
輝かしい未来へと続く道を、いつ踏み外してしまったのだろうか。
強すぎる光に視界を遮られ、深い溝の奥底へと、その闇の中へと、
彼はゆっくりと転落して行く‥。

ぐらりと、世界が歪んだ。
向かい合う青田淳と河村亮を囲んで、大勢の生徒がその現場を目撃していた。

これだけの人が居るというのに、辺りはしんと静まり返っている。
そしてそこに居るほぼ全員が、立ち尽くす青田淳の方を見つめていた。

亮は小さく「あ‥」と呟くも、その続きを口にすることが出来なかった。
目の前に居る淳が放つその闇が、徐々に亮の光を陰らせて行く。

亮の中の第六感が、最大級の警鐘を鳴らしていた。
ドクンドクンと、合わせて鼓動が加速して行く。
「いや‥オレは‥」

嫌な汗が背中を伝って流れ、亮の身体を冷やして落ちる。
亮は掠れた声でその続きを口にしようとしたが、淳の方がその先を待たずに口を開いた。
「お前、」

「欺瞞って言葉、知ってるか?」

暗く深い溝の底へ、ゆっくりと落ちて行く。
加速して行く鼓動のリズムは、その絶望へのカウントダウンだった。


放課後。
亮は授業が終わるといち早く廊下に出て、淳の姿を探した。

「!」

人波の間にその背中を見つけ、思わず駆け出す亮。
「おい!ちょっ‥」

しかし淳を呼び止める前に、誰かに思い切り肩をぶつけられた。
「んだよ!」

その痛みに苛つき、思わず声を荒げる亮。
顔を上げた先に居たのは、岡村泰士だった。岡村は亮を見て、あからさまに顔を顰める。
「あー‥クソッ。河村かよ」

「ムカツクぜー」

岡村とは以前喧嘩になった時以来犬猿の仲だが、
ここまで露骨に嫌味を出してくるのはどこか珍しかった。
しかし亮は淳のことで頭がいっぱいで、すぐにはその異変に気が付かない。
「この野郎‥」

肩の痛みとあからさまな嫌味に神経を逆撫でされ、亮は思わず声を荒げた。
すると周りに居た学生達が、ヒソヒソと何かを囁いているのに気が付く。

その光景は、明らかに今までとは違っていた。
亮は目を見開きながら、思わずその場に立ち竦む。

ヒソヒソ、コソコソと、どこからともなく降って来る言葉たち。
耳を澄ませばその言葉の全てが、亮自身に関連したそれだということが分かる。
「アイツも援助受けてるらしいじゃん」「んだよ、あんな偉そうにしてたくせによぉ」
「俺、てっきり金持ちの息子かと思ってた」「教授の孫じゃなかったの?」「大どんでん返しだな」

まるで暗雲から零れる雨粒のように、その言葉は亮の心に黒い染みを作った。
足が竦んで動けない。
視界の端に、去って行く淳の背中が見える。

「乞食野郎」

俯いた亮の背後から掛かる、心無い言葉。
岡村は亮の背中を小突きながら、真実を晒された彼を嘲笑う。
「なんで学校に乞食が居るんだ~?」

あははは‥ ははは‥

背中越しに聞こえる嘲笑い声。
遠い昔、狂いそうなほど聞かされた。
記憶の奥底に沈めたその過去が、その暗い記憶が、亮の拳を固く握らせる‥。


「あんた何やらかしたのよ?!」

ヒステリックな静香の叫びが、痛む頭をガンガンと鳴らした。
傷だらけの亮に向かって、静香は蒼白な顔で必死に訴える。
「みんなあたしのこと見下すのよ!あたしを!このあたしを!!」

「これじゃ昔と一緒じゃない!何も変わらないじゃない!」

亮は何も言えなかった。
先ほど引き摺り出されたものと同じ記憶が、今静香にも蘇っているのが、手に取るように分かるからだ。
「イヤ‥イヤ!!」

「イヤッ‥!」

静香は頭を抱え、そう叫び続けた。
その甲高い声は、記憶の彼方にある更に深い闇へと、亮を引き摺り込んで行く‥。

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<亮と静香>高校時代(24)ー陰への転落ー でした。
事態がどんどん悪くなりますね‥読んでる方も辛いです。
伏せられている場面はいずれ明らかになりますので、もう少しお待ち下さいね。
次回は<亮と静香>高校時代(25)ー独りぼっちー です。
☆ご注意☆
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極力使われないようお願いします!
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