うどんの研究 連載中
(45)粉学について
パスタとグラタン 1/4new
パスタは世界で人気のイタ
リア料理。レシピ本は数え
切れず、レンジで数分温め
ればおいしく食べられる冷
凍食品も目移りするほどだ。
ロングパスタをスパゲティ、
ショートパスタあるいは穴
開きなどをマカロニと呼ぶ。
これらの総称がパスタ(Pas
ta)。イタリア語で「練り粉、
めん」を意味する。ラーメン
やうどん、そうめんなど長
いものを、中国や日本でも
「めん」というが、細長い食
べ物を「めん」と名づける感
覚は洋の東西、どうも似て
いるらしい。
(次回に続く)
小麦粉はいつ日本に来たか
小麦は約1万年前にメソポ
タミア地方で見つかり、シ
ルクロードなどを経てアジ
アへ伝わった。日本におけ
る栽培は弥生時代とされる
が、粉食は奈良時代に中国
から入った唐菓子が最初ら
しい。当時は貴族階級や宗
教儀式など用途は限られて
いたが、水田裏作として広
がり、そうめん、うどん、
冷麦など郷土の食文化とし
て各地に定着していく。
(次回に続く)
天ぷらとケーキ 6/6
南蛮料理に起源を持つ 「天
ぷら」 も薄力粉で作るのが
最適である。霜柱を踏んだ
ときのようなサクサクした
衣も、「やわらかい粉」の食
感そのものと言ってよいだ
ろう。バッターを作りやす
いようにあらかじめ調整し
た「天ぷら粉」を使うと、よ
り簡単においしい天ぷらを
作ることができる。それに
しても、薄力粉は繊細であ
る。
(次回に続く)
天ぷらとケーキ 5/6
たんぱく質の量が少なく、
グルテンの質がソフトな薄
力粉は、ケーキや天ぷらに
向いている。もちろん良質
の薄力粉であることは欠か
せない。ケーキ作りで、大
切なのは、オーブンでよく
膨らみ、冷却後もあまり収
縮せず、キメ細かくソフト
な食感のケーキができる小
麦粉即ち薄力粉が求められ
る。
(次回に続く)
天ぷらとケーキ 4/6
反対に、バッターはグルテ
ンの少ない薄力粉を使う。
ケーキなどを焼くとき、ゆ
っくり水で溶く。また、油
脂やバターを加えるのだが、
これらもグルテン形成を抑
える働きがある。むろんケ
ーキを膨らませるにはある
程度のグルテンは必要なの
だが、もしケーキやカステ
ラ、マフィンなどに麺のよ
うな歯ごたえがあったら、
口や舌は戸惑うことだろう。
粉の性質、調理法、素材の
組み合わせにハーモニーを
発見した先人の知恵には、
改めて感心させられる。
(次回に続く)
天ぷらとケーキ 3/6
二つの生地の違いは、小麦
粉独特のたんぱく質グルテ
ンをどのくらい形成するか
によっている。パンや麺は、
グルテンをたくさん含む強
力粉や中力粉をしっかり練
り、粘弾性を引き出し、パ
ン生地を膨らませ、コシの
ある麺にする方がおいしく
なる。
(次回に続く)
天ぷらとケーキ 2/6
小麦の特徴は一度粉にして
食べることだ。調理は粉を
生地にするところから始ま
る。小麦粉にたいする水の
量により、水分が50%前後
なら「ドウ」、その数倍の量
で溶いたものを「バッター」
という。当然ながら、バッ
ターはトロリとし、流動性
は高い。
(次回に続く)
天ぷらとケーキ1/6
舌の先でとろける甘いケー
キ。薄力粉である。パン
やラーメンに向く強力粉、
主にうどんに使われる中
力粉と同じ小麦粉の仲間
であることを一瞬忘れて
しまいそうなやわらかさ
だ。小麦粉の魅力は、ま
さにこの多様性にあると
いってよいかもしれない。
(次回に続く)
そうめんと打ち粉 4/4
秘密は、食塩水と植物油に
ある。適度の塩分はグルテ
ンの形成を強め、粘りと弾
力性を一段と引き出す。麺
のコシはしっかりしてくる。
さらに、ゆでる時間を短く
し、食味・食感を高める役
目もする。また、生地に油
を塗って寝かせる、つまり、
じっとしておく(「熟成」と
いう)のだが、これによっ
て表面の乾燥を防ぎつつ、
職人によってあやがけされ
た長い棒の間で、どんどん
細長くなる。とくに寒さの
つのる冬季、天日干しで麺
は上質なものになっていく。
唐菓子から約1,300年、日本
麺は繊細さの極み、芸術品
の域へ達しようとしている
といっても過言ではあるま
い。
(次回に続く)
そうめんと打ち粉 3 /4
それにしても、そうめんは、
なぜあれだけ細くなるのだ
ろう。麺の太さ(直径)は、
日本農林規格( JAS規格 )
で定められている。それに
よると、そうめんは 1.3ミ
リ未満。これに対し、冷麦
は 1.3ミリ以上~1.7ミリ未
満、うどんは 1.7ミリ以上
である。そうめんの中には、
少し太めの糸のようなもの
もある。
(次回に続く)
そうめんと打ち粉 2/4
「日本麺 」は、粉に食塩水
を加えながらこねる。真水
を使うそば打ちとは、この
点が違う。そのルーツは、
奈良時代に中国から入った
小麦粉製の唐菓子といわれ
る。ねじったり、細長かっ
たり。やがて手延べに便利
な打ち粉の手法も伝わり、
麺はさらに細く、長くなっ
ていく。打ち粉は手がベト
つかず、麺をコーティング
する効果があり、麺打ちの
作業ははかどったに違いな
い。時代が下るにしたがい、
麺食は庶民へと広がってい
く。
(次回に続く)
そうめんと打ち粉 1/4
日本人と小麦粉のつながり
は?―こう問われたら、多
くの人はまず、「うどん」 「
冷麦 」「そうめん」といった
「 日本麺 」を思い浮かべる
だろう。いずれも中力粉を
使う。小麦粉独特のたんぱ
く質グルテンの含有量が多
い順に強力粉、中力粉、薄
力粉と 3 種類に分かれるう
ち、真ん中の粉である。国
産品種が中力粉をひく軟質
小麦だったことによる。
’(次回に続く)
農林10号が「緑の革命」
に一役
世界の人口は 2011 年10 月
31日、70億人に達した。食
糧問題の重要性はますます
高くなっているが、小麦の
増産に一役買ったのは1935
(昭和10)年に岩手農事試
験場で育った「農林10号」だ
った。背丈が低く、倒伏し
にくい性質をもつ。戦後、
アメリカをへてメキシコに
渡り、在来種との交雑で多
収量品種が生まれ、インド
、パキスタンなどの飢饉を
救った。「緑の革命」といわ
れる。人口爆発のなか、こ
うした品種改良の努力は一
層求められていくだろう。
(次回に続く)
パンとラーメン 5/5 new
一方、ラーメンも溶けやす
い果物などを別にすれば、
ほぼこれらと一緒に煮込ん
だり、炒めて堪能できる。
さまざまな香辛料も合う。
言い方を変えれば、小麦粉
はなんにでもマッチし、た
っぷり栄養のとれる、まこ
とに重宝な食べ物だという
ことである。
(次回に続く)
パンとラーメン 4/5
これに対し、中国大陸や朝
鮮半島から日本へ伝わって
きたと思われるラーメンは、
独特の歯ごたえが魅力であ
る。食塩やかん水を足し、
練るほどにメンの腰は強く
なっていく。これもグルテ
ンパワーの働きだ。汁そば、
焼きそばといろいろ楽しめ
る。長細いメンとかたまり
のパンでは見た目はまった
く違うのに、共通点もある
。パンもラーメンも、あわ
せて使われる具材はきわめ
て幅広い。パンは肉、卵、
野菜、あるいは果実さえは
さんで食べる。
(次回に続く)
パンとラーメン 3/5
パンは文明のシンボルとい
われる。財政不安でいま世
界の経済を揺るがすギリシ
ャに生まれた詩人ホメロス
(紀元前9~8世紀)は叙
情詩『オデュッセイア』で
、「パンを食らう人間ども」
という表現でパンと人類と
の深いつながりを示してい
る。水を加えて練り、イー
スト菌で仕込むと炭酸ガス
が発生し、生地(ドゥ)は
どんどん膨らむ。しかし、
破れない。焼きあがると、
中のスポンジ層から小麦の
香ばしい香りが立つ。グル
テンの粘弾性のおかげであ
る。
(次回に続く)
パンとラーメン 2/5
硬質小麦の中でも品種や土
壌、気候条件によってたん
ぱく質の量に差があり、高
温多湿のアジアでは育ちに
くいとされ、日本国内で食
べているのは、主にアメリ
カ、カナダ産である。食べ
方つまり調理法になると、
これほどかと思うほど東西
で違う。欧米など肉食民族
の西洋ではパン、中国・日
本など米食民族の東洋はラ
ーメンである。
(次回に続く)
パンとラーメン 1/5
含まれるグルテンの質と量
により、小麦粉にはおおむ
ね三つのタイプ(強力粉、
中力粉、薄力粉)があるこ
とを前回説明しました。こ
のうちグルテンの質と量も
一番なのが強力粉だ。強力
粉をひく種類は硬質小麦で
ある。その名のとおり粒は
内部が緻密で硬い。軟質小
麦よりたんぱく質の量を多
く含んでいることから、形
成されているグルテンの量
が多い。
(次回に続く)
小麦粉豆知識
コメ、小麦、トウモロコシ
は世界の3大穀物。2010年
で約23億トンあった世界の
穀物生産量(国連食糧農業
機関調べ)のうち、小麦は
ほぼ6億5,000万トンでトウ
モロコシ(8億3,000万トン
)に及ばないが、地球上ど
こでも食べられている。日
本は年に550万トンほど小
麦を輸入、国産の約60万ト
ンと合わせ、相当な“小麦
粉好き”の国民である。
(次回に続く)
プロフィール
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