愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

節分の飾り物

2001年02月08日 | 八幡浜民俗誌
節分の飾り物

 節分になると、各家の門口に様々な飾り物を付ける。八幡浜地方で一般的なものとしては、一〇センチ程に短く切ったタラの木に、鰯の頭とトベラをはさむというものである。タラの木は樹皮一面に棘のある木で、鰯の頭は悪臭がするものである。その棘や悪臭をもって鬼を退散させようとするのである。トベラは常緑小高木の一種で、その葉幹根に悪臭があり、燻すとさらにきつくなる。『和漢三才図会』にはトベラを「門扉に挿せば能く疫鬼を辟く」とあり、一般には鰯の頭と同様、においをもって鬼を退散させるものと言われている。
 ところが、八幡浜地方ではこのトベラのことをバリバリシバとかパリパリシバと呼んでいる。かつては、かまどで節分の豆まき用の大豆を炒る時には、焚き付けにバリバリシバを用いていたが、それを焼く際にバリバリという音がすることからこの名称が付いたのだろう。トベラの地方名称に、その特徴であるにおいのきつさではなく、バリバリという擬音を採用しているのは、この音によって鬼を退散させようとしたからであろう。
 なお、バリバリシバが魔除けの植物として使われている例は他にもある。毎年四月第三土、日曜日に行われる川名津の柱松神事の中で神楽が奉納されるが、祭りの主役でもある四二歳の厄年の男連中が、神楽を脇で見物しながらも、ダイバン(鬼)が登場するとバリバリシバを手に持って、鬼を叩こうとする場面がある。これも一種の鬼退散の儀礼といえよう。また、北宇和郡三間町音地では、バリバリシバのことを別名イイムギシバともいい、これを畑に挿すと豊作となるといわれる。五穀豊穣祈願としてとらえられているが、これも、もとは畑にいる魔を祓う意味で用いられていたものの、魔祓いの意味が意識されなくなり、単に五穀豊穣祈願へと変化したと思われる。
 さて、一八世紀後半の宇和島藩内の年中行事を詳細に記述している桜田某の随筆によると、「除夜 鰯の頭をタラノキにさしトベラノキを取合せ門戸に飾り、又大豆を煎りて暮に至るを相図にあき方へ向ひ福は内福は内と唱へながら煎豆を投げ、それよりあき方を後にして鬼は外鬼は外と二口唱へながら豆を投げ、又あき方へ向ひ福は内と一口唱へ其拍子に豆を投げる事今も昔と変ることなし」とある。旧暦では節分は正月元旦の前後であり、かつては除夜(大晦日)の行事と交錯していたことは以前にも紹介したが、いずれにせよ、節分の飾り物や行事内容は江戸時代からさほど変わることはなかった。しかし近年は、全国的に節分行事が「鬼は外、福は内」と言いながら豆をまくだけの内容となり、地方独特の行事内容が廃れつつある。八幡浜のバリバリシバに関する風習も次世代に引き継がれるのかどうか疑問である。

2001/02/08 南海日日新聞掲載

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