ありえない金曜日までの一週間が、こうして終わった。

なんという一週間だったろう。
過去問盗難事件があり、そのせいで色々なことに振り回された。
しかし時の流れは恐ろしく早いもので、気がつけば雪は再び大学へと登校しているのだ。

そして週末も、あっという間に過ぎて行った。

本当に一日は二十四時間なのだろうか。
自分の周りだけ、その半分以下の時間で地球が回っているとしか思えない‥。

雪は白目を剥きながら、瞬速で過ぎて行ったこの週末のことを思い出していた。
土日の間は‥

まず、金曜の夜。
あの亮との対話の後、雪はなかなか気分を切り替える事が出来なかった。
「ああご立派な二人だこと‥!」

雪はブツブツ言いながら、ノートに河村姉弟のイラストを描いて、
それをペンでぐしゃぐしゃと塗り潰した。
怒り‥!

「ああご立派!ああご立派だこと!
いい加減に!いい加減にしろこいつらぁぁ!!」

その怒りをぶつけるように、夜遅くまでずっとPCを叩いていた。
土曜の朝は少しゆっくり出来るかと思ったが、それは突然の出来事によって白紙になる。
聡美の襲撃
「ゆきぃぃぃぃ~!」

なんといきなり、聡美が雪の実家に訪ねて来たのである。しかも号泣しながら。
「大げんかしたのぉぉ!太一のヤツとぉぉぉ!うぉぉぉん!」

玄関先で大きな声を上げて泣く聡美を、両親も蓮も驚きながら眺めていた。
雪はなんとか彼女を自身の部屋へと連れて行き、なだめながら話を聞く。
「どーしたのよ?!ほら水飲んで」
「分かんない‥いきなり超怒り出して‥」

聡美は膝を抱えながら、太一と喧嘩をしてしまった現状を猛烈に後悔していた。
「もうホントに終わりだぁ‥」
「ええ‥何言ってんの‥ちょ、ちょっと待ってね」

雪はアタフタしながら、とりあえず太一に電話を掛けた。
しかし太一は言葉少なに、ただ一言こう言ったのだった。
「俺‥考える時間が必要みたいっス」


スピーカーモードの太一の声は、隣に座っている聡美にももれなく届いた。
すると先ほどまでメソメソしていた聡美が、その答えを聞いて立ち上がる。
「あったま来た‥!おいこのガキ!時間って何よ時間って!
アンタ年下でしょ?!謝ったりはしないわけ?!」
「特に話すことはありまセン」「ちょ、ちょ!一旦切るから!」

雪が慌てて電話を切ると、聡美は再び大きな声で泣き出した。
そしてシクシク泣き続ける聡美を、長時間掛けて雪は慰めたのである‥。
そして、またデートのターン‥。
「そっか、仕方ないね」

その夜、雪は重たい気持ちを押して先輩に電話を掛けた。
明日、約束していた映画にはどうにもこうにも行けそうにない。
「ごめ‥本当にごめんなさい‥先輩‥」

雪は罪悪感に押し潰されそうになりながら、「ああ‥私もうめちゃくちゃだ‥」と小さく呟いた。
そんな雪に向かって、電話越しの先輩は優しく声を掛ける。
「雪ちゃん」

「俺は、雪ちゃんが俺と会うのを負担に思わないでいてくれたら嬉しい」
「え?!違いますよ!負担だなんてそんな‥!」

突然そう切り出した彼の言葉を、雪は弾かれたように瞬時に否定した。
しかし彼はまるで全てを見透かしているかのように、その話を続ける。
「忙しさに追われてる時って、周りのこと全てが負担に感じられるからね」
「‥‥‥‥」

そう言われて、雪はぐっと言葉に詰まった。
確かに先輩とのデートの約束が、課題や勉強の負担になっていたことは確かだからだ。
「俺が会おうって言ったって、絶対そうしなきゃって無理する必要は無いよ。
毎週デートするのも、電話するのも義務的に考える必要はないし」

まるで心の中を覗かれているかのような、彼の言葉。
雪は微かな違和感と共に、穏やかな彼の声を聞いている。

「俺はね、雪ちゃんがこういうことに囚われちゃうよりも、
気を楽にさせてあげる恋愛がしたいんだ。雪ちゃんにとって、そういう存在でありたい。
でも今、俺のことが雪ちゃんの負担になってるんだよな。ごめん」
「そ、そんなことないです!」

そう言ってどんどん持論を展開していく彼に、雪は大きな声でそれを否定した。
フォローするその言葉を、必死になって探しながら。
「先輩はその‥もう十~分過ぎるくらい私に気を遣って下さってますし‥?そのー‥」
「はは!」

きっとその慌てた様子が、電話越しにでも伝わったのだろう。
先輩は優しく笑うと、押し付けがましくない程度で彼女を楽にさせる提案をした。
「財務学会の課題が手に余るようなら連絡して。
一緒に勉強するのもデートだって考えてくれてもいいし」
「分かりました。ありがとうございます」

雪は頭を掻きながら礼を言い、そして二人はおやすみを言い合って電話を切った。
先ほどまで彼の声がしていた電話が、しんと沈黙する。


自分と先輩は確かに”彼氏”と”彼女”のはずだ。
はずなのだが、いつまでたっても対等になれない、なんとなくそんな気がした。
私は先輩に対して、またこんな風に謝って、ペコペコして、
申し訳なく思って‥これが、私の”恋愛”‥?

今胸の中にぼんやりと感じている違和感を、雪は心の中で言葉にしようと試みる。
恋愛というものはお互いを思いやることのはずなのに、
先輩はいつも私の気持ちをまず汲み取って、私が欲しい答えを先に差し出したりする

そしていつも、彼の気持ちはよく分からない。
ああ言ってる先輩だって、忙しくないはずないのに‥

雪の頭の中に、一年前の情景が浮かぶ。
あれはまだ彼が、世界で一番遠い存在だった時のこと。
その時のことを思い浮かべながら、雪は今の自分を省みる。
私は‥
私はあの人の為に、彼が望む何かをしてあげたことがあったかな


彼と会う時は楽しい話だけしようと、雪が決めたのはいつも彼がそう在るからだ。
いつも自分のことを考えてくれる彼の為に、自分は彼の望む何かへと、手を伸ばそうとしたことがあっただろうか‥。

ふと、机の上に置いてあるPCや教材が目に入った。
そこにはまだまだ完成までは程遠い課題や、やりかけの勉強が残っている。
「‥‥‥‥」

はぁ、と息を吐いて、雪は気持ちを切り替える用意を始めた。
とりあえずこれらをやっつけてしまわない限り、彼に会うことすら出来ないから。

そして課題、課題、課題、勉強、勉強、勉強

これが、この一週間の間にあったことだ。

多忙な週末が駆け抜けて行き、そしてまた月曜日がやって来る‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<多忙な週末>でした。
途中出てきた河村姉弟の落書きは‥

スンキさんのお友達が描いてくれたそうですよ。お上手!
さて聡美はなかなか素直になれませんねぇ。太一ともどんな喧嘩をしたのやら‥。あぁもどかしい‥。
そして先輩との電話。
忙しい雪ちゃんにとっては、こうやって先回りして自分の欲しい答えをくれる彼氏って理想なのでは?!
と思っちゃいますが、雪ちゃんにとっては逆に負担‥というか心苦しくなっちゃうんでしょうね‥。
う~ん‥。
次回は<お人好しバカ、反撃する>です。
☆ご注意☆
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なんという一週間だったろう。
過去問盗難事件があり、そのせいで色々なことに振り回された。
しかし時の流れは恐ろしく早いもので、気がつけば雪は再び大学へと登校しているのだ。

そして週末も、あっという間に過ぎて行った。

本当に一日は二十四時間なのだろうか。
自分の周りだけ、その半分以下の時間で地球が回っているとしか思えない‥。

雪は白目を剥きながら、瞬速で過ぎて行ったこの週末のことを思い出していた。
土日の間は‥

まず、金曜の夜。
あの亮との対話の後、雪はなかなか気分を切り替える事が出来なかった。
「ああご立派な二人だこと‥!」

雪はブツブツ言いながら、ノートに河村姉弟のイラストを描いて、
それをペンでぐしゃぐしゃと塗り潰した。
怒り‥!

「ああご立派!ああご立派だこと!
いい加減に!いい加減にしろこいつらぁぁ!!」

その怒りをぶつけるように、夜遅くまでずっとPCを叩いていた。
土曜の朝は少しゆっくり出来るかと思ったが、それは突然の出来事によって白紙になる。
聡美の襲撃
「ゆきぃぃぃぃ~!」

なんといきなり、聡美が雪の実家に訪ねて来たのである。しかも号泣しながら。
「大げんかしたのぉぉ!太一のヤツとぉぉぉ!うぉぉぉん!」

玄関先で大きな声を上げて泣く聡美を、両親も蓮も驚きながら眺めていた。
雪はなんとか彼女を自身の部屋へと連れて行き、なだめながら話を聞く。
「どーしたのよ?!ほら水飲んで」
「分かんない‥いきなり超怒り出して‥」

聡美は膝を抱えながら、太一と喧嘩をしてしまった現状を猛烈に後悔していた。
「もうホントに終わりだぁ‥」
「ええ‥何言ってんの‥ちょ、ちょっと待ってね」

雪はアタフタしながら、とりあえず太一に電話を掛けた。
しかし太一は言葉少なに、ただ一言こう言ったのだった。
「俺‥考える時間が必要みたいっス」


スピーカーモードの太一の声は、隣に座っている聡美にももれなく届いた。
すると先ほどまでメソメソしていた聡美が、その答えを聞いて立ち上がる。
「あったま来た‥!おいこのガキ!時間って何よ時間って!
アンタ年下でしょ?!謝ったりはしないわけ?!」
「特に話すことはありまセン」「ちょ、ちょ!一旦切るから!」

雪が慌てて電話を切ると、聡美は再び大きな声で泣き出した。
そしてシクシク泣き続ける聡美を、長時間掛けて雪は慰めたのである‥。
そして、またデートのターン‥。
「そっか、仕方ないね」

その夜、雪は重たい気持ちを押して先輩に電話を掛けた。
明日、約束していた映画にはどうにもこうにも行けそうにない。
「ごめ‥本当にごめんなさい‥先輩‥」

雪は罪悪感に押し潰されそうになりながら、「ああ‥私もうめちゃくちゃだ‥」と小さく呟いた。
そんな雪に向かって、電話越しの先輩は優しく声を掛ける。
「雪ちゃん」

「俺は、雪ちゃんが俺と会うのを負担に思わないでいてくれたら嬉しい」
「え?!違いますよ!負担だなんてそんな‥!」

突然そう切り出した彼の言葉を、雪は弾かれたように瞬時に否定した。
しかし彼はまるで全てを見透かしているかのように、その話を続ける。
「忙しさに追われてる時って、周りのこと全てが負担に感じられるからね」
「‥‥‥‥」

そう言われて、雪はぐっと言葉に詰まった。
確かに先輩とのデートの約束が、課題や勉強の負担になっていたことは確かだからだ。
「俺が会おうって言ったって、絶対そうしなきゃって無理する必要は無いよ。
毎週デートするのも、電話するのも義務的に考える必要はないし」

まるで心の中を覗かれているかのような、彼の言葉。
雪は微かな違和感と共に、穏やかな彼の声を聞いている。

「俺はね、雪ちゃんがこういうことに囚われちゃうよりも、
気を楽にさせてあげる恋愛がしたいんだ。雪ちゃんにとって、そういう存在でありたい。
でも今、俺のことが雪ちゃんの負担になってるんだよな。ごめん」
「そ、そんなことないです!」

そう言ってどんどん持論を展開していく彼に、雪は大きな声でそれを否定した。
フォローするその言葉を、必死になって探しながら。
「先輩はその‥もう十~分過ぎるくらい私に気を遣って下さってますし‥?そのー‥」
「はは!」

きっとその慌てた様子が、電話越しにでも伝わったのだろう。
先輩は優しく笑うと、押し付けがましくない程度で彼女を楽にさせる提案をした。
「財務学会の課題が手に余るようなら連絡して。
一緒に勉強するのもデートだって考えてくれてもいいし」
「分かりました。ありがとうございます」

雪は頭を掻きながら礼を言い、そして二人はおやすみを言い合って電話を切った。
先ほどまで彼の声がしていた電話が、しんと沈黙する。


自分と先輩は確かに”彼氏”と”彼女”のはずだ。
はずなのだが、いつまでたっても対等になれない、なんとなくそんな気がした。
私は先輩に対して、またこんな風に謝って、ペコペコして、
申し訳なく思って‥これが、私の”恋愛”‥?

今胸の中にぼんやりと感じている違和感を、雪は心の中で言葉にしようと試みる。
恋愛というものはお互いを思いやることのはずなのに、
先輩はいつも私の気持ちをまず汲み取って、私が欲しい答えを先に差し出したりする

そしていつも、彼の気持ちはよく分からない。
ああ言ってる先輩だって、忙しくないはずないのに‥

雪の頭の中に、一年前の情景が浮かぶ。
あれはまだ彼が、世界で一番遠い存在だった時のこと。
その時のことを思い浮かべながら、雪は今の自分を省みる。
私は‥
私はあの人の為に、彼が望む何かをしてあげたことがあったかな


彼と会う時は楽しい話だけしようと、雪が決めたのはいつも彼がそう在るからだ。
いつも自分のことを考えてくれる彼の為に、自分は彼の望む何かへと、手を伸ばそうとしたことがあっただろうか‥。

ふと、机の上に置いてあるPCや教材が目に入った。
そこにはまだまだ完成までは程遠い課題や、やりかけの勉強が残っている。
「‥‥‥‥」

はぁ、と息を吐いて、雪は気持ちを切り替える用意を始めた。
とりあえずこれらをやっつけてしまわない限り、彼に会うことすら出来ないから。

そして課題、課題、課題、勉強、勉強、勉強

これが、この一週間の間にあったことだ。

多忙な週末が駆け抜けて行き、そしてまた月曜日がやって来る‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<多忙な週末>でした。
途中出てきた河村姉弟の落書きは‥

スンキさんのお友達が描いてくれたそうですよ。お上手!
さて聡美はなかなか素直になれませんねぇ。太一ともどんな喧嘩をしたのやら‥。あぁもどかしい‥。
そして先輩との電話。
忙しい雪ちゃんにとっては、こうやって先回りして自分の欲しい答えをくれる彼氏って理想なのでは?!
と思っちゃいますが、雪ちゃんにとっては逆に負担‥というか心苦しくなっちゃうんでしょうね‥。
う~ん‥。
次回は<お人好しバカ、反撃する>です。
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