両手をぶらんと下げた状態のまま、健太は雪の言い放った言葉を聞いていた。
”私に謝らなければならないのはあなただ”と、六つも年下の後輩からキッパリと言われたのだ。
握り締めた健太の拳が、ブルブルと震えている。
健太は俯きながら、まるで怒りを溜めているかのようにじっと押し黙った。
雪の今までの経験値と本能が、これはマズイとシグナルを送る。
その証拠に、健太がぐっと歯を食い縛っているのが見えた。
‥そろそろ爆発するか?
柳瀬健太の物事を受け止めるキャパシティが、そろそろ限界を迎えようとしているのだ。
今にも暴れ出すのではと危惧する雪だったが、次の瞬間、健太は意外にも静かに口を開き話を始めた。
「赤山」
「前のグルワん時、お前が俺の名前をレポートから消した時も感じたが‥」
「お前、俺に何か恨みでもあんのか?」
言葉を続けるほど、健太の形相はだんだんと凄まじいものになっていった。
しかし今言われたことは、雪にとっては心外である。
「はい?違いますよ、そんな理由じゃなくて‥」
その正当な理由を続けようとした雪だったが、遂にここで健太が爆発した。
「恵ちゃんの紹介の件だってわざとなぁなぁにしやがって!!」
「それでも可愛がってる後輩だから我慢して来たってのによぉ!
弟まで連れて来て俺をコケにするわ、今度は泥棒の濡れ衣まで着せようってのか?!」
「ひどすぎるだろうがよ!!あぁ?!」
「いつ私がそんな‥!」
その大声とオーバーアクションが、雪をどんどん後退させる。
しかし健太は本能のままに、その巨体を揺らして主張を続けた。
「俺は四年でしかも復学生だぞ?!今就活でストレスMAXだっつーのに、
お前は俺に汚名まで着せようってのか?!良心ってもんはねーのかよ!」
「あぁ?!」
あれほど固く決意していた心は、いとも簡単に崩れそうだった。
健太の前に立っている自分の足が、震えているのが分かる。
ぶっちゃけ‥話を始めてみたものの‥
さっきから本当に‥
コワイ‥!
190センチを越える巨体が、目の前で暴れている。
雪はぐっと唇を噛んで、今にも崩れ落ちそうな心を奮い立たせていた。
昔からこの人の前では、本能的に萎縮してしまう。この人が熊なら‥
私はリス
雪の脳裏に、ここ最近の自分と健太の関係性を象徴する場面が浮かんだ。
最近になってちょっと流せるようになってきたものの、
いつも頼まれれば拒めなかったのは事実だ。すぐに卒業するだろう、するだろうと思いながら
このまま頷いてしまえば、私は最後まで、この人に対して正しい事は何一つ言えないだろう
そして‥これからもずっと私は‥
雪の拳が、徐々に強く握られて行く。
健太に対する恐怖心よりも、それに屈する自分への抵抗が雪をこの場に留まらせていた。
「あん?!赤山ぁ!何か言えよ!赤山!赤山!赤山ってばよ!!」
雪は一度、大きく息を吸った。
そして自身を奮い立たせながら、自分の中にあるその正義を信じる。
「卒業試験にも落ちて、成績も芳しくなくて、ストレスを感じているのはよく分かりました」
「だからといって、いつまでそれを配慮しなくちゃいけないんですか?」
真っ直ぐに、前を向く。
もう”お人好しバカ”になるのは、懲り懲りだった。
「お願いですからもう止めて下さい。金輪際、こういったこと全て!」
さっきまで暴れながら大声で喚いていたその巨体は、雪の反撃を受けて暫くフリーズした。
今までの赤山雪ならば、ちょっと大声で脅せば頷いていたはずなのに‥。
「なっ‥?なっ‥な‥」
動揺する健太。目の前に居る後輩は、そんな自分に対して厳しい視線を送ってくる。
「今何て‥」
「それにしても残念でしたね」
「あんなことまでしたのに、結局何も手に入れられなかったんですもんね。
青田先輩の過去問だと思ってたものがー‥」
「結局直美さんの過去問だったんだから!」
三連打、と心の中で叫びながら、雪は遂にこの事件の真相を口にした。
健太はぐっと言葉に閊えながら、思わずその場で固まる‥。
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<健太との対決(2)>でした。
今回健太が雪に大声で迫る部分は、
作者さんのブログで、とある箇所のパロディになっていると明かされました。
亮さんとの対話の場面‥!ブログには「誰も気が付かなかった‥」と記してありました(^^;)
なんか‥亮さんのイケメンが際立ちますね(そこ)
さて次も<健太との対決(3)>です!
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