バン、バン、バシッ!
午前4時半、アビーが起こしに来た。アビはおねちゃんの頭をバシバシ叩いて起こしますのよ。えぇ、文字通り”叩き起こす”のですわ。これは「アビ、トイレ行きたい」の合図で、春になってこの時間が段々早くなってきたの。
しかし、寝起きの私は髪の毛が鳥の巣みたいにグチャグチャ。それを帽子を目深にかぶってごまかす。寒の戻りで気温はわずか3℃。服を着替えるのが寒すぎるし、アビにトイレを長く待たせるのもかわいそうだから、寝巻の上にいきなりウールの冬用長オーバーを着てごまかす。今、腰痛で保護ベルトしてるから、くまのプーさんみたいなでっぷりとしたシルエットになってしまい(実はベルトなしでもでっぷりしてます)、超カッコ悪い。そしてかかとを踏みつぶしたピンクの散歩用運動靴をひっかけ、ウンチ回収網と清掃用水のカバンを持ってお外へ出たの。もしもこの格好を鏡に映して見たら、自分でもあまりに恥ずかしくて即お着換えしたと思うんだ。けど鏡の前は通らないし、何より未明の4時半ですからね、誰にも会うはずがありません、絶対に!
「さぁアビちゃん。チッチしようね~」。真っ暗な中をアビは地面をクンクン嗅ぎながら、(どこでもええんちゃ~う?)という私の心の声に反して、最適の場所をウロウロ探している。すると、チカチカと赤く点滅しながらパトカーが線路の向う側をゆっくり徐行しているのが見えた。こんな時間にパトカー? 踏切を渡り、一旦通り過ぎたかに見えたパトカーでしたが、おもむろにバックして左折し、私とアビの方向へスルスルと音もなく近づいてきた。そして私の横でぴたりと止まり、運転してた巡査が降りてきた。
そういえば数年前、やはり午前4時頃にパトカー数台が近くのアパートに来てたわねぇ。若い巡査複数名が真っ暗な中をアチコチ歩いてて、前の犬と散歩してた私と何度もすれ違ったの。すると最後に向うから「若い女性を見ませんでしたか」と。その晩にいなくなったんだって。(その後、特に新聞にも載らなかったから無事解決してると思いたい)とっさにこの件を思い出した私。
警察:「あの~」
私 :「はい。何かあったんですか?」
警察:「いいえ、何もないんですが」
私 :「(相棒の水谷豊風に)ハイ???」
警察:「何もないんですが、こんな時間に何されてるのですか?」
えぇっと、これって職質????ワタシ、あやしい?????確かに今のワタシの格好は激しく怪しい。私が警官でも声をかけるだろう。あまりにトンチンカンな格好をしているので、認知症の老人の深夜徘徊と思われたのかなぁ?
私 :「犬の散歩です」
警察:「実はですねぇ」
ここで助手席の警察官も降りて来る。のんきにウンチしてるアビ。
私 :(心の中で・・・やっぱり何かあったんだ!)
警察:「あなたの服なんですが・・・」
私 :(心の中で・・・やっぱり不思議な格好よね。誰にも会わないと思ってたのに、きゃぁ恥ずかしい!私は決して怪しいものではありません。お巡りさん、信じてお願い!)
警察:「実は先日、近くで深夜に死亡交通事故がありまして、真っ暗で被害者が見にくかったんですよね。今のあなたの服装も見にくくて危ないかもしれません」
私 :(心の中で・・・あ、そっち?)
警察:「そこで、蛍光タスキを差し上げますから、少しでも安全にしてください」
貴重な税金で購入したであろうグッズ、うちにも似た物があるのでもらうわけにはいかない。
私 :「うちにもありますから、頂いてももったいないです」
警察:「いえいえ、今が危ないです」
そういうと、二人がかりで分厚いオーバーの上からタスキをかけて下さった。
警察:「警察ではこのような事故予防活動もしています。つきましては記録用にタスキ着用の記録写真を撮らせてもらえますか?」
私 :「えぇ~!記録写真の撮影?????」
どうする、どうする自分・・・。
”未明の4時半ですからね、誰にも会うはずがありません、絶対に!”なんて油断していた私のバカバカ。こんな時間でも一般市民を守ってくださる警察官。市民としてやはり協力しないわけにはいかないなぁ。
私 :「わかりました。顔無しでならOKです。でも、ちょっと時間下さいね」
そういって靴を履き直し、靴下を上げ、パジャマの裾をオーバーの中に隠し、襟巻を巻き直した、最低な私。警察官は私の後ろから撮影開始。アビは警官の前で顔出ししてた。暗闇に何度もフラッシュが光る。もしかして、広報紙の片隅にでも掲載されてしまったら末代までの恥!こんなことになるなんて、数分前に家を出て来た時には予想だにしていなかった。
<本日の教訓> 油 断 大 敵。