
ひと晩中われ十月の風を聞く悪い奴ほどよく眠るとか
心にはその人なりの器がある
金属製であったり木製であったり
陶器や土器であったり材質も大きさも
人それぞれ
おそらくぼくの器は年代物の小さな土器だ
以前にも増してうたを作ったり
鳥の写真を撮ったりしているのは
空っぽになってしまった器を
満たそうとしているのだろう
ぼくにとってうたや鳥の写真は
タンカーのバラスト水のようなもの
器が空っぽのままでは
立っていることすらままならないのだ
石川幸雄 1964年東京生まれ
詩歌探究社「蓮」代表、個人誌「晴詠」発行人
十月会会員、板橋歌話会役員、現代歌人協会会員
日本短歌総研上席研究員
歌集に『解体心書』、『百年猶予』ほか。
研究書に田島邦彦研究「一輪車」
入門書に『誰にも聞けない短歌の技法Q&A』がある