翻訳 朴ワンソの「裸木」24<o:p></o:p>
P75~P77<o:p></o:p>
「どうするかはね。私達も踊って思う存分醜態をみせよう。他の人達と違うふりをするのは、お願いやめて。ね?」<o:p></o:p>
私は思うままに彼をリードして踊りの渦の中へ引っ張って行った。<o:p></o:p>
ダイアナの百合のような顔が私の周囲をぐるぐる回って消えた。<o:p></o:p>
私は思うままに揺れていろいろな人ともみ合いながら、ぬかるみの中で体をごろごろ動かしているような奇妙な快感に浸った。<o:p></o:p>
いつの間にか私は泰秀にリードされて、だんだん渦の中から押し出されて、彼の頑丈な腕に腰を捕られたまま、外に出る階段を上がってすっかり外へ押し出された。<o:p></o:p>
上気した頬に冷たい夜気が爽やかに触れてきた。<o:p></o:p>
入口に突っ立っている巡査とMPが目で上と下を調べるだけで、触れもしないで煩わしいように通過させてくれた。<o:p></o:p>
「今日はここまでフリーパスね。コーラの瓶でも1本ぶら下げて出ればよかったのに」<o:p></o:p>
彼は返事もせず、仏頂面で私の腰に腕を巻きつけたまま、突進するようにどたばた歩いた。私は彼に気を遣うことなく、ハミングした。突然彼が立ち止まって衝動的にぎゅっと私を抱いた。<o:p></o:p>
彼の冷たい唇がまだ上気している頬を何か所かもどかしくかすめて、とうとう私の唇の中に深く入り込んだ。まるで彼の凍った唇を溶かし温める所を探すように。<o:p></o:p>
私は肩を揺らし彼の唇を避けた。私が経験した最初のキスは冷たい感触だけだった。<o:p></o:p>
「ごめん」<o:p></o:p>
彼はやや低く謝罪しても、私をしっかり抱きしめたまま放そうとしなかった。私はとても激しい彼の胸の鼓動をまざまざと聞いた。それはあまり嫌な気分ではないけれど、心が憂鬱で体をよじって彼の腕から抜け出た。<o:p></o:p>
「どうして今そんな振舞をするの? さっきはいくらでもそんなふうにできたのに、すっかり上品にふるまっていて」<o:p></o:p>
「さっきの話は聞くのも嫌だ」<o:p></o:p>
「みんなが胸襟を開いて振る舞っていたのに」<o:p></o:p>
「どうしてこんなに時計の針を戻すんだい? 彼らがすることと僕がすることと、違うということぐらいまさかわからないことはないはずなのに。僕は愛している、ミス李を」<o:p></o:p>
「愛し合う人は静かな場所が好きよ。このことなの? 昨日は無理にパーティーに行こうとせがんだけれど」<o:p></o:p>
「あのドブのようなパーティーのこと。もう言わないでくれ。成人になって背広を身に着けて愛する人と一緒にパーティーに行く夢くらいは、平凡な男だったら誰でも1回くらい夢みるよ。その夢がとても容易く来たようで、慌てていて空しく恥ずかしい見物だけして…とにかくごめん」<o:p></o:p>
「私は面白かったわ。別な楽しみがあったのに」<o:p></o:p>
彼は突然私の腕を強くねじって、<o:p></o:p>
「どうしてそんなに怒らせるんだ。ミス李をあんな売春婦の中に、その上ヤンキーの侮蔑の視線の中に置くことに、僕が耐えられると思うのかい? 君は他の女とは違わなきゃならない」<o:p></o:p>
かえって脅迫だ。そうしても彼の視線にはいつもよりも強い渇望が燃え上がった。<o:p></o:p>
しかし彼が私から何を望むのかはっきりわからなかった。彼が私との一層長いキスや抱擁を望むなら、そのようにしてやらないこともないけれど、私が他の女と違うことを願うなら困った立場だった。<o:p></o:p>
人々がそれぞれ性格も姿も少しずつ違うぐらいぴったり、それだけ私も他の女と違うだけだけれど、泰秀が私に望むのはそれだけではないようなのだ。彼は私がまるでドブの中で咲き始める薔薇だともいうように思いたい表情で、私は彼の切実な態度を見て、うつむくふりでもしてやらなければならないけれど、それが全く恥ずかしくて面倒だった。結局、私は演技をしてまで彼に気に入ってもらわねばならない理由がないのだった。<o:p></o:p>
私は彼を愛していないし、愛していない間柄の気楽さを1歩も譲歩したくなかった。<o:p></o:p>
彼はいらいらして煙草に火をつけて噛んだが,1服も吸わずにつま先でもみ消して、何か言おうとする表情だった。私は彼の無駄な焦燥感をなだめたくて、一言言った。<o:p></o:p>
「空をちょっと見て。星が多いわね?」<o:p></o:p>
しかしちょっとしたやりとりで、彼はかっと腹を立てた。<o:p></o:p>
「からかわないでくれ。今は恨んで空を見上げる気分じゃないじゃないか? 僕はもうちょっと真剣に重大な話をしたい」<o:p></o:p>
彼とさらに長い話を交わしていては、いくらでも腕をねじられそうだった。<o:p></o:p>
「さようなら、ごめんね」<o:p></o:p>
私はすばしっこく闇の中へ体を翻した。
<o:p></o:p>
読書感想79 逃げられない女<o:p></o:p>
著者 フランセス・ファイフィールド<o:p></o:p>
出身 イギリス<o:p></o:p>
生年 1948年<o:p></o:p>
出版年 1993年<o:p></o:p>
邦訳出版年 1995年<o:p></o:p>
邦訳出版社 (株)早川書房<o:p></o:p>
<o:p> </o:p>
感想<o:p></o:p>
弁護士で公訴官(日本の検察官)のヘレン・ウエストは恋人のジェフリー・ベイリー主任警視とお互いの家を行ったり来たりして交替で料理を作る生活にうんざりしている。同じ職場で働く同僚の若くハンサムな弁護士コットンに関心が向いている。公訴局の庶務係ローズ・ダーヴィは毎晩若い警官ととっかえひっかえデートしている。そしてある日ローズをめぐって警察の独身寮で警官同士が喧嘩を始め殴り合いに発展する。若く生意気なローズは職場でもヘレンに楯突くが、ヘレンはそんな若さが少し羨ましい。妊娠の有無を調べる検査に行った病院でヘレンとローズは偶然顔を合わせ親しくなる。ヘレンの周囲には変質的な男、ローゴが付きまとって脅迫してくる。ローゴは失踪した娘を探している。娘と似た少女を見かけると執拗にまとわりつく。裁判にかけられてもいつも讃美歌を歌って無罪になるが、ヘレンは危険な悪党の臭いを嗅ぎ取っている。ローゴの隣人の老女マーガレットは妻子に逃げられたローゴに同情しているが、あるきっかけからローゴの危険な正体に気付き悩み始める。折から公訴局のコンピューターが改竄され、機密が漏洩するという事件が発生する。マーガレットには失踪したローゴの娘から会いたいという手紙が届く。ヘレンの恋人のジェフリー・ベイリー主任警視は研修旅行に出かけて不在。事件の歯車が大きく回転していく。<o:p></o:p>
恐怖がじわじわと広がって行く感じがする。見つけられたらどうしよう、逃げ切れるかしらという種類の恐怖だ。鬼ごっこと隠れん坊を合わせたような。<o:p></o:p>
本書でヘレン・ウエストシリーズは4作目になるそうだ。<o:p></o:p>
イギリスの裁判制度では「公訴官」とか「公訴局」というものがあるようだが、検察官のことなら、検察官と訳したほうが分かりやすいのではないだろうか。あとローズの無軌道なしゃべり方や仕事ぶりが職場で通用しているのにびっくり。ユーモアとはとても言えないような代物がユーモアとして扱われている。イギリスのユーモアの範囲の広さを感じる。
<o:p></o:p>
ちょっとランキングにクリックを!