詩歌探究社 蓮 (SHIIKATANKYUSYA HASU)

詩歌探究社「蓮」は短歌を中心とした文学を探究してゆきます。

野蒜短歌会

2018-10-20 23:14:26 | 千駄記



表情を伺いながら冗談を言っても今日は泣き笑いとなる


ぼくは短歌教室を持っている。
毎月第三土曜日杉並区で開催する。
知る人ぞ知る田島邦彦という歌人から引き継いだものだ。
メンバーは10名程度で男性が4名。

ぼくは工場経営があるのでここ数年は
講師二名体制だったが片割れが辞めてしまった。
詠草を事前に集め無記名のプリントにして
返送するのだがそこに講師が辞めた旨を書いた。

今日が一人体制に戻って第一回目。
仕事が長引いてしまいギリギリに到着。
みな不安そうな淋しそうな顔をしている。
そりゃそうだ。信頼していた講師が
特にもっぱら対会員の窓口になっていた片割れが
突然いなくなったのだから。
ご高齢者ばかりだが短歌を生き甲斐としているのを
思い知った一日だった。

S川さんはショックで詠草集を見られなかったという。
ぼくはまた胸が熱くなり言葉に詰まる。

皆さんにもっと言葉をかけたかったが無理だった。
歌会は3時間弱どうにかこなすことができた。

O室さんは12月にでも男性だけで一杯やろうという。
そんな気遣いは初めてだった。

みんないい人。
ぼくも実は教室の維持は難しいかと思っていたが
みんないい人だから
みんなが辞めると言うまで続けたいと思った。




伊豆沼

2018-10-20 22:21:44 | 千駄記



地の果てかわが世の果てか朝霧の伊豆沼をキミは知っているか


伊豆沼をご存じだろうか?
伊豆沼と言っても静岡県の伊豆に
あるわけではない。
宮城県の大きな沼で
ラムサール条約の登録地である。
水鳥の越冬地として知られ
天然記念物のマガンの群れが
飛び立つさまは壮観である。

ほんの気まぐれでクルマを
走らせたことがあった。
現地近くのPAで仮眠をとって
伊豆沼を訪れると
辺り一面霧がかかり
それはそれは幻想的だった。

あれから一年以上経ったんだ。

ぼくの世の果ての風景。





魔薬

2018-10-20 08:42:18 | 千駄記



こんな男を見守る人の正論が魔薬の禁断症状に効く


夜は人を臆病にする
ともすれば過去を美化してしまう

そんなとき確かにそうだと気付かせてくれる
ひとことが如何に大切かと思い知るのだ

人はひとりでは生きてゆけない

自分の人生を自分の好きなように
思いのままに自由を謳歌したいのは誰しも
そうなのだろう
しかし事情が許さない
生活してゆくために時には嫌なことだって
引き受けなければならない
耐えなければならない
たとえそこに報酬が発生しなかったとしてもだ

人という字は支え合っていない
どちらかがどちらかに凭れかかっているものだ

すくなくともぼくは「人」の二画目になりたい






昨夜のこと

2018-10-19 12:03:31 | 千駄記


酒八合呼子烏賊刺ししゃぶしゃぶを戴くしんみりの暇なく

いつもご心配と励ましを戴く歌人とお会いした。
わざわざぼくの新たな門出を祝うために
地方から上京してくだすった。
すっかりご馳走になり悉く有難く感謝する今日である。

人として生きる道、歌人として進む道を照らして戴いた。

久しぶりに明るいうちに電車に乗って秋葉原に向かう。
いつもは仕事の緊急事態に電気部品を買いに行く街。
駅の裏っかわ・・どっちが表か知らないが、
ずいぶん様変わりしたように思う。

駅ビルって言い方も古いがその二階に前の記事で書いた
BOSEがあることを知っていたのでまずそちらへ向かう。
品数が少なく「ここ販売してるの?」と訊いてしまった。
試聴のつもりだったが、衝動買いをする。
コンセントを差し込んでCDを入れれば済むらしいが
PCやスマホからブルートゥースで飛ばした音楽も
聴けるらしい。使いこなせば便利で素敵なのだろう。
本体はコンパクトだが箱はバカでかい。

時間はまだあったので肩に担ぐようにして喫茶店を探す。
一服したのち待ち合わせの店に向かう。メールで詳しく
その道のりを書いて戴いたのだが迷う。
駅を出たら道を渡らず左に二回曲がるだけと
メールにあったが、ない。
「ワシントンホテルが見える」とメールにあるがそれは
駅を出て右に曲がらないと見えない。
つまり右に二回曲がるのだった。



BOSE

2018-10-19 08:57:13 | 千駄記


水割りを舐めつつ紫煙燻らせてムード歌謡聴くBOSE買いきて
そんな女はムード歌謡の中だけとキャバレー嬢に叱られている


スピーカー、音響機器といえばBOSE。
ぼくの生まれた年にできた企業で
青春時代に米国からやってきた。

いままで音楽を聴くのはクルマの中
だったが家でも聴くことにした。
その媒体はCDである。ダウンロードして
ブルートゥースでなんたらとかが
厄介そうだから。

とはいえ昔はレコードをテープに録音
してたんだからその手間と比較すれば
使いこなせば簡単なのだろうことはわかるよ。

ジャンルは問わず聴くが
デ・セデのソファに座って
水割りと煙草それにBOSEなら
ジャズかクラシックがサマになる。
だけど今ぼくの胸を打つのはムード歌謡だ。




玉手箱

2018-10-18 09:01:06 | 千駄記



玉手箱を開けたみたいだ寝ずのあさ洗面台の鏡を覗けば


そもそも鏡はほとんど見ないがこんな
時はどんな顔をしているのかとふっと
思ったとある朝の鏡にはおじいさんが
映っていていつのまにやら歳をとって
身なりにも気遣いしなくなって数年間
を無駄遣いしてしまったとしみじみと
思いながらそれにしてもなんで乙姫は
開けてはいけないものを手渡したのか
と急に腹立たしくなったが浦島太郎は
それなりに楽しい時間を過ごしたのだ
からマシだよなそれに引き換え粛粛と
おじいさんになってしまった自分を哀
れで情けなく気の毒に思ったのである






選択肢

2018-10-17 07:34:37 | 千駄記



前ばかり遠くばかりを見る男に振り向く選択肢はあらざりき


あなたは昔を忘れていない  と
よく言われたが
ぼくは過去を死んだものと思っている
みんな死んでしまったのだ

前ばかり遠くばかり未来ばかりを
過去を懐かしむ余裕もなく
明るいか暗いかは知れないが未来を
信じ生きるしかなかった

捨ててきたものが過去にはあって
それを拾いに戻ることがある
そんなバカげたことがあると知った

ふりむくなうしろには夢がない  
寺山さん!うしろにも夢はあったのだ

過去の環境や情況に期待すればいい
新しい景色はない
若返ることはない



寿司屋

2018-10-16 16:10:53 | 千駄記


好きなだけ食べてゆきなよ好きなだけ喋ってゆきなよ黙っているから


寿司を食べるというと贅沢な感じ。

二間の長屋に家族五人で暮らしていたころ
ごくごくたまに
目出度いときに
出前の寿司がちゃぶ台に上がった記憶が
染みついているからか。

昔ながらの寿司屋は緊張するし
わさびを巻いてもらおうかな
なんてツーぶったセリフを聞くのも恥ずかしい。
ゆえに暖簾をくぐって
オススメをテキトーに握ってちょうだい
なんて言ったこともなく。

そんな敷居を取っ払ったのが回転寿司。
ひとりで気軽につまんで帰る。
いまや回転寿司は家族の団欒に使われる。
持ち帰る寿司屋さんもたくさんできた。

どんなに賑わっていても
どんなに威勢がよくても
寿司屋は寒くてさみしい。
最後の晩餐に寿司は良くない。

小沢昭一は「味覚とは郷愁」と言ったが
なるほどと思う。


石川幸雄 1964年東京生まれ
詩歌探究社「蓮」代表、個人誌「晴詠」発行人
十月会会員、板橋歌話会役員、現代歌人協会会員
日本短歌総研上席研究員
歌集に『解体心書』、『百年猶予』ほか。
研究書に田島邦彦研究「一輪車」
入門書に『誰にも聞けない短歌の技法Q&A』がある

板橋歌話会10月例会

2018-10-16 12:09:40 | 短歌情報


夕焼空焦げきはまれる下にして氷らんとする湖のしづけさ(『切火』)  島木赤彦

昨日は板橋歌話会の例会がありました。

発表は結社「炸」代表の松坂弘氏による
<島木赤彦『切火』を読む>で、司会は奥村晃作氏。

赤彦の人生を振り返り、代表作及び
『切火』から抄出された作品の朗読
及び丁寧な解説に聞き入りました。

釈迢空はこの歌集『切火』を大いに評価したといいます。
「文語短歌から口語短歌への移行のきっかけ」
であったとも言われたそうです。
ここでいう口語短歌は現代の歌壇のそれと
異なるものであるのは言うまでもありません。

参加者は20名を切って残念でしたが今後も
歌話会のご案内をしてゆきますので
お時間のある方はぜひともお集まりください。

私の好きな赤彦の一首

隣室に書よむ子らの声きけば心に沁みて生きたかりけり


石川幸雄 1964年東京生まれ
詩歌探究社「蓮」代表、個人誌「晴詠」発行人
十月会会員、板橋歌話会役員、現代歌人協会会員
日本短歌総研上席研究員
歌集に『解体心書』、『百年猶予』ほか。
研究書に田島邦彦研究「一輪車」
入門書に『誰にも聞けない短歌の技法Q&A』がある

ならず者

2018-10-15 11:57:27 | 千駄記


△がふたつに手負いの×ふたつ言い訳はせずわれ Desperado
(さんかくがふたつにておいのばつふたついいわけはせずわれ ならずもの)


「Desperado」という美しいメロディを持った歌が
イーグルスにある。邦題を「ならず者」という。
猛禽好きにイーグルスとは出来すぎた話だ。

ならず者とは
① 手に負えない者。素行の悪い者。ごろつき。無頼漢。放蕩者。
② 生活がままならない者。
ということらしい。

ぼくは人生を結果がすべてと思っている。
その過程でいかに生きたか?などはあとの祭り。

奴はならず者だよ。だって△ふたつを×ひとつと
計算したら×3だもの。

結果ぼくはならず者であった。


石川幸雄 1964年東京生まれ
詩歌探究社「蓮」代表、個人誌「晴詠」発行人
十月会会員、板橋歌話会役員、現代歌人協会会員
日本短歌総研上席研究員
歌集に『解体心書』、『百年猶予』ほか。
研究書に田島邦彦研究「一輪車」
入門書に『誰にも聞けない短歌の技法Q&A』がある

おしどり夫婦ーオシドリ(鴛鴦)

2018-10-14 13:40:21 | 千駄記



鴛鴦の鴛はオス指すことばなり鴛という字は怨の字に似る


午前4時雨音に目覚めた。
ぼくは猛禽類専門の写真家だが
今日はオシドリ(鴛鴦)を探しに行くと決めていた。

おしどり夫婦なる言葉があるが、
ぼくと親しかった人と同じでオシドリは冬毎に
相手を変える。おしどり夫婦なんて誰かの決めつけだ。

オシドリは日本に生息している鳥の中でも特に色鮮やか。
オスが派手でメスが地味なのは他の鳥と同じ。

山間の湖に向かう途中、虹が立った。
しかし、天気にまで裏切られた。
霧雨の中クルマを停めカメラを担いで探し回る。
オシドリらしき群れを発見したが飛んで行ってしまった。
いつもなら諦めるが今日はどうしてもオシドリを撮りたかった。
人見知りのぼくが登山者に声をかけたりして。
歩いて登って下って歩く。
時折、湖を見下ろし水の動きを見る。動きがあると鴨。

雨が上がったので切岸にカメラをセットして待つ。

すると右手から突然、オシドリ夫婦が現れた。
しばらくつかず離れず進んでいたがメスが突然離れてゆく。
やがて諦めたようにオスが飛んだ。




シャッターを切る指が震えていたのは
オシドリを見つけたせいじゃない。


石川幸雄 1964年東京生まれ
詩歌探究社「蓮」代表、個人誌「晴詠」発行人
十月会会員、板橋歌話会役員、現代歌人協会会員
日本短歌総研上席研究員
歌集に『解体心書』、『百年猶予』ほか。
研究書に田島邦彦研究「一輪車」
入門書に『誰にも聞けない短歌の技法Q&A』がある

無頼平野

2018-10-13 15:10:54 | 千駄記



荷を下ろしトラック軽々駆ってゆく無頼平野に陽は沈むなり


仕事柄トラックを運転することがある。
概ね納品のためだがほどほどの長距離運転は楽しい。

ナビゲーションはついてないけれど
届けなれた客先であれば抜け道も分かる。
田んぼの真ん中をのろのろ走る。

関東平野はつくづく広い。

荷物を下ろした後はハンドルも荷台も軽く
往路ほど慎重にならない。

人生も同じ。

背負いこんだ荷物を少しずつ下ろして生きてゆく。
すでにわが人生は夕暮れどき。
まさに逢魔が時だけに
これからは魔物に逢わないように
気をつけよう。

わが無頼平野を遮るものはない。


石川幸雄 1964年東京生まれ
詩歌探究社「蓮」代表、個人誌「晴詠」発行人
十月会会員、板橋歌話会役員、現代歌人協会会員
日本短歌総研上席研究員
歌集に『解体心書』、『百年猶予』ほか。
研究書に田島邦彦研究「一輪車」
入門書に『誰にも聞けない短歌の技法Q&A』がある

バラスト水

2018-10-12 18:34:37 | 千駄記



ひと晩中われ十月の風を聞く悪い奴ほどよく眠るとか


心にはその人なりの器がある

金属製であったり木製であったり
陶器や土器であったり材質も大きさも
人それぞれ

おそらくぼくの器は年代物の小さな土器だ

以前にも増してうたを作ったり
鳥の写真を撮ったりしているのは

空っぽになってしまった器を
満たそうとしているのだろう

ぼくにとってうたや鳥の写真は
タンカーのバラスト水のようなもの

器が空っぽのままでは
立っていることすらままならないのだ


石川幸雄 1964年東京生まれ
詩歌探究社「蓮」代表、個人誌「晴詠」発行人
十月会会員、板橋歌話会役員、現代歌人協会会員
日本短歌総研上席研究員
歌集に『解体心書』、『百年猶予』ほか。
研究書に田島邦彦研究「一輪車」
入門書に『誰にも聞けない短歌の技法Q&A』がある

人生劇場

2018-10-12 09:45:31 | 千駄記



得なければ失くしてしまう惨めさを不安恐れを知らなくて済む


いつも近所の土手で寝転んでいるような
こどもであったからか
担任にせめて本を読めと言われた

無責任、無気力、無関心などと
言われる口であったのに人のアドバイスには従う

本を読むといってもバカの特徴の一つは
根気がないことである。一念発起して本屋へ行った

字が少なければ読めるだろうと探していると
彌生書房の詩集が並んでいた。
草野心平、金子光晴、八木重吉などがあったように思う
その中から名前の格好いい「立原道造」を選んだ

それがぼくの人生劇場の始まりだった
最近、尊敬する方から言葉をいただいた
人生劇場の勝負所
この言葉もまた私を撃ち抜いた



石川幸雄 1964年東京生まれ
詩歌探究社「蓮」代表、個人誌「晴詠」発行人
十月会会員、板橋歌話会役員、現代歌人協会会員
日本短歌総研上席研究員
歌集に『解体心書』、『百年猶予』ほか。
研究書に田島邦彦研究「一輪車」
入門書に『誰にも聞けない短歌の技法Q&A』がある


月と太陽

2018-10-11 11:35:10 | 千駄記



太陽の燃えつきたればひとり寝の部屋を照らせる皓月も消ゆ


かつてぼくはみずからを月に喩えた

太陽の明るさを持つ人物に照らされる
ことによって、実在していると
自覚していたからである

その太陽が燃え尽きたいま
ぼくはみずからの存在を訴える術をもたない

螢のようにほんの幽かであっても
みずから光を放つ存在となれるかどうか

進化によって光れるか否か

ぼく次第だ



石川幸雄 1964年東京生まれ
詩歌探究社「蓮」代表、個人誌「晴詠」発行人
十月会会員、板橋歌話会役員、現代歌人協会会員
日本短歌総研上席研究員
歌集に『解体心書』、『百年猶予』ほか。
研究書に田島邦彦研究「一輪車」
入門書に『誰にも聞けない短歌の技法Q&A』がある