![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/03/4fb6fdd6548eff2977496b489aac3244.jpg)
雪がキョトンとして見つめる先に、河村亮が立っていた。
亮もまた、目を丸くしたまま二人の方を見ている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/35/bc5fbdef3c5e333b4a9617871acc81a8.jpg)
次第に雪は、その場に立ち尽くす亮の手に、木の棒が握られているのに気がついた。
ひっ!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/8a/2b311fcb1d613d898caa4d7409a67cc5.jpg)
雪は白目になりながら、ブンブンと首を横に振る。
ダメダメダメダメ!河村氏ダメ!下ろして下ろして!
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そんな雪の仕草を見て、淳は彼女の視線の先を目で追った。
そしてそこに立っている男を見て、あからさまに顔を顰める。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/0e/0454c39d063746721311541fc2ddbe71.jpg)
「行こう」「はい‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/70/4dbe09ccd64264882c553ba7d7abd78f.jpg)
淳は亮については何も言わず、そしてその表情を見ていた雪もそれには言及せず、二人はこの場を後にした。
少し歩いた後で雪だけは、チラと亮の方を振り返る。
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一瞬二人の視線は交差するが、すぐに雪は前を向いて淳と共に歩いて行った。
その場に立ち竦む亮を残して、二人の背中が遠くなる。
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雪が握り締めた淳の手には、この距離からでも分かるくらい血が滲んでいた。
その光景を見ている内に、全身から嫌な汗が吹き出し始める。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/04/169370a2250936c2ba13617266bc1082.jpg)
ドクンドクンと心臓が大きく跳ね、指の先から血の気が引いていくようだった。
亮は二人から視線を外し、淳の行動について自身の結論を出す。
いや‥アイツがどうしようが知ったこっちゃねぇ‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/b3/e0af373fb8f27941d47a0e70447e26e3.jpg)
雪を助けたのが淳だろうと、その後自分が睨まれようと、問題はそこではない。
今重要なのは、守ると決めた彼女が、
一歩間違えば大怪我をしていたかもしれないということーー‥。
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亮の視線の先には、先ほど雪を突き飛ばした巨体の男が居た。
男は柳や佐藤から叱責され、必死に言い訳か何かを口にしているようだ。
その横顔を見ている内に、亮の胸に轟々とした怒りが湧き上がる。
あの野郎‥
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あの野郎殺す‥女を掴んで揺さぶるなんて‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/c6/b22242487cb0f31a657e2d490ef712d9.jpg)
亮は木の棒を握る手に一層力を込めると、男に向かって一歩踏み出そうとした。
しかしその前に、再び雪と淳の方をチラと見る。
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寄り添いながら、この場から去って行く二人。
ヒヤッとした感覚が、全身に走る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/79/0abec7b27cb77253cd5a81f3fcdd5dfb.jpg)
二人から視線を外し、亮は再びあの巨体の男の方を見た。
男はこちらに気づいてはいない。今攻撃すれば絶対に復讐出来る‥。
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「‥‥‥‥」
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しかし燻る胸中とは裏腹に、亮は一歩も動けなかった。
足は地面にへばりついたように固まり、全身が強張って身動きが取れない。
カラン!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/40/49e4817476400901daf60078891f0884.jpg)
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亮は木の棒を投げ出すと、そのまま膝に手を付いた姿勢で俯いた。
嫌な汗が滝のように流れ、心臓は未だ大きく跳ね続けている。
ドクン ドクン ドクン
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脳裏に、先ほどの淳の姿がフラッシュバックする。
あからさまに顰めた顔。剥き出しのその嫌悪‥。
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以前淳と殴り合った時に言われた、あの言葉が蘇った。
お前に何の関係がある?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/45/770b0215e7d9e6a0750fe3ae99282a42.jpg)
淳の前にある、一本の線。
その線を超えることがどんなに恐ろしいことか、過去の記憶が亮に警鐘を鳴らす。
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心の奥底に仕舞ってあったそれが、不意に顔を出した先日の出来事。
オレの感情‥
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真正面からぶつかって来た彼女を前にして、思わずそれが溢れそうだった。
握り締めた彼女の細い腕、自分を見上げるその透き通った瞳‥。
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感情は時に理性を忘却させ、決められている線が曖昧にしか見えなくなることがある。
そのことを、先程の淳の手を目にしてハッキリと思い出した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/f7/2de2bde288990bb2b04e451537af79c0.jpg)
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輝く未来へと導いてくれるはずだった十本の指が、無残にも砕け散るあの音。
あの衝撃。あの痛み。
おそらく生涯、忘れることは出来ない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/dd/7eaa79a37218bc063386ab915c0d64af.jpg)
亮は両膝についた自身の手が、今も動かないような錯覚に陥った。
まるで呪縛のように、自身を過去に縛り付ける。
亮は確かめるようにぐっと、左手に力を込めてみた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/80/95374746d843083d81570d283c3cf7f6.jpg)
確かに力は入った。
入ったけれど、指先は冷たく震え、思うように身体が動かせない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/b8/e6d05c61aba6da948f87f982bed40c4c.jpg)
記憶の彼方に、満足そうに笑っている高校時代の自分が見えた。
いつか本当の家族になれるんじゃないかと、甘い夢を膨らませていたあまりにも無垢な自分がー‥。
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あたしたち三人で
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/1a/7430071f1a1488cf10ca1715c60cabbf.jpg)
頭の中で、声がする。
あれは甘い夢へと誘う、若き日の姉の声。
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あたしたち三人だけで‥
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亮の記憶は、深く深く沈めたあの事件へと潜って行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<呪縛>でした。
遂に‥遂にここが亮の左手事件への入り口なのですね‥!
長かったですね‥。
健太直美健太健太直美健太‥の過去問騒動の後だから余計にスリリングに感じます!笑
さて次回は<<亮と静香>高校時代(21)ー向けられた背中ー>です。
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