先日の昼前のこと、駅前からのバスのアクセスが良くなく、北九州空港で2時間半も時間が空いた。時間つぶしのために、搭乗手続きを済ませてわたしは土産物店をくまなくのぞいて歩いていた。案内のアナウンスとBGMはうるさくても人影少なく静かな雰囲気だ。
そこでふぐ専門の店にふらふら立ち寄った。端の方にあり、あまり気にも留めなかったのだが、入り口でガラスの水槽で泳いでいるとらふぐを見つけた。わたしはジィーと吸い寄せられるようにそれを眺める。
30センチぐらいでグレイの体色のさまざまな大きさの黒く丸い斑点があり、目と鼻と口のある頭部がボックス状になっている。全体がぬめぬめした印象をあたえる。1匹は底の砂に体を3分の1程埋め、ほかの2匹は水槽の隅に口を付け泳いでいる。
その、少々アンバランスな体形と間の抜けた顔の表情に思わず、気持ちがほぐれて、暫時、時間を忘れた。こりゃあ、川柳の世界だな、わたしに絵心があればいいのになあと思いながら。
店の奥にいる、40歳中頃のおばさんにバツが悪く、‘いいですね、ふぐは’、
‘ふぐには、愛敬があるんですね’、‘わたしはたまに俳句を詠むんですよ’
などと相手の怪訝な口ぶりと対応に答える。
‘変なおじさんですが、もっと見ていていいですか’
‘どうぞ、どうぞ’
ふぐ(地元ではふくと言う)は値段が高いから買ってこなくていいよ、と家内から常日頃言い含められていたわたしは、そこで意を決し混ぜご飯用と醤油で味付けした燻製を買った。
それ以来、ひと月に数回出張で行くたびに、わたしはとらふぐを見ることになった。