今後三〇年以内に七〇~八〇%程度の確率で発生が想定されている南海トラフ巨大地震により、揺れによる建物の倒壊や津波による浸水によって甚大な被害が想定されている愛媛県南予地方の宇和海沿岸部。そこに位置する愛媛県宇和島市吉田町北小路の愛媛県立吉田高等学校(津波の浸水想定高は六.〇m)では二〇二三年度に愛媛県の防災教育実践モデル事業や地域の課題解決プロジェクトの一環で、過去の災害を学んで防災に活かす学習を全校で取り組んできた。吉田高校からの依頼で筆者も防災学習の講師として加わり、災害史学習や防災ソングの作成に協力をしてきたところである。
初回は、七月六日に「過去の災害に学ぶ―吉田付近の地震・津波史―」の演題で普通科一、二年生を対象に座学の講演を実施し、一七〇七年に発生した宝永地震、一八五四年発生の安政南海地震と一九四六年に発生した昭和南海地震での吉田における避難や被害状況を解説した。この講演の中で吉田藩立間尻浦庄屋赤松家文書の「永代控」を取り上げ、安政南海地震時の吉田の住民の避難行動を取り上げたところ、古典の授業の中で、この「永代控」を生徒が読んで現代語訳をしようという取り組みにも繋がった。本稿は、この初回の講演、古典学習の参考となる基礎データとして作成した資料であり、高校の授業だけではなく広く周知するため、投稿したものである。
なお、二回目は八月二一日に生徒有志、教員とともに防災町歩きを実施し、「永代控」の記述を基に、安政南海地震時の住民避難の経路を実際に歩いてみた。その様子を愛媛新聞が取材して八月二四日付で以下のように記事掲載されたので紹介しておく。
「古文書の震災記録、巡って避難路確認 宇和島・吉田高生が防災学習 宇和島市吉田地域に伝わる古文書に記された南海トラフ地震の被害状況を基に、吉田高校(同市吉田町北小路)の生徒約一五人が地域を歩く防災学習が二一日、あった。生徒は身近な場所を襲った揺れや津波を教わりながら、高台避難の経路を確認した。県の防災教育実践モデル事業などの一環で、県歴史文化博物館専門学芸員の大本敬久さんが講師を務めた。古文書は、同市吉田町立間尻の江戸期の庄屋赤松家が保管する「永代控」。吉田藩へ村の出来事を報告するために作られ、一八五四年の安政南海地震の状況を記録している。永代控によると、地震発生後には引き波で船が沖で流出し、午後八時ごろに庄屋に一.八メートルほどの津波が来た。余震が続く中、住民は高台の寺などに避難し、帰宅できずしばらく小屋で生活していた。生徒は海沿いの住吉神社を出発し、赤松家では実際の永代控を目にした。記録に沿って当時の住民が避難した三カ所の寺を巡り、海抜一七メートルの大信寺では避難に備えた防災倉庫を確認した。大本さんは、津波は何度も押し寄せ、最大の海面上昇は数時間後だったと説明。吉田地域は津波が川を遡上してくる可能性が高いとして、できるだけ川沿いではない避難路を選ぶことが大切とアドバイスした。(後略)」
そして、この生徒有志と教員による防災町歩きの経験を活かして、一一月一六日に実施された遠足では、テーマを「過去の津波の経験」とし、八月の町歩き箇所に加え、安政南海地震時に吉田藩主が避難した立間地区の医王寺や、将来の南海トラフ地震で集落の中央部にまで津波浸水が想定されている喜佐方地区の高台にある八幡神社を訪問場所に加えて、遠足が実施された。
また、「永代控」の記述を基に、生徒が主体となって宇和島市吉田町の防災ソングを作る取り組みも同時並行で行われ、一一月二四日に地元の吉田愛児園で披露され、講師、助言役として筆者も参加した。作詞は一、二年生、振り付けは三年生が行い、作曲は音楽教員が主導して防災ソングは完成した。こちらも愛媛新聞が取材し一一月二九日に以下のような記事として掲載された。
「宇和島の吉田高生が防災SONG制作 園児に振り付け指導、津波避難の大切さ伝える 宇和島市吉田町北小路の吉田高校の生徒が、約一七〇年前に吉田地域で起きた大地震を記録した古文書を基に、津波避難の大切さを伝えるオリジナル曲「吉田防災SONG」を制作した。生徒は二四日、吉田愛児園(同市吉田町西小路)を訪れ、園児に歌詞や振り付けとともに命を守る行動を教えた。古文書は同市吉田町立間尻の庄屋赤松家に残る「永代控」。一八五四年の安政南海地震で地域に津波が押し寄せ、住民が避難した様子を記録している。生徒は古文書の口語訳やフィールドワークを通して当時の住民の行動を学び、作詞などに役立てた。歌詞には住民が山に逃げたことや、諦めずに努力し復興を遂げたことなどを盛り込み「登れ逃げよ吉田っ子 命をつなげ吉田っ子」と呼びかけている。振り付けは頭上での指さしや腕を振る動作で、走って高台避難する行動を表現した。同園で同校の二年生約二〇人は、園児と2人一組になり「波が来るから逃げるんよ」などと歌詞の意味や動きを教え、繰り返し踊って練習した。(後略)」
以上のように、残された過去の災害史料を高校生の防災学習に活かし、その成果が地元の園児にも伝わる防災ソングを創作し、地域の防災力を高める一助となった取り組みであり、今後の地域の歴史文化研究成果の発信、展開のモデルケースともいえる。別投稿で、吉田高校での防災学習で使用した資料も掲載しておきたい。
初回は、七月六日に「過去の災害に学ぶ―吉田付近の地震・津波史―」の演題で普通科一、二年生を対象に座学の講演を実施し、一七〇七年に発生した宝永地震、一八五四年発生の安政南海地震と一九四六年に発生した昭和南海地震での吉田における避難や被害状況を解説した。この講演の中で吉田藩立間尻浦庄屋赤松家文書の「永代控」を取り上げ、安政南海地震時の吉田の住民の避難行動を取り上げたところ、古典の授業の中で、この「永代控」を生徒が読んで現代語訳をしようという取り組みにも繋がった。本稿は、この初回の講演、古典学習の参考となる基礎データとして作成した資料であり、高校の授業だけではなく広く周知するため、投稿したものである。
なお、二回目は八月二一日に生徒有志、教員とともに防災町歩きを実施し、「永代控」の記述を基に、安政南海地震時の住民避難の経路を実際に歩いてみた。その様子を愛媛新聞が取材して八月二四日付で以下のように記事掲載されたので紹介しておく。
「古文書の震災記録、巡って避難路確認 宇和島・吉田高生が防災学習 宇和島市吉田地域に伝わる古文書に記された南海トラフ地震の被害状況を基に、吉田高校(同市吉田町北小路)の生徒約一五人が地域を歩く防災学習が二一日、あった。生徒は身近な場所を襲った揺れや津波を教わりながら、高台避難の経路を確認した。県の防災教育実践モデル事業などの一環で、県歴史文化博物館専門学芸員の大本敬久さんが講師を務めた。古文書は、同市吉田町立間尻の江戸期の庄屋赤松家が保管する「永代控」。吉田藩へ村の出来事を報告するために作られ、一八五四年の安政南海地震の状況を記録している。永代控によると、地震発生後には引き波で船が沖で流出し、午後八時ごろに庄屋に一.八メートルほどの津波が来た。余震が続く中、住民は高台の寺などに避難し、帰宅できずしばらく小屋で生活していた。生徒は海沿いの住吉神社を出発し、赤松家では実際の永代控を目にした。記録に沿って当時の住民が避難した三カ所の寺を巡り、海抜一七メートルの大信寺では避難に備えた防災倉庫を確認した。大本さんは、津波は何度も押し寄せ、最大の海面上昇は数時間後だったと説明。吉田地域は津波が川を遡上してくる可能性が高いとして、できるだけ川沿いではない避難路を選ぶことが大切とアドバイスした。(後略)」
そして、この生徒有志と教員による防災町歩きの経験を活かして、一一月一六日に実施された遠足では、テーマを「過去の津波の経験」とし、八月の町歩き箇所に加え、安政南海地震時に吉田藩主が避難した立間地区の医王寺や、将来の南海トラフ地震で集落の中央部にまで津波浸水が想定されている喜佐方地区の高台にある八幡神社を訪問場所に加えて、遠足が実施された。
また、「永代控」の記述を基に、生徒が主体となって宇和島市吉田町の防災ソングを作る取り組みも同時並行で行われ、一一月二四日に地元の吉田愛児園で披露され、講師、助言役として筆者も参加した。作詞は一、二年生、振り付けは三年生が行い、作曲は音楽教員が主導して防災ソングは完成した。こちらも愛媛新聞が取材し一一月二九日に以下のような記事として掲載された。
「宇和島の吉田高生が防災SONG制作 園児に振り付け指導、津波避難の大切さ伝える 宇和島市吉田町北小路の吉田高校の生徒が、約一七〇年前に吉田地域で起きた大地震を記録した古文書を基に、津波避難の大切さを伝えるオリジナル曲「吉田防災SONG」を制作した。生徒は二四日、吉田愛児園(同市吉田町西小路)を訪れ、園児に歌詞や振り付けとともに命を守る行動を教えた。古文書は同市吉田町立間尻の庄屋赤松家に残る「永代控」。一八五四年の安政南海地震で地域に津波が押し寄せ、住民が避難した様子を記録している。生徒は古文書の口語訳やフィールドワークを通して当時の住民の行動を学び、作詞などに役立てた。歌詞には住民が山に逃げたことや、諦めずに努力し復興を遂げたことなどを盛り込み「登れ逃げよ吉田っ子 命をつなげ吉田っ子」と呼びかけている。振り付けは頭上での指さしや腕を振る動作で、走って高台避難する行動を表現した。同園で同校の二年生約二〇人は、園児と2人一組になり「波が来るから逃げるんよ」などと歌詞の意味や動きを教え、繰り返し踊って練習した。(後略)」
以上のように、残された過去の災害史料を高校生の防災学習に活かし、その成果が地元の園児にも伝わる防災ソングを創作し、地域の防災力を高める一助となった取り組みであり、今後の地域の歴史文化研究成果の発信、展開のモデルケースともいえる。別投稿で、吉田高校での防災学習で使用した資料も掲載しておきたい。