翻訳 朴ワンソの「裸木」20<o:p></o:p>
P65~P67<o:p></o:p>
「そのままください」<o:p></o:p>
私は、受け取った焼き栗をオクヒドさんの染めた軍服のジャンパーのだぶだぶしたポケットに、詰め込んでむいて食べ始めた。<o:p></o:p>
「面白い所を知っているんです。見物して行きましょうよ」<o:p></o:p>
「遅くなりすぎたね。お母さんが家で待っていらっしゃるんじゃない?」<o:p></o:p>
「少しでいいんです」<o:p></o:p>
私はいつか見物した玩具の店のチンパンジーのことを考えていた。<o:p></o:p>
私は、その時彼の前で一人で笑いながら、面白いと言ったことは、今考えるとその時の涙によって自分が不憫に思えたからだった。<o:p></o:p>
私はウィスキーになじんで飲んでいたチンパンジーに私の幸福を自慢したかった。他人の家の軒端に陳列した玩具の店の主人は居眠りをしていた。チンパンジーは片手でウィスキー瓶を持ったまま、その漫画的な顔をまっすぐに上げて無聊をかこっていた。<o:p></o:p>
「小父さん、ぜんまいのねじをちょっとねじってください」<o:p></o:p>
私がチンパンジーを指し示しながら、社交的に話すと、驚いたように目を大きく開けた主人は別にうるさがりもせずに、チンパンジーの尻のぜんまいのねじをねじると、チンパンジーは全身をリズミカルに揺らしながら、ごくごくとウィスキー瓶からウィスキーを飲んだ。<o:p></o:p>
見物人が少しずつ集まって来た。私は、焼き栗をくちゃくちゃと噛みながら、心ゆくまで笑って、チンパンジーのリズムに拍子を合わせて肩を揺らした。<o:p></o:p>
ついにぜんまいのねじが解けながら、チンパンジーの動作は徐々に遅くなり、愉快な愛酒家の暴飲はゆっくり止んだ。<o:p></o:p>
見物人は一人去り二人去って行った。陽気な時間は瞬く間に過ぎたのだ。<o:p></o:p>
チンパンジーが人々に愛嬌をふりまくのを止めて、心細そうに立っていた。<o:p></o:p>
その孤独が胸にこみ上げてきた。人と動物から一緒に疎外された深い孤独と絶望。<o:p></o:p>
私はオクヒドさんを仰ぎ見た。彼は心うつろに、画筆を高く上げて灰色の幕を眺める時のような視線で、チンパンジーを見ていた。<o:p></o:p>
ふと私は彼もやはりチンパンジーの孤独に胸を痛めていると思った。そして私にも彼を助けられないことを。<o:p></o:p>
少し前の充足感が泡のように消えた。私は彼から無言で押し出されていた。チンパンジーとオクヒドと私…それぞれ自分なりの次元の異なる孤独を、互いに分かち合うことも、助け合うこともできない、自分だけの孤独に胸を痛めていることを私は痛切に感じた。<o:p></o:p>
私達はゲドンの入口まで歩いた。<o:p></o:p>
「もうここまで来ました。このまま帰ってください」<o:p></o:p>
「夜も遅いから家の前まで送ってあげるよ」<o:p></o:p>
「一人で行けます」<o:p></o:p>
私はその時まで突っ込んでいた彼のだぶだぶのポケットから手を引き抜いて、すばしっこく一人で路地に入ってもう一度曲がった。そして少し離れた所で一部が壊れた私の家の屋根をまっすぐに眺めながら突進するように駆けた。<o:p></o:p>
彼が自分だけの孤独を誰とも分かち合おうとしないように、私も誰にも助けを求められない私だけの事情があるのだ。<o:p></o:p>
長い路地を昨日と少しも変わらずに、恐怖と今はほとんど肉体的な痛みに変化してしまった痛みを、一人で耐えながら歩かねばならないことは、誰とも分かち合えない私だけの事情なのだ。<o:p></o:p>
夕食を食べて来たと言って、まっすぐ長方形の自分の部屋に入った私についてきた母はしばらくぼんやり座っていた。<o:p></o:p>
「戻って寝てよ」<o:p></o:p>
私は我慢しきれずにイライラした声できつく言い放った。<o:p></o:p>
「伯父さんは楽じゃなくて面倒だったんだよ」<o:p></o:p>
「それで?」<o:p></o:p>
「お前を釜山へ送れと…お前一人でも大学の勉強を終えてこそ本家の体面が立つと…まるで私がお前をこの家に捕まえていて放さないように、私を親として相応しくないと言う調子だったよ」<o:p></o:p>
母は、本当に久しぶりにかなり長い話を口ごもらないで、筋道を立てて語った。<o:p></o:p>
「お母さんはどうすればいいと思っているの?」<o:p></o:p>
「お前の好きなようにしなさい」<o:p></o:p>
「じゃ、お母ちゃんも一緒に行くの?」<o:p></o:p>
「どうして伯父さんはあんなに躍起になっているんだろう?」<o:p></o:p>
「それは私もそう思うよ」<o:p></o:p>
言うことは尽きたわけだ。しかし母は立ち上がらず、そのままぼんやり座っていた。私はパジャマに着替えて、わざと大きなあくびをした。<o:p></o:p>
「ああ眠い。明日早く起こしてね」<o:p></o:p>
「あのね。この母さんのために行けないなら、もう一度よく考えてみて」<o:p></o:p>
「そうだとしたら? もしそうだとしたら一緒に行ってくれるの?」<o:p></o:p>
母が嫌いでも母が住んでいく所に、いくらかでも気を配るつもりだったから、私が意地悪く母に問いただした。<o:p></o:p>
「お母さん、それでも私は行けない。私はここが気楽」<o:p></o:p>
そして私がもっと何か尋ねるんじゃないかとはばかるように、立ち上がって無言で出て行った。<o:p></o:p>
私も当然のことだけど釜山へ行くつもりはいささかもなかった。それは決して母のためではなかった。<o:p></o:p>
この広々とした古い家にたった2人だけで住みながらも、私達は愛情なのかどうか義務に縛られてはいなかった。むしろ私達は二人とも古い家の亡霊に取りつかれているのは明らかだった。私も結局誰かのためでもないまま、ここを離れることができないのだ。
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