「河村氏、今わざとイチャモンつけてるでしょ?」

雪は亮の行動の本質を見極め、困惑した表情でそう問うた。
彼女の鋭い感性を前にして、亮はぐっと言葉に詰まる。

きまり悪くなった亮は、掴んでいた腕をバッと離した。
「何言ってやがんだ」

「わざとじゃねーよマジで言ってんだけど?!
やっすい給料で働くバイトが欲しいんなら他当たれオラァ」
「だからさっきからそういうの‥」

いくら凄んだ所で、本質は雪に見破られている。
しかし亮はそれでも悪役の仮面を被り、意地悪い物言いを更に続けたのだった。
「社長にも言っとけよ。これからバイト雇うんなら給料十分に払えってな。
どんなに人が良かろうが、結局世の中カネなんだよ」

「この‥」
「それに何度も言ってっけど、お前マジでカモ体質だよな。イタイわー」

亮はそう言って、今度はその矛先を雪へと向けた。
「クソビッチに本までやってよぉ。こんなモン‥」

「自分からカモられに行くみてーなモンよ?」

落ちた本を拾った亮は、それを皮肉と共に雪に押し付けた。
徹底的に悪者になる、それが亮の目的だ。
「こんなんいらねぇから、持って帰れよ。捨てるなり売って菓子買うなり好きにしろ」

そして亮は、雪に向かってこう言い放った。
「もっと凛として生きてみろっての。このお人好しのバカが」

乱暴な物言い。けれどそれは亮の本音だった。
そこに掛かる気掛かりや心配を、口や態度に出さないだけのことで。
「あーマジめんどくせぇ‥」

亮はそう言いながら、倉庫の出入り口の方へと視線をやった。
このままドアを出て行けば、もう彼女が自分に近付いてくることも無いだろうーー‥。
ぐいっ!

すると後ろから、凄い勢いでシャツを引っ張られた。
重心を崩された亮は、驚いて大きな声を上げる。
「な、何だぁ?!」

亮は思わず口をあんぐりと開けて固まった。
なぜなら自身を睨む雪の形相が、今までに無いほど凄まじいものだったからだ。

雪は顔を赤くし青筋を立てながら、強い力で亮の胸に本を押し付けた。
「持って帰って下さい!」「あぁ?!」

「このガキ‥」

亮は思わずカッとした。
せっかく雪と静香との繋がりを断とうと悪役になったのに、またその本が戻って来たからだ。
「いらねぇっつってんだろ!!」

亮は声を荒げながら、伸ばされたその手を乱暴に振り払った。
本は勢い良く空を舞い、再び地面へと落ちる。


佐藤から預かったその本が叩きつけられるのを、雪はただ目で追っていた。
バサリと地面に落ちたその無機質な音を聞いた途端、先ほど亮に感じていた猛烈な怒りが、すっと冷める。

「あぁ、そうですか」

雪は抑揚のない声でそう言うと、落ちた本を手に取る為に上半身を屈めた。
亮は力加減が出来なかったことを後悔し、聞こえない程の小さな声でこう口にする。
「このっ‥馬鹿力がっ‥」

しかし雪が本を拾い再び顔を上げた途端、亮はピタと止まって固まった。
自分は今悪者なのだ。またしてもそれを見破られるわけにはいかない。

すると雪が、突然冷静な声でこう言い始めた。
「はい。分かりました」

「もういいです。止めます」

しかしその声のトーンとは裏腹に、彼女の顔はみるみる歪んで行く。

ぎゅっと拳を握りながら、雪は抑えていたその気持ちを口にした。
「自分から先に友達だって言ってきたくせに、
一体何でこんなことをするのかは、最後まで話してくれないんですね。
しかも自己中だしこんなの八つ当たりだし、イミフなのはそっちですよ」

「は?いやそれは‥」「はいはい、その通りですよ」

口を挟もうとする亮の言葉を遮りながら、雪は一本調子で話を続ける。
「私が一方的に勘違いしてたんですよね。
河村氏を家族のように思って未練たらしくグチグチグチグチ。
色々みっともないとこお見せしちゃいましたよね」
「は?おいダメージ、そりゃ‥」

俯きながら言葉を続ける雪。亮はどこか恐ろしいものを感じながらそれを聞いた。
「河村氏の言うとおり、もう連絡も待つこともしませんから‥」
「お‥おお。そうしろってオレが‥」

そして次の瞬間、雪は再び凄まじい形相で亮に噛み付いた。
「どうぞお達者で!!」

「ピアノも達者に弾いて!そんで賞取って!
海外に行ってテレビでも出て下さいな!もうすべてご自由に!!」

「何もかも!ぜーんぶ!」

「どうぞご勝手に!!」

凄い剣幕で捲し立てる雪に、亮はただただ圧倒されてしまった。
その場で固まる亮を、押し退けて雪は退室する。
「どいて!」

バタン!

「‥‥‥‥」

まるで嵐が去って行ったかのようだった。
亮は白目を剥きながら、雪が出て行ったドアの方へとゆっくりと顔を向ける。

倉庫の中に落ちた静寂の中、先ほど起こった事態を亮は徐々に把握した。
そしてそれを実感すればするほど、亮は耐え難くなり頭を抱える‥。

「うわあ!あああ!」
「練習せんならもう出てこーい」

いつまで経っても聞こえてこないピアノの音の代わりに、亮の叫びが倉庫にこだましている。
雪の叔父がそう声を掛けても、暫く彼の叫びは続いていた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼との対話(4)ー決別ー>でした。
このコマが‥

思わずこれに見えました‥

ドーン。
しかし結局また中途半端になってしまったような。
亮さんも本気で雪と距離を置こうと思うなら、
あの腕掴んだ時に強引に抱き寄せるでもキスするでもした方がよっぽど効果ある気がしますが‥。
そんなこと思うことなく、必死に悪役に徹しようとする亮さんがいじらしくもありますね‥。
さて次回は<多忙な週末>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
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雪は亮の行動の本質を見極め、困惑した表情でそう問うた。
彼女の鋭い感性を前にして、亮はぐっと言葉に詰まる。

きまり悪くなった亮は、掴んでいた腕をバッと離した。
「何言ってやがんだ」

「わざとじゃねーよマジで言ってんだけど?!
やっすい給料で働くバイトが欲しいんなら他当たれオラァ」
「だからさっきからそういうの‥」

いくら凄んだ所で、本質は雪に見破られている。
しかし亮はそれでも悪役の仮面を被り、意地悪い物言いを更に続けたのだった。
「社長にも言っとけよ。これからバイト雇うんなら給料十分に払えってな。
どんなに人が良かろうが、結局世の中カネなんだよ」

「この‥」
「それに何度も言ってっけど、お前マジでカモ体質だよな。イタイわー」

亮はそう言って、今度はその矛先を雪へと向けた。
「クソビッチに本までやってよぉ。こんなモン‥」

「自分からカモられに行くみてーなモンよ?」

落ちた本を拾った亮は、それを皮肉と共に雪に押し付けた。
徹底的に悪者になる、それが亮の目的だ。
「こんなんいらねぇから、持って帰れよ。捨てるなり売って菓子買うなり好きにしろ」

そして亮は、雪に向かってこう言い放った。
「もっと凛として生きてみろっての。このお人好しのバカが」

乱暴な物言い。けれどそれは亮の本音だった。
そこに掛かる気掛かりや心配を、口や態度に出さないだけのことで。
「あーマジめんどくせぇ‥」

亮はそう言いながら、倉庫の出入り口の方へと視線をやった。
このままドアを出て行けば、もう彼女が自分に近付いてくることも無いだろうーー‥。
ぐいっ!

すると後ろから、凄い勢いでシャツを引っ張られた。
重心を崩された亮は、驚いて大きな声を上げる。
「な、何だぁ?!」

亮は思わず口をあんぐりと開けて固まった。
なぜなら自身を睨む雪の形相が、今までに無いほど凄まじいものだったからだ。

雪は顔を赤くし青筋を立てながら、強い力で亮の胸に本を押し付けた。
「持って帰って下さい!」「あぁ?!」

「このガキ‥」

亮は思わずカッとした。
せっかく雪と静香との繋がりを断とうと悪役になったのに、またその本が戻って来たからだ。
「いらねぇっつってんだろ!!」

亮は声を荒げながら、伸ばされたその手を乱暴に振り払った。
本は勢い良く空を舞い、再び地面へと落ちる。


佐藤から預かったその本が叩きつけられるのを、雪はただ目で追っていた。
バサリと地面に落ちたその無機質な音を聞いた途端、先ほど亮に感じていた猛烈な怒りが、すっと冷める。

「あぁ、そうですか」

雪は抑揚のない声でそう言うと、落ちた本を手に取る為に上半身を屈めた。
亮は力加減が出来なかったことを後悔し、聞こえない程の小さな声でこう口にする。
「このっ‥馬鹿力がっ‥」

しかし雪が本を拾い再び顔を上げた途端、亮はピタと止まって固まった。
自分は今悪者なのだ。またしてもそれを見破られるわけにはいかない。

すると雪が、突然冷静な声でこう言い始めた。
「はい。分かりました」

「もういいです。止めます」

しかしその声のトーンとは裏腹に、彼女の顔はみるみる歪んで行く。

ぎゅっと拳を握りながら、雪は抑えていたその気持ちを口にした。
「自分から先に友達だって言ってきたくせに、
一体何でこんなことをするのかは、最後まで話してくれないんですね。
しかも自己中だしこんなの八つ当たりだし、イミフなのはそっちですよ」

「は?いやそれは‥」「はいはい、その通りですよ」

口を挟もうとする亮の言葉を遮りながら、雪は一本調子で話を続ける。
「私が一方的に勘違いしてたんですよね。
河村氏を家族のように思って未練たらしくグチグチグチグチ。
色々みっともないとこお見せしちゃいましたよね」
「は?おいダメージ、そりゃ‥」

俯きながら言葉を続ける雪。亮はどこか恐ろしいものを感じながらそれを聞いた。
「河村氏の言うとおり、もう連絡も待つこともしませんから‥」
「お‥おお。そうしろってオレが‥」

そして次の瞬間、雪は再び凄まじい形相で亮に噛み付いた。
「どうぞお達者で!!」

「ピアノも達者に弾いて!そんで賞取って!
海外に行ってテレビでも出て下さいな!もうすべてご自由に!!」

「何もかも!ぜーんぶ!」

「どうぞご勝手に!!」

凄い剣幕で捲し立てる雪に、亮はただただ圧倒されてしまった。
その場で固まる亮を、押し退けて雪は退室する。
「どいて!」

バタン!

「‥‥‥‥」

まるで嵐が去って行ったかのようだった。
亮は白目を剥きながら、雪が出て行ったドアの方へとゆっくりと顔を向ける。

倉庫の中に落ちた静寂の中、先ほど起こった事態を亮は徐々に把握した。
そしてそれを実感すればするほど、亮は耐え難くなり頭を抱える‥。

「うわあ!あああ!」
「練習せんならもう出てこーい」

いつまで経っても聞こえてこないピアノの音の代わりに、亮の叫びが倉庫にこだましている。
雪の叔父がそう声を掛けても、暫く彼の叫びは続いていた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼との対話(4)ー決別ー>でした。
このコマが‥

思わずこれに見えました‥

ドーン。
しかし結局また中途半端になってしまったような。
亮さんも本気で雪と距離を置こうと思うなら、
あの腕掴んだ時に強引に抱き寄せるでもキスするでもした方がよっぽど効果ある気がしますが‥。
そんなこと思うことなく、必死に悪役に徹しようとする亮さんがいじらしくもありますね‥。
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