好きなだけ食べてゆきなよ好きなだけ喋ってゆきなよ黙っているから
寿司を食べるというと贅沢な感じ。
二間の長屋に家族五人で暮らしていたころ
ごくごくたまに
目出度いときに
出前の寿司がちゃぶ台に上がった記憶が
染みついているからか。
昔ながらの寿司屋は緊張するし
わさびを巻いてもらおうかな
なんてツーぶったセリフを聞くのも恥ずかしい。
ゆえに暖簾をくぐって
オススメをテキトーに握ってちょうだい
なんて言ったこともなく。
そんな敷居を取っ払ったのが回転寿司。
ひとりで気軽につまんで帰る。
いまや回転寿司は家族の団欒に使われる。
持ち帰る寿司屋さんもたくさんできた。
どんなに賑わっていても
どんなに威勢がよくても
寿司屋は寒くてさみしい。
最後の晩餐に寿司は良くない。
小沢昭一は「味覚とは郷愁」と言ったが
なるほどと思う。
石川幸雄 1964年東京生まれ
詩歌探究社「蓮」代表、個人誌「晴詠」発行人
十月会会員、板橋歌話会役員、現代歌人協会会員
日本短歌総研上席研究員
歌集に『解体心書』、『百年猶予』ほか。
研究書に田島邦彦研究「一輪車」
入門書に『誰にも聞けない短歌の技法Q&A』がある