面から500フィートの高度から魚雷を投下いたします。大和の左舷方向。8機が挑みました。
「弾丸が飛んでくるのが見える」
「爆撃隊が奴等の対空砲を眠らせたんじゃなかったのか」
「嘘っぱちだ!弾がグルグル廻りながら飛んでくるんだ」
激しい対空砲はまだ続いております。
8機の内6機に被弾。リー・オブライエン少尉の機が被弾後、海面に直撃。脱出する間もありませんでした。被弾しながら彼等は勇猛果敢にも魚雷を投下します。
「全弾命中!」と彼等は報告しております。ですが、大和への被弾は一発のみ。
ただし、数多くの魚雷が大和目掛けて水中を走っているのでした。

爆撃機がこうして攻撃している間にも、雷撃機はやや離れて大和から七、八百メートルくらいのところから魚雷を投下するや、ゆうゆうと飛び去っていく。それはまさに、にわとりが卵を産み落とすごとくであった。それが寸時を経過すると、たいまち大和へ向って、水面に白い線をひいたように、あるいは幅五○から六○センチもあろうか、まっ白の布をひいたように、ツーツーツーと迫ってくる。その雷跡も一本や二本ではないのだ。ことなった方角から同時に五本も一○本も、つき進んでくるのだ。
(小林健 大和水長 大和主砲射撃指揮所より 手記より抜粋)

第二艦隊各艦とも、この雷撃には面くらいます。あきらかにレイテの時より進化していたのでした。
防空指揮所、有賀艦長伝令、「川畑光三ニ 兵曹」の証言によりますと。
「最初は何を落としているのか分からなかった。何せ距離がありすぎる。しかし、その投下されたところから雷跡が確認された」とお話されておられます。
原勝洋氏によれば、アメリカは高高度投下可能な魚雷の開発に成功し、それを実戦で投入した。と論じておられます。
現場はかなり混乱したのでした。
そして、魚雷が次々に命中しだします。

前部揚錨機室付近に魚雷命中を初めに喰らった。前部管制室、爆弾命中、上甲板では火災で濛々としていた。(大和運用科 小阪勝男さん証言手記より抜粋)

「おい、デカイ奴が吹流しを撃ち始めたゼ」
「どこかで火山でも爆発しか」
「いや、俺達歓迎の花火だぜ」
「どこが歓迎なんだ、あの花火に要注意だ。花火に触れたら俺達の明日はなくなるんだ。射程外に機首を向けろ!」

第一波攻撃が終了しようとする頃。大和は主砲を発射いたします。
そして、矢矧をはじめとする第二水雷戦隊もこの第一波で大きな被害を受けます。しかし、やはり「真上に行くと危ない奴」はやはり危険な艦だったのでした。

長い語りになりました。この間に双方多くの生命が失われております。
ですが、時間にいたしますとほんの十数分間の出来事であったと気付きます。

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2 コメント

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久しぶりに楽天とベガルタが同じ日に勝ちました・・・ (クロンシュタット)
2010-05-27 05:47:16
最大戦速での回避運動。
復元力の大きい軍艦ではありますが、その傾斜角度は人間の生理としては「倒れる!」でしょうね。
そんな中での対空射撃ですから、よく当てることが出来るものです。

主計科を初めとした兵科や機関科以外の乗員が消火班となります。
でも火薬庫弾薬庫の消火に行けって言われても、そりゃ辛いですよね。
会社勤めで「事務屋」が長くなってしまった私には、「現場」の緊急事態への出動が億劫になってしまいました・・・

ヘンダーソン飛行場への艦砲射撃に対しては、米軍側が「1個師団並み」の砲撃力だったと言っていたような・・・すみません私もあやふやです。
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三式弾 (丹治)
2010-05-27 18:38:48
三式弾といえば、
第三戦隊の金剛と榛名がガダルカナル島のヘンダーソン飛行場に艦砲射撃を行なった時にも使用されましたね。
米軍の証言では「飛行場が一面火の海になり」、
陸軍は「野砲○門の威力に優る」と感激したとか
(門数失念、しかし半端な数ではなかったと思います)。

三式弾の対空射撃を見た米軍パイロットも
「あれは本当に恐ろしかった」と証言しているそうです。

アメリカは昭和十八年にTV信管を実践に投入しました。
12.7センチ以上の対空砲弾に装備された小型レーダーです(極秘中の極秘で、英国にも秘密にしていました)。
これだと砲弾が目標に命中しなくても、相手を撃墜することができます。

この信管を作るためには
とんでもない遠心力に耐えるほど頑丈で、
量産可能なまでに簡単な構造で、
砲弾に搭載可能な小型の真空管が要求されますね。
確かに当時の日本にはこような真空管を作ることはできませんでした。

阿川弘之さんの『軍艦長門の生涯』でも
「アメリカが信管そのものの革命を目指したのに対して、三式弾はいささか打上げ花火的発想」とのコメントがあります。
また三式弾で撃墜した敵機の少なさを云々する評論家もいます。

しかし対空射撃のそもそもの目的は何でしょうか(撃墜できれば言うことなしですが)。
それは敵機の前方を狙って打ち、
爆撃針路や雷撃針路を狂わせて敵の魚雷や爆弾を回避することだと思います。

「あの花火に近づくと俺たちの明日はない」。
米軍パイロットをしてそう言わしめ、射程外に対比させた・・・
だとすれば三式弾はやはり有効な兵器だったと思います。

ところで酔漢さん、
二つ前のお話にあったミッチャーの「く・だ・ら・ん」ですが、
原語は何ですか。
"Nuts!"
で正解でしょうか。
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