
赤山雪はじっと足元を見つめながら、長いことその場に立っていた。
ここ、講義室の裏にある駐車場にて、先ほど柳瀬健太と会う約束をしたのだ。

やがて連続講義を終えた健太は、急ぐことなくこの場所へとやって来た。
そして俯いている後輩に向かって、素知らぬ顔でそのわけを尋ねる。
「さて何の用かな?赤山よ」


互いに目を合わせようとしない二人の間を、ひゅうと北風が吹き抜けていく。
雪はやはり健太の方へは視線を向けないまま、ポツリと話を切り出した。
「大体見当ついてると思いますけど‥」

その雪の言葉に、わざとらしく首を捻る健太。
「ええ?何をだぁ?」

しらばっくれるのは想定内。
雪は冷静に、その続きを口にした。
「なぜ直美さんに、あんなことなさったんですか?」

「ん?何‥」
「不自然なほどお節介を焼いて、大きな声出してゴタゴタに発展させて‥」

続ければ続ける程、健太の顔がみるみる歪む。
「一体どうして私個人の問題をそんなに気にするんですか‥」
「ちょ‥何だよ‥」

そして健太は、いつもながらのオーバーアクションで大きな声を上げた。
「どういうことだかサッパリだぜ?
糸井が何をしたのかは、赤山の方がよく知ってるだろ?」

「先輩として俺が、赤山の代わりに言い出してやったってのに‥」
「だからこれは、私の個人的な問題です。健太先輩が関与してくるのはー‥」

「違うでしょう」

雪は強い意志を持って、健太に自分の気持ちを伝えた。
しかし依然として、健太と目は合わせられない。


健太は先輩の厚意(表向きだが)を無下にする赤山雪のことを、ぽかんとした表情でじっと見ていた。
しかしその不満そうな顔を見ている内に、健太の心が苛立ちで騒いで行く。

そして遂に、健太は声を荒げた。
「おい赤山!ひどくねぇ?!」「?!」

「俺ゃあこんなにも赤山のことを‥」
「それとも、」

雪はそこで、健太の芝居がかった言動の流れを切る。
「何か後ろめたいことでもあるんですか?」

その言葉が放たれた瞬間、健太がピタリと止まった。
沈黙が落ちる二人の間を、吹き抜けて行く風の音だけが聞こえる。

健太は、あからさまに動揺していた。
パクパクと言葉にならない声が、その青白い唇から漏れる。

「は‥はぁ?何言って‥」
「だって明らかにおかしいですよ。
正直健太先輩って他人事に無関心な方なのに、わざわざ首を突っ込んで事を荒立てて‥」

そして雪の持つ秘蔵カードが、遂に健太に差し出された。
「学科長の所にも‥お一人で行かれたんですよね」
「!!!」

健太が受けたその衝撃は、かなり凄いものだったらしい。
健太は両手をぶらんと下げながら、差し出されたジョーカーの前に言葉を失くす。
二連打‥

”明らかにおかしな言動”と”学科長の元を訪れた”という二段コンボの雪の攻撃。
それは見事に、健太の図星を突いたようだ。
やっぱりね‥

その証拠に、目の前の健太はおかしいくらいに動揺している。
なんだ?なんの話?意味分かんな~い‥。
誰に聞いたの?学科長の件‥

雪は改めて確信した。過去問を盗んだ真犯人は、柳瀬健太だと。
そしてその事実は、俯いてばかりだった雪を奮い立たせる。
「やっぱり」

「どうやら私に対して謝らなければならないのはー‥」

「直美さんではなく、健太先輩のようですね」


健太は目を丸くして固まっていた。
さっきまで下を向いていた後輩が、強い眼差しで自分の方を睨んでいるーー‥。

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<健太との対決(1)>でした。
健太‥ちょ‥ごまかすのが下手すぎる‥

よくこれで今までやって来れましたよね‥。逆に感心しますよ‥。
では彼氏彼女の事情の雪野さんに、健太に言ってやってもらいましょう。

こんな風にね!

さて雪ちゃんの追及はまだまだ続きます~
次回<健太との対決(2)>です。
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