
河村亮はむっつりと黙り込みながら、仏頂面で頬杖をついていた。
ここ最近ずっと持ち続けている違和感が、亮の心をモヤモヤと煙らせているのだ。
「‥‥‥‥」


すると開け放たれたドアから、廊下を歩く彼の姿が見えた。
亮の心を煙らせる、当事者・青田淳の姿が。
「おいっ!」

あのガキ、と心の中で毒づきながら、亮は廊下へと出て行った。
立ち止まった淳に向かって、幾分荒い口調で話し掛ける。
「どこ行くんだ?ちょっと顔貸せよ」「悪い、今日は用事があるんだ」

淳は素っ気なくそう言うと、すぐに背を向けて行ってしまった。
その背中を見て、思わずイラッとする亮。

淳の元へ駆け寄り、彼を呼び止める。
日々感じているその違和感を、どうにかハッキリさせたくて。
「どうしたよ?何か不満でもあんのか?」

「ガキみてーに拗ねてどーした?!
話さなきゃ分かんねーだろ?!」

しかし違和感は、ますます強くなるばかりだ。
「‥何を話せって言うの」

ピキッ‥


明らかにおかしい淳の態度に、亮の忍耐は限界を迎えた。
いつもの通り、淳に向かって大声で捲し立てる。
「おっ前なぁ!分かってるくせに知らんフリすんなや!
マジどーしたん?!話してみろってば!」

言葉を重ねても、言い方を変えてみても、淳の態度は変わらない。
彼は相変わらず無言のまま、亮のことをじっと凝視するだけだ。

「クソッ!だから何なんだよ?!」

亮は地団駄を踏みながら尚も話を続けた。
「お前、最近ずっとオレのこと避けてんだろ?!話してみろっての!なぁ!」
「俺、朝礼の準備するから」

やはり彼の態度は変わらなかった。
素っ気ない対処、向けられた背中、募って行く違和感‥。

遠ざかる背中を見つめながら、亮は息を吐き捨てた。
「はっ!」

廊下を歩いて行く淳に向かって、大声で負け惜しみを叫ぶ。
「あーそーかよ!もう好きにしろよ!このスネちゃまが!つーか女子か!
オレが怒んねぇとでも思ってんのか?!もう口聞いてやんねーかんな!」


そう言い捨てる亮の言葉を、廊下の片隅で聞いている人物が居た。
じっとりとした視線を、亮に送りながら‥。

その日の夜、亮は青田家を訪れていた。
淳の父、青田会長と談笑する。
「はい!もっちろん会長の仰る通りッス!」

亮はそう言って、ははは!と明るい笑い声を上げた。
そして彼が、自分の方を向いていることに気がつく。


淳だった。
しかし彼は何のリアクションもせず、すぐに亮から顔を背ける。

再び自身を避ける淳に、亮は苛立ちを隠し切れずに怒りの表情を浮かべた。
アイツ‥会長の前でも遠慮なく‥
「ん?どうした?」「いや、何でも無いっす!」

普段なら、父親の前ではニコニコ笑っているのに‥。
亮は息を吐き捨て、気を取り直して会長に向き直る。
「あ!今度のコンクールには絶対来て下さいね!でっかい大会なんで!」
「ああ。絶対に行くよ」

会長は笑顔で頷いた後、亮に向かって優しくこう声を掛けた。
「何度もそう確認しなくていいさ。
私達はもう家族みたいなもんじゃないか」

「もうお前も気を楽にして、私を父親のように思ってくれ」

不意に掛けられたその温かな言葉は、亮の記憶の中にある暗い過去を引き摺り出した。
「お前みたいな畜生を、私が引き取ったのはなぁ‥」

まるでゴミか動物のように虐げられていた、幼き頃の暗い記憶。
あの頃とはまるで違った未来が、今目の前に広がっている‥。

亮は照れたように頭を掻きながら、もう一度会長に向かって念を押した。
「はは‥絶対来て下さいね」
「ああ」


不意に亮が、ピタと止まる。
顔を上げた亮が見たのは、彼の背中だった。
こちらを振り返ることなく、二階の自室へと向かう淳の背中‥。


その後姿を見て、なぜか胸騒ぎがした。
何も言わないのに何かを訴えているかのような、そんな違和感が亮の胸を占める。
「?」

亮は不思議そうに首を傾げたが、特に答えが出るわけではなかった。
そして会長に別れの挨拶を済ませ、青田家の門を出て行った。
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<<亮と静香>高校時代(21)ー向けられた背中ー>でした。
さて、時系列は再び亮や淳の高校時代へ。
順番としては、淳が両親の夫婦喧嘩の場面に遭遇し、
母親が「淳の学校生活を監視するために河村教授の孫を同じ学校に入れさせたんでしょ」
と言うのを聞いてしまった後の話、ということになりますね。
参考:<亮と静香>高校時代(20)ーおかしな子供ー
河村姉弟への疑心が募って行く淳とは対照的に、
何も知らない亮が、急に素っ気なくなった淳に対して焦れている、と。
さてだんだんと核心に近付いて参ります‥。
次回は<亮と静香>高校時代(22)ー境界線ー です。
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