愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

【新刊紹介】曽我正堂著『ふる郷もの語』

2011年05月12日 | 民俗その他
「すごい本が世に出た。」手に取ったそう思った。曽我鍛さんの書いた文章をまとめた本が先月出版された。民俗学に関わる者として一読してみて、この本に書かれている話はもう聞き取りはできない。数十年前にタイムトリップした気分になった。正直、私が以前執筆した『民俗の知恵-愛媛八幡浜民俗誌-』が吹き飛ぶほどの内容の濃い八幡浜・西宇和の庶民生活史の記録だと思った。

書名は、曽我正堂著『ふる郷もの語』(曽我健編集・発行、平成23年4月15日刊)。

曽我鍛(正堂)が戦前に新聞に寄稿した文章を一冊の本にまとめたもので、明治時代から昭和にかけての八幡浜、西宇和地方の人々の生活の歴史を克明に記録・紹介している。

「ふる郷もの語」は編者の曽我健氏の祖父曽我鍛が、昭和11年から16年にかけて「愛媛日曜新聞」に掲載したものである。愛媛日曜新聞はあまり現存していない新聞で、愛媛県立図書館所蔵の新聞目録にも入っていない。現在ではなかなか閲覧することができない新聞に寄稿された貴重な文章が復刻・出版されたことは、八幡浜地方の歴史に興味のある者にとっては非常にありがたいことである。

曽我鍛(正堂)については、このブログでも以前紹介したが、八幡浜・西宇和をはじめ戦前愛媛の文化界で総合プロデューサーのような役割を果たした人物である。伊予史談会の雑誌『伊予史談』の編集に携わり、『松山叢談』『宇和旧記』の活字化・出版などプロデューサーとしての業績だけでなく、『双岩村誌』の執筆・編纂や『郷土伊予と伊予人』の著作など、多くの文章を書き残している。しかし、その当時書かれた文章がすべて出版化されていたわけではなく、今回のように新聞連載で書いたものはこれまで目にする機会がなかった。

「ふる郷もの語」は全部で187編の長期連載で、それが今回、活字化された。内容について簡略に紹介しておきたい。その目次から一部を抽出すると次のようになる。

<年中行事に関すること>
歳末風景
お日待ち
元旦
旧正月
思い出の雑煮
雛の節句
菖蒲の節句
虫送り
七夕さま
盂蘭盆会
燈籠あげ
おもうし
いの子

<社会生活・信仰・芸能に関すること>
若衆組
若衆宿
共同浴場
穴井芝居(歌舞伎)
山田薬師
兎狩り
はぜ採り唄
やき米
番茶
醤油

<口頭伝承に関すること>
猿の婿入り
狸の話
癩姫塚
保の木
方言の思い出
矯正すべき詞
一、二、三人称

<衣食住・生活の変遷に関すること>
おはぐろ
パッチと脚絆
筒っぽ筒袴
帽子のない時代
被りものの変遷
手織り木綿の話
木綿織の話
生活の革命
台所改善の必要
公会堂
アイスケーキ
贅沢になった食物

<地元の歴史に関すること>
左氏珠山
旧庄屋無役地事件を解剖す
最初の兵隊さん
寺子屋の話
飯野山城

これらは本書の目次からごく一部を拾ったものである。また、この「ふる郷もの語」に加えて本書には戦後に愛媛タイムスに掲載された「今昔習俗談義」、「双岩村分裂記」、そして雑誌『四国公論』に掲載された「三友興亡記(続ふる郷もの語)」も活字化され本書に収録されている。

本書は非売品であるが、八幡浜近隣の図書館に寄贈されており閲覧することができる。(八幡浜市民図書館や愛媛県歴史文化博物館図書室など)

明治時代から昭和初期にかけての愛媛の民俗を記録した貴重な本書を一人でも多くの人に閲覧してもらって、読んでほしいと思う。




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