
鴛鴦の鴛はオス指すことばなり鴛という字は怨の字に似る
午前4時雨音に目覚めた。
ぼくは猛禽類専門の写真家だが
今日はオシドリ(鴛鴦)を探しに行くと決めていた。
おしどり夫婦なる言葉があるが、
ぼくと親しかった人と同じでオシドリは冬毎に
相手を変える。おしどり夫婦なんて誰かの決めつけだ。
オシドリは日本に生息している鳥の中でも特に色鮮やか。
オスが派手でメスが地味なのは他の鳥と同じ。
山間の湖に向かう途中、虹が立った。
しかし、天気にまで裏切られた。
霧雨の中クルマを停めカメラを担いで探し回る。
オシドリらしき群れを発見したが飛んで行ってしまった。
いつもなら諦めるが今日はどうしてもオシドリを撮りたかった。
人見知りのぼくが登山者に声をかけたりして。
歩いて登って下って歩く。
時折、湖を見下ろし水の動きを見る。動きがあると鴨。
雨が上がったので切岸にカメラをセットして待つ。
すると右手から突然、オシドリ夫婦が現れた。
しばらくつかず離れず進んでいたがメスが突然離れてゆく。
やがて諦めたようにオスが飛んだ。

シャッターを切る指が震えていたのは
オシドリを見つけたせいじゃない。
石川幸雄 1964年東京生まれ
詩歌探究社「蓮」代表、個人誌「晴詠」発行人
十月会会員、板橋歌話会役員、現代歌人協会会員
日本短歌総研上席研究員
歌集に『解体心書』、『百年猶予』ほか。
研究書に田島邦彦研究「一輪車」
入門書に『誰にも聞けない短歌の技法Q&A』がある